愛の献血運動②
挿絵を入れてみました。MicrosoftCopilot生成。
俺に名指しで声をかけてきた怪しい人物、略して怪人。
「どちらさまでしょうか」
「私はミラーカと申します」
「失礼します」
くるりと踵を返して立ち去ろうとすると、服の袖を掴まれた。
「逃げないでください。話を聞いてください」
「いや逃げるでしょ。その名前聞いたら」
「名前は単なる記号です。話を聞かない理由にはなりません」
「なりますよ。ミラーカってアレでしょ、古典的怪奇小説で有名な女吸血鬼カーミラの偽名でしょ? 文字の順番を入れ替えただけってやつ」
「ネタばれはよろしくありません」
「ネタばれじゃねーし。名前で吸血鬼なのがモロバレだから距離とってるだけだし」
「人種差別はよろしくありません」
「ポリコレか! 人種差別ってそういうのじゃねーわ!」
袖を掴む手を振り払い、俺はダッシュで逃げた。
人種差別っていうのは『エルフは客としてレストランで食事していいけどダークエルフは店に入るのもダメ』とかそういうことだと俺は思う。
少なくとも『道で吸血鬼に呼び止められたら話をちゃんと聞かなきゃダメ』という意味ではないはずだ!
吸血鬼は人種というより、広い意味でのアンデッドモンスターで、しかも危険度Max!
危険なモンスターからは逃走あるのみ!
献血直後で激しい運動は避けろと言われているけど、今はそれどころではない。
走るんだ、全力で!
※
「逃げきれませんでした」
「あんた何やってんのよ」
ソニアさんの呆れ顔。
俺は今、冒険者ギルドにいる。
横にはミラーカさん。
ミラーカさんの身体能力は高く、全力疾走しても振り切ることができなかった。
楽々と追走されて、見るからに怪しい人なだけに銀猫亭にトレインするわけにもいかず、迷った末に、今ココ。
「ギルドに来れば誰かがなんとかしてくれるのではないかと」
「甘ったれるんじゃないわよ…と言いたいとこだけど、新人に依頼主対応は荷が重いか」
ソニアさんはミラーカさんに綺麗なお辞儀をした。
「いらっしゃいませお客様、冒険者ギルドへようこそ。あらかじめ申し上げますが、当ギルドでは血液採取は請け負っておりませんので、ご了承ください」
「それは承知しております」
「それではどのようなご用件でしょうか?」
「こちらのアーウィンさんにダンジョンへ同行して欲しいのです」
「この者はまだ半人前ですので戦力としてはお勧めいたしかねますが」
「だからこそです」
ミラーカさんの決然とした様子に嫌な予感がした。
「ビギナーズラックを持つというアーウィンさんに、その強運を貸してほしいのです」
「その情報はどちらから?」
「ダニエルさんという方から伺いました」
あの人かー!
※
ミラーカさんに簡易鑑定を行い、前科がない一般市民であることが確認されたので、ソニアさんはミラーカさんを個室に案内した。
個室と行っても事務室の一部をパーテーションで区切っただけの、窓すらない空間だが。
こっそり退出しようとした俺はソニアさんに首根っこを掴まれた。
「あんた指名されてるでしょうが」
「やりたくないんですけど」
何が嫌って、ミラーカさんの怪しさもだけど、ダニエルさんの名前が出たあたりがもうダメ。
チュートリアル以来会ってないけど、盗賊=詐欺師のイメージをインプリンティングしてくれた人だ。
その悪印象は未だ薄れていない。
こっちもダニエルさんをぎゃふんと言わせるべく間接的な仕返しをしたので、お互い様という面はあるが。
とにかくダニエルさんに個人情報漏洩されたと思うと、腹が立つ。
ビギナーズラックのことは隠してはいないので、エバちゃんやバートラムさんあたりポロっと口に出しそうだし、そうされても気にならないと思うが、ダニエルさんにされるとなんか嫌。
「この件はお断りで」
「詳細聞く前に門前払いなんかできるわけないでしょ」
俺とソニアさんが押し問答をしていると、
「あの、失礼ですが、少々暑いので、装備を外させていただきますね」
ミラーカさんがフードを外すと、長い銀髪がふわりとこぼれた。
分厚いマントを脱ぐと下は簡素ながら品の良いワンピース。
手袋を外すと白くて細い手が出てきた。
そして仮面を外すと、
「ああ、これを取るとホッとするわ」
透き通るような白い肌、赤い瞳、濡れたような赤い唇。
思わず息を呑むほど美しい女性の顔が現れたのだった。
吸血鬼ミラーカ、マジ美人!!
美醜に関しては個人の主観に左右されるかと思います。ミラーカさんの顔は主人公の目で見れば美人だったということで。




