愛の献血運動③
ミラーカさんは仮面を外すと絶世の美女だった。
今までこの世界で出会った中ではセシルさんがぶっちぎり1位の美人(ただし中身は残念)だったが、ミラーカさんもそれに負けず劣らずの美しさである。
人外だと美しさが限界突破しやすいのだろうか。
「すでにお察しの通り、私は吸血鬼です。種族の弱点として日光アレルギーがあります。日中外出するにはマント、手袋、仮面の三点セットが必須なのです。日傘程度ではすぐに火ぶくれになってしまいますので」
「大変なんですね」
「今回の依頼もそれに関係することなのです」
俺とソニアさんはテーブルを挟んでミラーカさんと向かい合って座っている。
断るつもりだったのに、思わずミラーカさんの素顔に見とれてしまい、逃げるタイミングを逸してしまった。
仕方がないので、一応、依頼内容だけは聞こう。
引き受けるつもりはあんまりないけど。
「私は前世から手芸全般を趣味としておりまして、現在は糸紡ぎと機織りを主な仕事として働いております。領主様肝いりで建てられた紡績工場があって、そこで…」
紡績工として雇われて勤続7年目なのだそうだ。
吸血鬼が紡績工…ミスマッチ感がすごい。
ゴシックホラーから女工哀史にワープしたような気分。
そもそも吸血鬼を工場労働者として採用するあたり、この街の領主は肝が太いというかなんというか。
従業員が危ないとか思わなかったのだろうか。
…思わなかったんだろうな、『シ〇シティ』の人だから。
「日がな一日、日光の差し込まない薄暗い工場で糸をつむいだり機を織ったり、用事がなければ外に出ることもなく何十時間もトントンカラリと機を織り続けて、天国のようでした」
「それ天国ですか?」
吸血鬼がまさかの社畜。
「でもそんな幸せな生活が続けられなくなるかもしれなくて…」
ミラーカさんはどんよりと視線を下げた。
「生産性を上げなければならないとのことで、新しく近代的な工場に作り替える計画が持ち上がっているのです。大型の織機を入れ、人を増やし、明るく健康的な工場にすると。私は反論しました。他のことはともかく、『明るく』はダメだと。繊維に日光は良くないと。紫外線で変色するかもしれないと訴えました。けれど却下されました。普通の人間は薄暗いと手元がよく見えないからと。『誰もが君のように暗闇で物が見えるわけじゃないんだ』と工場長に言われてしまいました」
悔しそうなミラーカさん。
吸血鬼は暗視スキルとかありそうだよね。
でも普通の人間にはないんだよね。
悪いけど工場長の意見は正しいと思うよ。
最大多数の最大幸福という観点からすると、吸血鬼1人の幸福よりその他労働者10人の幸福方が優先なんだよ。
「『明るい』工場になってしまっては私はそこで働くことができません。『明るい』場所では体調不良が避けられませんから。でも私は紡績工の仕事を続けたい。そこでアーウィンさんにお願いです。私が工場で働き続けるために『暗闇ランプ』の入手を手伝ってください」
ミラーカさんがぺこりと頭を下げる。
「依頼内容は『暗闇ランプ』の入手補助ですね」
ソニアさんが依頼書に記入している。
ところで素朴な疑問だけど…。
『暗闇ランプ』って何?




