夏の日の君に
挿絵を入れてみました。MicrosoftCopilot生成。夕日の海で泳いだ後、水面に上がってきたハリーの絵です。そしてエバちゃん。
なんだかエバちゃんが『結婚』とかなんとか、らしくない台詞を口走っているけど、まあ頭に血が上ってるだけだろうから、ほっとけばそのうち醒めるだろう。
そんなことより。
「ありがとうございますハリーさん。危うく溺れるとこでした」
「友達同士、助け合うのは当たり前のことだよ」
それはそれとして。
「凄い大技でしたね! あんなの初めて見ました!」
そう、純粋に『凄い!』と思ったのだ。
今まで色んな人の魔法や技を見てきて、それぞれ凄いと思ったけど、ハリーさんのあれは一線を画するものだった。
なんていうか、人間わざを超えた大自然の驚異みたいな、度肝を抜かれるスケール感に圧倒されたのだ。
「高いとこから落ちてましたけど、大丈夫ですか?」
「あんまり大丈夫じゃないかな」
アハハ、と笑いながらハリーさんはぐらりと傾き、そのまま倒れた。
「あー、やっぱり無理してたんだ! レスキュー! こっち重傷者ー!」
「なんでそうやっていつも倒れるねん! 学習せえアホー!」
※
冒険者たちにより浜辺のカレー屋に運び込まれたハリーさんは店主の熱い…もとい、手厚い治療を受け、すぐに回復した。
浜マンドレイクが凄いのか、魚人の体力が凄いのか。
どちらかといえば後者だろうか。
海の主を倒した英雄なわけだし。
「いや、倒してないよ」
「え、逃がしたんですか?」
「奥義を使っても仕留めきれなかったからね。今回も僕の負けだな」
少し残念そうにハリーさんは言うが……双方生きてるんなら引き分けなのでは?
「僕には追いかける力が残ってなかったのに、あっちは悠々と泳いで行ったからね。勝敗は明らかだな」
ハリーさんによればクラーゲンは海中に潜った途端に元気づいて、短くなった触手で何やらジェスチャーらしきものを示して去っていったそうだ。
「あれは多分『覚えてろ』とか『次はこうはいかない』とかそういったニュアンスだね」
「そんな好敵手みたいなこと考える知性ありますかね?」
だってクラーゲンってクラゲだよ?
脳みそないよね?
「海の主だからね。人間以上の知性があってもおかしくないさ」
「せやな。この島の海は何でもありや。クラゲに知性が芽生えてもおかしないわ」
エバちゃんまで。
まあ二人がそういうなら、そういうもんなのかもしれない。
※
やってきました冒険者ギルド。
「魚売りたいんですけどー」
「魔物素材ならともかく、鮮魚は買い取り対象外よ!」
ソニアさんに買い取り拒否されてしまった。
ちっ、せっかくとれたて新鮮なアンコウを持ってきたのに。
あとなんだか名前がわからないけど深海魚っぽいやつ。
仕方がないから銀猫亭に持っていくか。
女将さん、アンコウ鍋とか作ってくれるかな?
