アパレルダンジョン⑦
挿絵を入れてみました。MicrosoftCopilot生成。
黒のフォーマルスーツ。
そのオーダーを口に出した直後、何かの声が聞こえた。
『素材を入れよ』
素材?
戸惑う俺の前にいかにも『別の空間に繋がっています』という感じの黒い穴が開いた。
ここに何か入れろと?
大したものは持ってないんだけど。
とりあえずインプのお恵みの穴あき軍手を突っ込んでみる。
一応、両手をセットで。
それらを吸収するように穴が閉じた。
何かの作動音がし始めた。
たとえて言うなら、洗濯機が動き始める時のような……。
それがピタリと止まる。
青紫色の重厚なカーテンが勢いよくめくられて、小さな人影が飛び出してきた。
「ふざけてんの? ねえ、ふざけてんの?」
それは見た目小学生くらいの少年だった。
掴みかからんばかりの勢いで俺に向かってくる。
「あんなゴミ入れてスーツ? しかもブラックフォーマル? はあ? 本気で言ってんの? あんた何歳? 大人だよね? いくら魔法のある世界でも出来ることと出来ないことがあるってわからない? わからないなら幼稚園からやり直すといいよ。この世界に幼稚園ないけどね!」
すっごい早口。
立て板に水。
「軍手? それでどうやったらスーツ作れると思うの? 明らかに素材がかけ離れてるし、そもそも量的に足りてないよね? 魔力だって全然足りない。せめて魔物素材でもあればまだしも!」
ひとしきりまくしたてると、びしっと指さして、
「やり直し! 今度はちゃんとした素材を入れてよね!」
少年はカーテンの向こうに戻っていった。
しばしの沈黙。
「あれ何でしょう?」
「さあ? 前来たときはいてへんかったな」
「誰か知ってる?」
互いに顔を見合わせるが、誰もがキツネにつままれたような反応。
「まあ、やり直しや言うてんから、やり直したらええんちゃう?」
「はあ」
再びオブジェに手を当てる。
空間に穴が開く。
『素材を入れよ』
軍足とTシャツ入れてみる。
量的に足らないと言われたのを思い出して、ダメージジーンズも入れてみる。
再び作動音がして……。
「ふざけてんの!?」
再びカーテンがめくられて少年が飛び出してきた。
「ゴミ入れるなって言ったよね!? 言わなかったかなあ! 遠まわしすぎて伝わらなかった? だったら伝わるように言い直してあげるよ。君が入れたのはゴミ! 素材ってのはきちんと分解して再構成できる物のことを言うんだよ! ダメージジーンズをどうやればスーツが合成できるんだよ! 君はデニム素材のスーツを着たいの? そういう趣味なの? 前世そういうスーツ着て通勤してたの? 軍手と軍足をアクセントにして? すっごいファッションセンスだね! 僕には理解できないよ!」
ハアハアと肩で息をしている。
そこまで怒らなくてもいいのに。
「君にもわかるように教えてあげるよ。アイテム合成は素材の質が重要なんだよ。君が入れたようなゴミからはゴミしか作れない! まともなアイテムを合成してほしければまともなアイテムを入れるんだ。わかったね? これが最後のチャンスだからね? また変なもの入れたらさすがに怒るよ温厚な僕だって!」
一方的にまくしたてる様子はすでに怒っているように見えるんだけど、本人は冷静に話しているつもりなんだろうか。
『これだから今どきの冒険者は』とか言いながらカーテンの向こうに戻っていく。
「何や知らんけど、ここのスペシャルオーダーってあの子が合成してたんやな」
「カーテンの裏に人がいたなんて初めて知ったわ」
「デーモンを倒したら自動的にオーダーできましたもの。そういうシステムだとばかり思ってましたわ」
「なるほど。今思えばデーモンは欠片も残さず消えていた。死体がすなわち合成素材として用いられていたのだろうな」
「てことは今は代わりに別の何かを素材として差し出さなきゃならんてことか。何入れるんだ?」
うーん、何を入れようか?
悩む俺の耳に遠く鐘の音が聞こえた。
悩んでる暇なかったわ。
これが最後だって言ってたし。
なんでもいいから入れちゃえ。




