アパレルダンジョン③
地道に自分の足で階段を下りて、着いたところはガラーンと広い空間だった。
平面としても広いけど、垂直方向にやたらと広い。
つまり天井が高い。
体感的にはドーム型の野球場の中にいるような感じだ。
野球場と違うのは、足元が芝でも土でもなく、大理石風の模様の入った硬質な床材であること、そして金属的な光沢のある柱のようなものが点在していることだ。
それ以外は目立つものはない。
入ってきた入口以外に扉も通路も見当たらない。
宝箱もないし、魔物もいない。
…これがダンジョン?
服飾関係のアイテムが簡単に手に入るというから、前世のショップみたいにたくさんの服がハンガーにかかって陳列されてたりするのかと思っていたのに。
服どころか、棚もマネキンもない。
ここで一体どうしろと?
困った時の先輩頼み。
エバちゃんたちに視線を送る。
得たりとエバちゃんは自信たっぷりな笑顔で胸を叩いた。
「まかしとき。アパレルダンジョンの使い方教えたるわ。みんなもええな? 新人教育や。お手本見したるで」
「まかせて」
「よろしくてよ」
「心得た」
「OK、いつでもいいよー」
先輩たちはそれぞれ別々の柱の前に立ち、手を当てた。
『Παρακαλώ κάντε την παραγγελία σας』
なんだか外国語らしき音声が聞こえた。
先輩たちが手を当てているそれぞれの柱から聞こえてくるようだ。
それに呼応するように、先輩たちは声を張り上げた。
「黒のゴスロリワンピ、Sサイズ!」
「純白のフォーマルドレス、マーメイドラインで!」
「寒冷紗150センチ幅で長さ100メートル!」
「ガーゼ生地、白色、30センチ幅10メートル…いや、やはり100メートルだ!」
「カシミヤ毛布シングル10枚! カシミヤでなくてもウールでもなんでもいいけども!」
……何やってんの?
ファミレスで料理を注文するかのように、欲しいものを口に出す先輩たち。
流れ星に願い事してるんじゃないんだから、口に出して願ったからって物が出てくるわけが……。
「出た!」
「え、出たの?」
天井方向を指さすエバちゃんに釣られてそっちを見上げると、そこには巨大なシャボン玉がぷかぷかと浮かんでいた。
シャボン玉の数は五つ。
風もないのにゆったりと移動している。
その位置は高さ何メートルだろうか、30メートル? 40メートル?
もっとかもしれない。
…ん?
よく見ると、シャボン玉の中に何か物体が入っているように見える。
あれは、まさか。
エバちゃんが杖をシャボン玉に向けた。
「切り裂け! 『Λεπίδα του ανέμου』!」
後半、呪文かなんかはさっぱり聞き取れなかったけど、前半、日本語の意味はわかった!
エバちゃんの杖からなんか風っぽい鋭そうな攻撃らしきものが出たから、多分あれは風の攻撃魔法だ!
その攻撃が命中したらしく、シャボン玉の一個が弾けた。
中にあった物がふわりと落ちてくる。
「うちのゴスロリワンピ!」
嬉々として拾いに行ったエバちゃんの手にはまさしくゴシックでロリータなワンピースが。
ちなみに色は黒。
これで角とかコウモリの羽とか逆トゲのある尻尾とかあれば、完璧に小悪魔だ。
横ではセシルさんがキリキリと弓の弦を引き絞っている。
狙っているのは…頭上のシャボン玉。
もしかして中身は純白のマーメイドドレスですか。
手にメスを持って投げナイフの要領で構えている医療会会長さんに声を掛けてみた。
「あのー、もしかしてこのダンジョンって…」
「うむ、見ての通り。欲しいアイテムを注文し、空中に出てきたところを撃ち落とすのだ」
射的か!
「注文に応じてアイテムが出現するのだが、その際に脳内イメージをスキャンされるため、間違ったイメージを思い浮かべていると間違ったアイテムが生成される。注文時に脳内で正確なイメージを構成することが一つのポイントだ。更には空中に浮かぶアイテムを撃墜できる遠距離攻撃手段がなくてはならない。本来、古代王国時代においては生成されたアイテムを注文主の手元まで届ける機能があったとされているが、現在はその機能が失われているため…」
会長さんの長ったらしい説明はあまり頭に入らなかった。
馬鹿げたシステムに開いた口がふさがらなかったので。