「グレートバカンスアイランドで獲れた魚ね? エバちゃんどうしたのよ。二人で行ったんでしょ」
「なんかまだ帰りたくないから2~3日粘るって言ってましたよ」
エバちゃんは釣りにハマったようだ。
『大物釣りあげるまで帰らへん。あんた邪魔やから先帰り』
と追い払われてしまった。
誘っといてその態度。いつもながら横暴な先輩である。
「夏の海で2~3日…さては男ね?」
「ありえないわ!」
ソニアさんがしたり顔で言うのに対し、セシルさんがテーブルをバンと叩く。
「あら、いいじゃない。あの子も年頃なんだし、恋の一つや二つ」
「認められないわ! そもそも今は夏ではないし、リゾート地で初めて会った人と恋に落ちるとか、そんな展開ありえない!」
「ありえなくはないでしょ。グレートバカンスアイランドはいつでも夏みたいな気候だし、浜辺はみんな薄着になるし、心も開放的になっちゃうし」
「冒険者にそんなリア充イベントあっていいはずがないのよ!」
私にはそんなイベント起きないのにぃ~、と絶叫するセシルさん。
安心してください、エバちゃんにもそんなイベント起きてませんから。
彼女が仲良くなった男といえばハリーさんとカレー屋の店主くらいで、カレー屋の店主とは浜マンドレイクの採取方法について聞き出そうとする関係ではあるけれど、それ以上でも以下でもない。
ハリーさんとも友人以上の関係には進まないのではなかろうか。
だってお互い住む世界が違うし。水中と陸上という意味で。
そんなわけだから、多分本当に釣りがしたいだけだと思うのだ。
竜巻被害とその後の浸水被害の片付けボランティアを半日務めてから、エバちゃんは滞在延長を決め、俺は帰還を決めた。
日帰りダンジョンだけど泊まり込む冒険者もいないわけではなく、寝泊りできるセーフティーゾーンがあるそうだ。
エバちゃん一人でも危なくはないらしいし、ハリーさんの友達だってことも今回知れ渡ったようなので、手出しするやつはいないだろう。
ハリーさんは『負けた』と自分では言っているけど、客観的に見れば島を守った英雄だ。
ちょっと体力の配分を考えないとこがあるけど、海の強者には違いない。
そんな強い人がバックについているんだから、安心して釣りを楽しんだらいいと思う。
それにしてもエバちゃんは一体何を釣るつもりなのか。
「エバちゃん大物釣りたいらしいんですけど、バカ島で釣れる大物って何ですか?」
「サメかしら」
B級映画?
「サメは持って帰ってほしくないですね」
「同感ね。持ち帰るならシーサーペントの鱗くらいに留めてほしいわ」
買い取りカウンターに生きたサメを出されたら、ソニアさんも困るのだろう。
「男をお持ち帰り…いえ、ありえない…」
何かブツブツ言ってるセシルさん、ちょっと目がハイライト消えかけてて怖いから見ないことにする。
うん、俺は何も見ていない。
「じゃあ俺は帰ります。魚が新鮮なうちに女将さんに渡したいし」
「次は買い取りできるもの持ってきなさいよ」
宿への家路を急ぐ。
そろそろ夕日で西の空が赤く染まり始めている。
エバちゃんはまだ岩場で釣り糸を垂らしているのだろうか。
バケツには本日の釣果が入っているだろうか。
足元の海には緑の髪の男がうつぶせに浮いていたり……。
…エバちゃん、釣りたいのは魚だよね?
波間にプカプカ漂う、強いくせに危なっかしくて手のかかる、人懐っこい笑顔の魚人では…ないよね…?
登場人物紹介ページのイラストで、
「陽気で人懐っこい性格と筋肉は表現できているが、『セシルが見ても納得するであろう美貌』は表現しきれていないのではないか?」
という疑問が芽生えたため、Copilotに『美貌を強調したハリーを描いて』と依頼して出来上がったのがこちらのイラストです。
題して『水も滴るいい男』。
首にちょこちょこと描いてある線は水中呼吸用のエラです。耳は潜水時に蓋をするため魚のヒレのような形に変えています。イラストでは目を閉じていますが、水中では瞬膜で眼球保護してると思います。
バカ島編、終了です。
これでストックが尽きたので、また当分更新ストップですね。
お気づきの方もいらっしゃると思いますが、今回のエピソードタイトルはいずれも80年代〜90年代に流行った曲の曲名または歌詞のもじりです。
ノリで始めたは良いものの、途中で内容に合うタイトルを付けるのが難しくなり、苦労しました。
もう二度とやんない、こんな面倒な事。(と言いつついつかまたやりそうな気がする…面白ネタを思いついたら)




