????ダンジョン
その日は大地が鳴動したらしい。
後から聞いた話によると、領主邸や町の中心部辺りでは震度3くらいの揺れがあったとか。
被害は少なかったが、この世界では地震は珍しいそうで、割と話題になったそうだ。
「へー、地震があったんですね」
「お前さん領主邸のダンジョンに潜ってたんだろ。地下は揺れなかったのか?」
「うーん、あんまし気づかなかったような?」
俺は今、ギルドの酒場でノンアル片手に雑談中。
エバちゃんとセシルさんは姿が見えない。
ダニエルさんがいないのはいつものこと。
グレアムさんは神殿でお勤めの日だ。
酒場にいるのは俺とバートラムさんと、後は見慣れない冒険者が一人いるくらい。
なので雑談の相手はバートラムさん。
「ダンジョンで何かあったんじゃないかってもっぱらの噂なんだが」
「そう言われても」
有益な情報を期待されてるんだろうけど、あいにく出せる情報が大して無いのだ。
行ったことは確かだけど、何があったかと言われると……。
「気がついたら地上にいたんですよね。よほど疲れてたのか、断片的なイメージは浮かんでくるんですけど、どうやって戻ってきたのかサッパリで。思い出す事も本当にあった事なのかどうか。夢の中の出来事のような気もするし」
「話してみろよ。聞いてやるから」
「えーっと……」
花子さんがグレーターデーモンの巨体を引き倒して盾に取って爆発から身を守ってる図とか。
サキュバスとそれを取り巻く複数のインキュバスが揃って吹き飛ばされて宙を舞ってる図とか。
エバちゃんと見知らぬ少年が倒れ伏し、それでも懲りずに口喧嘩を続けてる図とか。
部長さんが小さなホイッスルみたいなのを口に咥えてる図とか。
馬の大群が通過していく光景とか。
悪魔の大群が通過していく図とか。
セシルさんがユニコーンに追いかけられて逃げ回ってる図とか。
瀕死のインプを手のひらに乗せて、どこかへフラフラと歩いて行こうとする自分とか。
およそ脈絡もなく、ありそうに無い光景ばかりが浮かんでくるのだ。
「なんか音の無い光景ばっかで、夢だったのかも」
音声の記憶は一つだけ。
会長さんの声で、
『む、これはいかん。緊急オペだ!』
という叫びを聞いたような、聞かなかったような。
「なるほど。そりゃただの夢だな」
「そうですよねー」
「フラワーデザイナー連盟の会長って、お上品なオバサンだろ? あの細腕でグレーターデーモン引き倒すとか有り得んし」
「ですよねー」
「あのダンジョンに悪魔はともかく馬の大群は有り得んし」
「ですよねー」
「ユニコーンに追い回されるセシルだっけ? 本当にあったら笑えるぜ」
「ですよねー」
というわけで、確かな事実はと言うと、成果は何も無く、時間を超過したため罰金を納めなくてはならなかったということだけだ。
コツコツ貯めてきたお金が……。
「罰金取られて得るものなしか。残念だったな」
「ですよねー」
「まあ他にもダンジョンはあるからな。また稼げばいいさ」
「そうですねー」
領主邸のダンジョン……なんか特別な呼び名があった気がするけど思い出せない……は再び封鎖されて、誰も入れない。
入る必要も感じない。
「ところでお前のその棒、前からそんな模様あったか?」
「これですか?」
傍らに置いていた棒を持ち上げる。
市販の『さくらの棒』と形は同じだが、ワンポイント刻印が入っている。
「このワンポイントがいいでしょ?」
「コウモリの羽根みたいだな。職人の印か?」
「さあ? よくわかりませんけど、丈夫なんですよ、これ。手作りの逸品かも」
「さくらの棒に逸品ねえ。どこで買った?」
「覚えてないけどいつもの武器屋でしょ。他に買うとこないですもん」
「あの武器屋に逸品があるか?」
※
フードを深く被った小柄な冒険者が席を立つ。
代金を置くその手は子どものように小さい。
ワンポイントの入った棒について論じ合う二人の横を通り過ぎ、酒場から出る。
フードの下でニヤリと笑い、呟く。
「職人の逸品、ね。大事にしてよね。僕のこの町での最後の仕事なんだからさ。君に身を委ねた小さな悪魔のためにも……ね」
・『インプの棒』
『さくらの棒』のパワーアップバージョン。確率で『忘却』の効果を与える。
必要素材:さくらの棒×1、インプ×1。
・『忘却』
暗黒魔法。対象の記憶を一部消去または想起困難にする。どの記憶を操作するかは術者が任意に選べる。
ストックが尽きたので、しばらく更新休みます。
アパレルダンジョンは封鎖され、どうやら悪魔使いが1名、野に解き放たれた模様です。
主人公は『成果無し』と思ってますが、実は装備がちょっとだけ良くなっています。
本人がそれに気づくことは無さそうですが。




