職業 ①
近くの森がセシルさんの弓技で破壊された。
全部じゃないけど。
局地的に。
ダニエルさんが一ヶ月通ってもフェアリーが出なかった時って、ちょうどこんな風にセシルさんが弓技叩き込んだ後だったのでは?
そんな疑いが頭をもたげてくる。
「エルフが森林破壊とか」
「ちょっと何本か倒れただけじゃない。桜の木なんかどこにでも生えてるんだし」
開き直るセシルさん。
とりあえず目にハイライトが戻っている。
憑き物が落ちたようだ。
「種族的にそれはどうなんでしょう」
「この世界のエルフには森の守護者みたいな設定ないから。森育ちでもないし」
設定て。
セシルさんはサッパリと清々しい様子で、荒れ果てた森を歩き、フェアリーの魔石を回収した。
その様子は罪悪感ゼロ。
森の木々はどうでもいいらしい。
まあこの世界では桜は雑草扱いらしいけど。
「それにしても凄い爆発でしたね。魔法ですか?」
「弓の上級スキルよ」
「俺でも習えますか?」
「習いに行くのは可能だけれど、一般人は初級スキルしか身につけられないわよ。中級からは専門スキルだから。アーチャーかハンターの職業に就いていないと教えてもらえないの」
なるほど、職業か。
※
「職業教えて下さい」
「いきなりの質問ね」
カウンターの向こうには例によってソニアさんの仏頂面がある。
「気づいたんですよ。考えてみたら俺、職業ないなって」
「ようやくそこに気づいたのね」
「皆さん冒険者なのに、職業あるじゃないですか。魔法使いとか戦士とか。それってどうやるんですか? なんか学校通うとか、試験受けるとかしなきゃいけないんですか?」
「エントリーシート書いて面接受けるって言わなかったところは褒めてあげるわ」
皮肉ですね?
日本人的就活を皮肉ってますね?
ニヒルな笑みを浮かべて、ソニアさんはカウンターに資料を広げた。
「何になりたいかにもよるけど、大きく分ければ二つね。一つはその職業の人に弟子入りする。もう一つはそれぞれの組織に加入する」
「組織というと?」
「まず神殿。クレリックはどこかの神殿に入信して、更に出家しないとなれないわ」
「仏門に入るとかそういうアレですか」
「まあね。この世界、本当に神様いるし、転生する時に皆一度は神様と会話してるじゃない? 就職感覚で神殿に入る人多いのよね。多国籍総合企業、会長=神様、って感じね」
「なるほど?」
信仰心ってそれでいいんだろうか。
現世利益に偏りすぎでは?
実在を信じるという意味ではこれ以上ないくらい信じられてるけど、サラリーマン感覚の神官だと嫌なことがあったらすぐ辞めそうな気がする。
「2番手は商業ギルド」
「日本で言ったら商工会議所?」
「ハローワークと消費生活センターとその他諸々を兼ねてるわね。商人になるなら商業ギルドに登録するしかないわ。鑑札なしの無許可営業は違法よ」
なんか面倒くさそう。
商売のネタもないし、ここはパスということで。
「続いて盗賊ギルド。ここに加入しないとシーフにはなれないわ」
「なりたくないからいいです」
危なそうな裏組織には関わりたくない。
「他はアーチャーギルドとかクラフターギルドとかの比較的小規模な組織ね。職能団体ごとに技能伝習所で技能を習ったり、師匠を探して弟子入りさせてもらったり。戦士なら剣術道場に入門するって方法もあるわね。これ、各種団体の入会案内。興味あるなら紹介するわよ」
各種団体一覧を見せられたけど……いっぱいある。
冒険者の職業ってこんなにたくさんあるんだ。
しかしよく見ると変なのも混じっている。
詩人協会とか占い師組合は良いとして、厩務員倶楽部とは?
医療用画像魔力線機器組立技師互助会とは。
フラワーデザイナー連盟とは。
フラワーデザイナーって冒険するの?
どうやってするの?
「会員1名とかの実質は団体じゃないのも混じってるから気をつけなさいね」
「なんでそんなの混じってるんですか?」
「あわよくば会員という名の労働者を手に入れたい個人事業主が、名ばかりの団体を設立して登録してくるのよ。登録料払えばどんなに胡散臭くても名簿に掲載しなきゃならないのよ」
うわー、ブラックだ、ブラックな臭いがする。
「焦らず、よく見極めるのよ、新入り。転生から1年間は猶予期間があるからね」
1年間?
猶予期間とは?
「1年経って職業が決まってなかったら、天から職業降ってくるからね」
「…はい?」
天から職業が降ってくる???




