冒険者ギルド②
こういうの飽きたわぁ〜の受付嬢はそれでも仕事はしてくれた。
「前科あるわけないけど一応ね。こういうのやりたいんでしょ」
と魔法のプレートに手をかざしての罪科チェックからの冒険者登録。
「はい、冒険者カード。ビギナーはこの白いカードね。裏に署名してね。指紋認証式だから指なくさないでね。たまにいるのよ指なくす奴。指生やすと指紋が変わるからカード作り直しになるのよ。面倒だからなくすんじゃないわよ指」
と言われながら受け取ったカードはなんか怖かった。
普通、カードなくしたら再発行だからカードなくすなって注意するのでは?
なぜ指?
なくしても生やせるらしいのは朗報だけど……。
なんだかんだで俺は受付嬢からみっちりとレクチャーを受けた。
転生を望んだ人は大体皆この世界に送られてくること。
特別に指定しなかったら、無一文で衣服と靴だけ身に着けて、身寄りのない10代男女として出現すること。
そういう人は大体皆同じことを考えて冒険者ギルドに登録しにくること。
冒険者稼業で生きていくことは可能だが、さほど儲かる仕事ではないこと。
「大体知識チートみたいなことは既に誰かにやられちゃってるからね。よほどニッチな新技術持ち込まない限り、経済ジャンルでも工業ジャンルでも頭角現すのは難しいわよ。あんた何か特殊技能ある?」
「えーと、ITパスポートとか基本情報技術者とか」
「うん、使えないね。パソコンもスマホもないから」
「あと運転免許がAT限定付いてないです。マニュアル車運転できます」
「うん、使えないね。自動車を部品から作れるっていうなら話は別だけどね」
「……作れないです」
「皆そんなもんよ。塗装は出来るけど塗料の作り方はわからない。素材から作れるような人はどういう訳か、この世界には来ないのよ。出来ない人ばっか来るのよ」
横から冒険者が口を挟む。
「皆同じだから気にするなよー」
「そうそう、俺らも皆そう」
「前世の技能が一番役に立つの美容師でしょ。あいつら櫛とハサミがあれば働ける」
「服飾も意外といけるってよ。裁断と縫製だけだと弱いけど、糸紡ぎと機織りができるなら」
「それ服飾というより手芸でしょ。でも確かに布作るのムズいから、編み物とか出来る人は強い。機織り機の作り方知ってれば最強」
「調理師苦戦してるよね。食材が違うからね」
「農業も苦戦続きでしょ。森から腐葉土持ってきて畑にすき込んだら、何かの幼虫が大量発生して野菜が全部食われたらしいよ」
「それ技能じゃねーから。幼虫くらい混ぜる前に捕殺しとけよ。虫殺せない奴が農家名乗るな。あと『腐葉土は栄養いっぱい』とか言う奴、腐葉土は土で堆肥じゃねーよ」
ドッと笑いが起きる。
酒場から飛んだ野次?声援?でこの世界の現実がだんだんわかってきた。
「……俺、この世界でやってけますかね?」
「やってくしかないでしょ。死にたくなければ」
「……ですね」
こうして俺の異世界生活は始まった。
正体を隠す必要が微塵もない、どこにでもいる転生者の一人として。
……どこにでもい過ぎだろ、転生者!