職業 ⑤
「先日のお詫びと日頃の感謝の気持ちです」
「つまらない物だったらしばき倒すわよ」
銀猫亭の女将さんに筆談で『ソニアさんへの手土産のお菓子』を相談して、お勧めされた逸品を買ってきた。
異世界菓子店『ヨーカドー』の名物『アイボールダッド・バウムクーヘン』だ。
見た目はデフォルメされた眼球を象った洋菓子。
センスを疑う見た目だが、試食で食べたら美味しかったので、8個入り一箱16ストーンを購入、持参してカウンターにいるソニアさんに差し出した。
「あら、アイボールバウムじゃないの。私これ好きなのよね」
ソニアさんは包みを開けてにっこり笑った。
女将さんに相談して正解だったようだ。
「うちらには〜?」
「ありますよ一応。同じのじゃないけど」
エバちゃんに催促されたので、酒場にたむろする暇人たちにもお菓子を配る。
デフォルメされたネズミ型の洋菓子だ。
本当に見た目はどうかと思うが、味は良く、アイボールダッド・バウムクーヘンより小さめでお手頃価格だ。
エバちゃんに1個、セシルさんに1個、グレアムさんにも1個。
バートラムさんとダニエルさんはいないから、いいか。
「白ネズミフィナンシェか。なんや差ぁつけられた気ぃするなー」
「美味しいわよ。私はこっちが好き」
「ありがたく頂きますよ」
いつもと変わらぬ笑みを浮かべるグレアムさんとはちょっと気まずかったけど。
さて、本題はここから。
「お金稼いできました。職業の有料情報下さい」
「誰に仕込まれたか知らないけど、ちょっとは勉強してきたみたいじゃない」
ソニアさんはフフンと鼻で笑って、カウンターの奥から紐で括られた羊皮紙らしき物を出した。
蝋で封がしてある。
「この中に職業に関する重要な情報が書かれてるわ。料金は80ストーン。買う?」
「買います!」
バートラムさんのおかげで俺の財布には今、2000ストーン以上の現金が入っている。
今の俺に恐れるものはない!
「はい、確かに80ストーンお支払いいただきました。じゃあこれね。持って帰って他人が見てない所で読んでね。読み終わったら焼却してね。公開したり転売したら厳しい処罰があるからね」
「有料情報、怖っ!」
厳しい処罰というのが気になったけど、情報の中身の方がもっと気になるので、急いで銀猫亭に帰った。
借りてる部屋に入り、中から鍵をかける。
これでよし。
おもむろに羊皮紙を括る紐を解き、開いて読み始める。
……、
……、
……なるほど。
……え!
えええ!?
そうなの!?
マジで!?
うっわー、これは公開できねーわ、やべーわ。
読み終えて、ふう〜、とため息。
俺、この情報買って良かった。
知らなかったら痛い目に合うとこだった。
そしてこの事は決して喋らないと固く誓う。
ペラペラ喋り散らしてはならない情報が含まれている。
俺は羊皮紙を再びクルクルと巻いた。
階段を降りて、カウンターのベルを鳴らし、出てきた女将さんと筆談する。
『焼却する物があるんで、火貸してもらえますか』
『裏庭で焚き火をしても良いですが、必ず水を側に置いて、最後は完全に消火してください。臭いの強いものや毒性の高い物、爆発する危険のある物は燃やさないでください。大量に燃やす場合は町外れの空き地に』
羊皮紙一枚なんだけど。
筆談だと饒舌になる女将さん。
なかなか止まらない長文メッセージを俺は生温かく見守るのだった…。
職業に関するマル秘情報(一部抜粋):転生した日から1年以上経過していて職業が定まっていない16歳以上の者は神により強制的に職業を与えられる。この神に与えられた職業(天職)は魂に深く刻まれ、どうしてもその職業を全うしなくてはならないという強い衝動に駆られる。本人と職業との相性は考慮されないらしく、極めて適性の低い天職を与えられた例もある。
例1:病弱な少女に与えられた天職が『力士』。少女は全力で肉体改造に取り組んだ。
例2:屈強な男性に与えられた天職が『ベリーダンサー』。蠱惑的にくねらせる六つに割れた腹筋に一部熱狂的ファンが付いた。
例3:他人と面と向かって喋れない内向的な女性に与えられた天職が『宿泊業』。女性は試行錯誤の末、会話をしないルールを設けて民宿経営を始めた。
ストックが尽きました。
ここからはペースを落として投稿します。
ご愛読ありがとうございます。




