冒険者ギルド③
「一応あるんですね、薬草採取」
「一応、魔獣討伐もあるわよ。初心者にはまず無理だけど」
ギルドの受付嬢ことソニアさんのちょっと意地悪でわかりやすい解説によると、装備の整っていない新人が請け負える仕事は二つしかないそうだ。
薬草採取か魔石採取。
どちらも貧しい転生者のために神様が用意してくれたものらしい。
「買い取り対象になってる薬草はたった1種類しかないし、見た目もすごーくわかりやすいの。近くの森の浅い所で採れるから、新人でも大丈夫。運悪く魔物に襲われたら大怪我するかもだけどね」
「やっぱり魔物いるんですね」
「強いのから弱いのまでピンキリだけどね。近くの森では最弱なのしか出ないことになってるわ」
「その言い回しが不安を呼ぶんですが……」
「イベント的に『はぐれ』が出ることがあるのよね。まあそんなの滅多にないし。大抵はスライムだから棒一本あれば勝てるから」
棒一本すら買えない新人のために、タダで持ってっていい中古の棒があるそうだ。
……それって単なる木の枝では?
「無知な新人放り出していきなり死なれると気分悪いからね。一応チュートリアル的に先輩冒険者に付き添って教えてもらえることになってるのよ。断ってもいいけど、どうする? チュートリアル受ける?」
受けます、と言おうとして、止まった。
やけに親切すぎるのではないか?
ここに落とし穴があるのではないか?
「あのー、それって何かデメリットあったりしませんか?」
ソニアさんはニヤリと笑った。
「ちょっとは用心するじゃない。その調子で物事は疑ってかかることね。この世は善人だけで出来てるわけじゃないからね」
チュートリアルを頼むと先輩冒険者へ謝礼を払わなければならないらしい。
当然、無一文なので、当日の稼ぎから支払うことになる。
良くて半分、普通なら全額持っていかれて宿代も残らず野宿、最悪は借金して支払う羽目になる。
「そんなに大金要求されるんですか!?」
「人によるわね。有能な冒険者は高くつくし、わずかな謝礼で雇われてくれる人は能力が低いし。当日幾ら稼げるかも雇った人に左右されるしねえ」
「……真ん中くらいか、多少お安い人いませんか?」
「そこにたむろしてる暇人から選んで交渉することになるから、聞いてみたら?」
そこにたむろしてる暇人。
振り向くと、酒場で野次飛ばしてた面々が笑って手を振ったり、わざとらしく視線を逸らしたりしている。
彼らか。
「交渉って、具体的にはどうすれば?」
「ゲームじゃないんだから臨機応変にやんなさいよ。生身の人間なら普通は挨拶からじゃないの?」
それもそうか。
俺は彼らの元へ歩いていった。
「始めまして。成り立て冒険者のアーウィンと申します。よろしくお願いします」
「ああ、よろしくな。俺はバートラムだ」
「セシルよ、よろしくね」
「ダニエルだよ、よろしく」
「エヴァンジェリン・フロラベルや。よろしゅうな」
「グレアムです。どうぞよろしく」
沈黙が流れた。
は、話の接穂がわからない……。
どうやって切り出したらいいのか。
普通なら前置きとして軽く雑談とかするものかもしれない。
でもさっきの流れで今更な気もする。
この人たち、俺とソニアさんの話、聞き耳立ててたよな?
表情を伺ってみる。
わざとらしく知らん顔する人もいれば、あからさまに『来い来い』と手招きしている人もいるが……面白がってるようだ、全員が。
ならば遠慮なく。
「ぶっちゃけどなたがお買い得ですか?」
全員がいい笑顔で一人の人物を指差した。
………ソニアさんを。
「あたしはやんないわよ。仕事があるんだから」
受付嬢ソニア、実は凄腕冒険者疑惑浮上。
「ソニアさん以外ではどなたがお買い得ですか?」
「何を重視するかによるな」
バートラムさんがざっくり解説してくれた所によると、ズバリ、戦闘が強い人ほどお値段がお高い。
この場では戦士のバートラムさんが最高価格で借金間違いなしの100ストーン。
アーチャーのセシルさんとシーフのダニエルさんが日当全額に相当する50ストーン。
魔法使いのエヴァンジェリン・フロラベルさんとクレリックのグレアムさんが日当半額相当の25ストーンだそうだ。
考えてみた。
借金はしたくないのでバートラムさんは無しだ。
異性と二人きりも避けたいので、セシルさんとエヴァンジェリン・フロラベルさんも無し。
ダニエルさんか、グレアムさんか……迷うところだが、お金を残したいのと、職業的に信用出来そうなのとで、グレアムさんにしよう。
「グレアムさん、お願いします」
「未熟者ですが、拙い指導でよろしければお引き受けします」
「ありがとうございます」
軽く握手を交わして、チュートリアル『近くの森で薬草採取』を始めることにした。
ギルド謹製『ただの棒』を装備して。
……やっぱり木の枝だよね。