職業 ③
俺は穴に入った!
なんだか前に来た時より人が多い。
冒険者風の人がそこにも、ここにも。
どこかで見たような人も。
「…ってバートラムさん?」
「おう、アーウィンじゃないか」
「なんでここに?」
「なんでってお前、ダニエルのアレだよ」
ダニエルさんのアレ。
う、思い出してはいけない何かを思い出しそうな。
封印されしなんちゃらがなんちゃらしそうな、そんな感じ。
「そうだお前、ちょっと割のいい仕事しないか?」
「ダニエルさんの話題の続きでそれを言われると、嫌な予感しかしないんですけど」
「まあそう言うな。アレはアレで快挙なんだ。未踏破エリアに侵入する手段を見つけたんだからな。世界的、歴史的発見だ。冒険者業界が沸いたぞ」
「冒険者にとって偉大な一歩でも、俺にとってはムカつく一歩です」
「その気持ちはわかる。そこでだ。ダニエルの発見に乗っかりつつ、あいつをぎゃふんと言わせる一石二鳥の仕事、やりたくないか?」
ダニエルさんをぎゃふんと言わせる。
そんなことが可能なのだろうか。
ちょっぴり心が動くのを感じる。
「お前が話に乗るなら多数の冒険者に感謝される。もちろん金も稼げる」
「やります!」
感謝される!
金も稼げる!
失敗と叱責に傷ついた心を甘く癒してくれそうな気がする。
へこんだ心を復活させるのは新たな成功体験だよね!
※
やってきました、子猫円舞曲。
冒険者がたくさん順番待ちしている。
「クソ、また白ネズだ!」
「本当に金ネズなんか出るのか?」
「日頃の行いが悪いんだよ。替われ!」
「俺なんか一昨日百回くらい頑張ってさー、やっと金ネズ出たのにさー、倒しても宝箱が出なくてさー、膝から崩れ落ちたよ」
ベテランっぽい人たちばかりが文句を言いながらネズミ狩りをしている。
これはいったい?
バートラムさんが俺に耳打ちする。
「こいつら全員『管理者キー』目当てだ。ドロップさせようと頑張ってるんだが、なかなか出なくてな。そこでだ。お前のビギナーズラックが発動すれば、高い確率でレアドロップが出るんだろ? お前が金ネズを出して倒す、それ以外のが出たら俺がさっくり片づける。このサイクルを繰り返せば、あっという間にレアドロップの山ができると思わないか? 『管理者キー』が売るほど出ると思わないか?」
それは…そうなるかも?
俺のビギナーズラックが本物ならだけど。
「俺用に一個、お前用に一個取り置きして、あとは出たら出た分欲しい奴らに売ってやれば、ダニエルが持ってるキーの値打ちは暴落。あいつ歯噛みして悔しがるぜ」
「やりましょう!」
ビギナーズラックが本物かどうか、それはやってみないとわからない。
少しでも可能性があるのなら、やってみよう。
主に、ダニエルさんをぎゃふんと言わせるために!




