領主
「立ち入り禁止は解除しない」
「なんでやねん!」
領主とエバちゃんが睨み合っている。
場所は領主邸の応接室。
領主邸は町の中心にあった。
どっしりと風格ある堅牢な石造りの洋館だ。
個人の住宅としては大きいけど、役場兼用ならどうなんだろう。
むしろ手狭かもしれない。
そこに住む領主は同じく風格のある人だった。
年齢のわかりにくいグレーの髪。
服装は貴族的、というかビジネススーツに近い感じ。
モーニングコートとかフロックコートとでも言うのだろうか、よくわからないけど、礼装っぽい。
第一印象、エリートビジネスマン。
お名前はメイヤーさん。
様ってつけるべきだろうか?
この世界の身分制度ってどうなんだろう?
少なくともエバちゃんは敬語を使う気がなさそうだ。
「うちら冒険者や。冒険者はダンジョンに潜ってナンボや。それを禁止されたらおまんまの食い上げや。どういう理由があってうちらの飯の種取り上げるんか、聞かせてもらおか」
「ダンジョンは他にもある。禁じられたダンジョンにわざわざ入らずとも、他のダンジョンに潜ればよかろう」
「せやから禁じる理由を言えちゅうとるねん!」
「少し落ち着いて」
声を荒げるエバちゃんをセシルさんが後ろに下がらせる。
「立ち入り禁止の理由を伺えるかしら?」
「産業保護のためだ」
「産業保護?」
「我が町では繊維産業を育成中なのだ。綿花を育てるところから始めて、織り機の開発、担い手の育成まで、長年の努力が実を結ぼうとしている。今、ダンジョン産の衣類を市場に大量投入されては困るのだ。繊維製品の価格が急落してしまう」
メイヤー領主は座っていた椅子から立ち上がり、窓の前に行って外を眺める。
窓から見える街の様子はそこそこの賑わいだ。
「価格が下落すれば繊維産業に携わる者たちが食べていけなくなる。君たちが言う所のおまんまの食い上げだな」
メイヤー領主はくるりと振り向いた。
外の光を背に受けて。
「君たちは考えたことがあるかね。この世界はRPGではない。物資の調達をダンジョンのドロップに頼っていていいのか。古代王国期の遺産に頼っていていいのか。我々人間の手で産業を育てるべきではないのか」
「詭弁だわ。上下水道だって自力では作れなくて、古代の配管をそのまま利用しているのに。この建物だって古代王国期の物でしょう?」
「否定はしない」
セシルさんの指摘を認めるメイヤー領主。
その胸に去来するのはいかなる思いか。
「だが自分たちで作っていける物もある。作れる物は作るべきだ。新たな技術を、産業を、この地に根付かせるべきなのだ。君たちは知るべきだ。この世界がRPGではないことを」
どうしよう、この人なんだかすごくいい事言ってる。
そうだよ、俺はこの世界のことをゲームみたいに思ってる。
それはきっと他の冒険者の先輩たちも同じことで、『剣と魔法の世界』=『RPG』みたいな気持ちがどこかにあるんだ。
でもそれはもしかしたら不健全な感覚かもしれない。
この人の言うように、もっと真面目にこの世界のことを考えるべきなのかも。
「そうとも、この世界はRPGではない。この世界は」
メイヤー領主はドラマチックに両手を広げた。
世界全てを示すように。
「この世界は…『シ○シティ』だ!」
アカーン!




