アパレルダンジョン⑤
『丈夫そうな手袋』を注文して、出てきたアイテムが軍手だった。
確かに手袋だし、丈夫そうだけども!
俺の脳内イメージがいい加減だったのか、その軍手は片方の親指の先に穴が空いていた。
…使い古しに見える。
軍手にへばりついていたインプは軍手の穴と俺の顔とを何度も見比べて、少し考える素振りを見せてからおもむろに軍手から離れた。
床の上の軍手をそっと俺の方に押しやり、インプは柱へと滲むように消えていった。
……どういうこと?
「盗難防止タグが勝手に離れて消えていったんですが」
「無料で差し上げます、ってことかしら?」
セシルさんが首をかしげる。
「粗悪品であるから対価は要らないと判断されたのではなかろうか」
「確かに粗悪品ですけど、レアではありませんこと? この世界で軍手など初めて見ましたわ」
「うちもこんなん初めてや。しかも穴空いてるし」
「珍しいもん見ちゃったなあ。でもまあ実用品だし、日常生活で役に立つかもよ」
てんでに感想を言っている。
が、俺としてはこの結果に納得がいかない。
これは失敗だと思う。
「もう一回やらせてください」
柱に手を当て、真剣にイメージする。
「メンズ靴下、サイズは26センチ!」
出たシャボン玉を割ると。
「またかいな」
……軍足が出た。
しかも今度は踵が破れている。
付いてたインプはやはり俺とアイテムとを見比べて、そっと軍足を押しやって去っていった。
「…なんか俺、盗難防止タグに憐れまれて、アイテムを恵んでもらった気がするんですけど」
「奇遇やなあ、うちも同じこと思てたわ」
ですよね!
先輩方、皆さん同じご意見ですよね!
インプに気の毒がられたんですよね俺って!
その後、何回かチャレンジしたが同じように粗悪品が続いた。
インプの態度も変わらず、どのインプも俺にそっとアイテムを恵んで去っていく。
その優しさが、辛い。
「なんでちゃんとした新品が出ないんでしょうか…」
俺の前にはインプのお恵みが山になっている。
シミのついたハンカチとか、襟のほつれたTシャツとか。
一番マシなのは両膝が擦り切れたダメージジーンズだろうか。
しかし世界観に合わない……。
「ビギナーズラックが逆に働いてるのかもしれねえな。ろくな物が出ないダンジョンでは良い物が出て、欲しい物が出るダンジョンでは変な物が出る、みたいな」
厩務員倶楽部部長さんがお恵みの山を検分しながらそんなことを言う。
「出現確率の逆転現象か。筋は通るが…」
医療会会長さんが顎に手を当て、視線を斜め上に向けて考える人のポーズになる。
「確かにレアですけれど、これでは新人研修としては成功とは言えませんわ」
持ち手の取れたバッグをひっくり返して底を調べている花子さん。
「成功どころか大失敗の連続だものね。せめて一つくらいまともな物を出さないと」
「でも何回やっても結果は同じだし。俺、まともな物が出せる気がしないです」
きっと百回やっても百回とも粗悪品でインプにお恵みされる気がする。
しばし無言。
カーンと鐘の音がした。
1時間経ったようだ。
「しゃーないな、引き返そか」




