アパレルダンジョン①
アパレルダンジョンって、行ったことないけど、どんなとこ?
素直な気持ちでそう訊いただけなのに。
何故だろう、脱力されている。
その場の空気が弛緩していく。
ハァー、とため息つくのが聞こえる。
いや、命の取り合いになりそうな緊迫感がなくなったのはいいけども。
「そうかー、行ったことなかったかー。確かに行ったて話聞いてへんわ。そうかー、まだやったかー」
怒気を無くしたエバちゃんが自分の額をペチンと叩いた。
「当たり前過ぎて普通に知ってると思い込んでたわ」
セシルさんが疲れた顔で首を振る。
他の皆さんも『あー…』とか言って天井見たりしてる。
そんな『前提条件としての常識を持たないアホの子がいた』みたいにされても。
俺は悪くない。(開き直りますが何か?)
新人がものを知らないのは当然です。
先輩諸氏の確認不足だと思います。
「アパレルダンジョンがどないな所か教えたらなあかんな。領主はん、新人の実地研修ゆうことで、入らせて貰われへんかな」
「む。それは」
「新人教育のためやねん。頼むわ」
「それなら私も行くわ。チュートリアル料金は要らない」
「わたくしも無料でお手伝いしますわ。若い人の教育は大事ですもの」
「そういう事情であればボランティアとして協力するにやぶさかでない」
「いいね、いいね。面白そうだね。おいちゃんも付いていこうか。出血大サービスで今ならタダ」
……皆、さも親切そうに申し出てくれているけど、新人研修にかこつけてアパレルダンジョンに入りたいだけなのでは。
俺は別に知識として教えてもらえれば、実地は必要ないんだけど。
「この子もアパレルダンジョンに入りたがってることやし」
エバちゃん、『この子』って俺のこと?
別に入りたいとは言ってないけど。
「そうよね。新人さんが入りたがってるんだから」
セシルさん、別に入りたいとは言ってないです。
「そうですわね」
「そうだな」
「そうだよね」
入りたいとは言ってないんだけど……。
「なー、アーウィン。アパレルダンジョン入ったことないから入りたいやんなー?」
「……入りたいです」
圧に負けた。
領主も同じく圧に屈したらしい。
「……一度だけ、特例として認めよう」
エバちゃんが『やった』と声を出さずに口だけ動かして小さくガッツポーズしている。
「あくまでも教育目的であるとして許可しよう。よってドロップアイテムの持ち出しは制限する」
「えーっ」
「営利目的ではないのだから当然だろう」
屈したとはいえ締めるところは締める領主。
ブーイングをものともしない。
詳細条件を詰めるに当たって、エバちゃんたち代表団も粘ったが、領主はそれ以上折れなかった。
「それでは我が領名物アパレルダンジョンの見学を許可する。よく学びたまえ、若人よ」
「えーと…ありがとうございます?」
領主がさらさらっと書いてくれた許可証を受け取る。
例によって日本語で書かれているが…領主、達筆だな。
『探索2時間まで。教育目的。持ち出し制限:通常アイテム一人10キロまで。レアアイテム一人1個まで。違反者には罰金』
エバちゃんとセシルさんがそれを読んで渋い顔をしているけど、他の皆さんは納得している様子。
欲しいものが通常アイテムなのか、レアアイテムなのかによって、反応が分かれているのだろう。
俺?
俺はべつに不満なんかない。
服とかそんなに興味ないし。
ぼーっとしてたら、エバちゃんとセシルさんに肩を叩かれた。
「わかっとるな?」
「わかるわよね?」
…ビギナーズラックで一人一個レアアイテムを出せ、とのご希望ですね?
善処します。




