クレリック ②
挿絵を入れてみました。イメージイラストです。MicrosoftCopilot生成。
近くの森。
それは俺のイメージでは某錬金術ゲームにおける最初の採取地である。
日帰りできて、見た目栗なんだけど栗じゃない物が採れて、日食の日にはレアなキノコが採れる場所。
だけどこの近くの森は何かが少し違っていた。
「グレアムさん」
「なんでしょう」
「俺、森って針葉樹がたくさん生えてるイメージだったんですけど」
「ああ、わかりますよ。ヨーロッパの森林のイメージですね」
「だけどこの森」
「似ても似つかないですよね」
近くの森は一面桜の花盛りだった。
どこもかしこもピンク、ピンク、ピンク、たまに白。
公園の花見じゃないんだから。
「なんでこんなに桜だらけなんですか」
「一説によると古代の女王にサクランボが大好物な人がいたらしいです。その女王が魔法使いに桜を品種改良させて、味の良い実がたくさん実って、なおかつ丈夫で枯れにくい桜を作らせたそうです」
「だからって森の樹がほとんど全部桜だなんて」
「考えてみて下さい。たくさんのサクランボが実るんです。たくさんの種が出来るんです。そして生えたら枯れないんです」
「まさか」
「雨後のタケノコのように増殖したそうです。野生動物が種を運ぶのですから。事態に気づいた時にはすでに手遅れ。他の樹木を駆逐して、一時は大陸中の野山がピンク色に染まったそうです。当時の人は駆除に苦労したでしょうね。今でも定期的に伐採して広がるのを防いでいるんですよ」
まさかのセイタカアワダチソウ状態。
「でもまあ程よく生えてる分には悪い物ではありません。初夏にはサクランボが食べられますし。無料で取り放題ですよ」
「はあ。サクランボ食べ放題ですか」
それって嬉しいんだろうか。
バケツ山盛りのサクランボを思い描いてみた。
そんなに要らない、食べきれないし。
「こっちの世界では貧乏人のフルーツと呼ばれています。地球では高級品でしたけどね。あ、ほら、あれが薬草ですよ」
桜の木の回りに下草が生えている。
その中で一際目立つ草があった。
「ヒマワリに見えるんですけど」
「見えますねえ、ヒマワリに。でもあれが薬草なんですよ」
グレアムさんはニコニコ笑いながらヒマワリ薬草の茎をポキリと折った。
「見た目はヒマワリですが、タンポポのような多年草です。根っこを残しておけばまた生えます。薬として用いられるのは、乾燥して種ができていれば、種と種の殻、それに花托と呼ばれる部分、種子の土台ですね。ここの所です」
「はあ、つまり花の真ん中辺だけですか。葉っぱや茎は要らないんですか」
「大きく伸びる前の若くて柔らかい葉は採取対象です。具体的には高さ15センチまでの物ですね」
若い芽を採るのか。
ワラビやゼンマイ、或いはアスパラガスなどに近い扱いなのだろうか。
「種ができる前の花も買い取り対象です。花びらが染料になるのですよ」
紅花みたいなものだろうか。
それはともかく。
「ヒマワリと桜が同時に咲いてるって季節感狂うんですが……」
今は春なのか、夏なのか?
「こいつら一年を通していつでも咲いていますから、季節感なんか微塵もないですよ」
グレアムさんはアハハと笑った。
俺も笑った。
笑うしかなかった。