いとしのハリー
津波に近い水害の描写があります。苦手な方はご注意ください。
誰でもそうだと思うけど、光ってる物があるとついそっちを見ちゃうことってあるよね。
ハリーさんが大技を撃とうとするその瞬間、俺はついうっかり光を放った短剣を直視してしまった。
「う、眩しい!」
真夏の太陽みたいなな眩しさで、反射的に目を瞑った俺。
なのでハリーさんがその時何をしたのか見ていない。
俺が見たのは約2秒後、目を開けた時の光景だ。
さっきまで存在しなかった竜巻が目の前の海に出現していて、大量の海水と海の生き物を空中に巻き上げている、そしてその竜巻の中にクラーゲンとハリーさんがいる光景。
吹き荒れる暴風、クラーゲンの巨体を軽々と浮かせるほどの巨大な竜巻、その中を生身で飛んでいるハリーさん。
いや、あれって自由意思で飛んでるの?
魚人ってそんなことできるの?
呆然と空を見上げていたら、
「何してんねん!」
ドスン!
エバちゃんにどつかれた。
「逃げるんや! 竜巻やで! 巻き込まれたらえらいこっちゃ!」
「た、確かに!」
竜巻だよ、トルネードだよ!
日本ではあんまりお目にかかることがないけど、アメリカあたりでは時々発生して、進路上にある建物をことごとく破壊してたりするニュース映像を前世で見たことがあるじゃないか。
吸い上げられて高所から墜落したらもちろん死亡は免れないだろうし、そうでなくても飛んでくる木切れや貝殻に直撃されたら…貝殻の縁でスパっと切られる自分を想像してゾッとした。
「物陰に隠れるんや!」
「はい!」
他の冒険者たちも竜巻から遠ざかるように走り出す。
ある者は岩場に、またある者はカレー屋の中に。
エバちゃんと俺は松林に逃げ込んだ。
太い幹の後ろに身を隠す。
その背中を追いかけてくる暴風、叩きつけてくる小石交じりの湿った砂。
しゃがみ込んでいるのに風で体が浮きそうになる。
大丈夫だよね、松の木ごと飛ばされたりしないよね!?
何十秒耐えただろうか。
ふいに風が止んだ。
恐る恐る体を起こして様子を見ると。
竜巻が消失して、クラーゲンとハリーさんとその他諸々が空から海面へと落下するところだった。
……ある程度の高さから落ちると、水面ってコンクリート並に硬くなるんじゃなかったっけ?
そんな前世の雑学が脳裏をよぎる。
でもどうしようもない。
誰もがどうにもできないまま彼らは海に墜落して……。
ものすごい水柱が立った。
船くらいあるクラーゲンが勢いよく落ちてきたのだから当然だが、その体積分の海水が同じくらい勢いよく押し出されるわけで。
「アルキメデスの風呂かー!」
大量の海水が浜辺を洗った。
松林に押し寄せた波に足元をすくわれてエバちゃんが転んだ。
「あ~れ~」
エバちゃんにつかまれて俺も転んだ。
「まじかー!」
引いていく波にもっていかれまいと松の木につかまろうとするも虚しく、指は濡れた樹皮を滑って、俺たちは砂浜を流された。
波の力って、すごい。
「アーウィンのアホー! もっとしっかり支えんかい! ゴボゴボゴボ……」
「エバちゃんが俺を道連れにするからでしょー! ブクブクブク……」
魚人じゃないから水中呼吸は無理。
頭の上まで水に浸かってしまっては口げんかも無理。
あ、これ本当に死んだかも。
水中から見る太陽、綺麗だなあ。
2度目の人生、もうちょっと生きたかったなあ、せめて職業が決まるまで……。
これまでの短い人生が走馬灯のように……。
次の瞬間、すごい力で水面へと持ち上げられた。
太陽がまぶしい……けど空気が吸える!
「大丈夫かい?」
髪の毛から雫を垂らしながら、片手にエバちゃん、片手に俺をぶら下げて人懐っこい笑顔を見せるハリーさんがそこにいた。
「……結婚してもええかも」
小さく呟くエバちゃん、それは釣り針効果、じゃなくて吊り橋効果!!




