シーフ ①
近くの森の桜が散り、散った後の軸に小さな実が付き始めた。
葉桜になったので、森はなんとなく緑色っぽくなった。
やはり森はピンクよりも緑色であるべきだ。(個人の感想です)
薬草は見た目がヒマワリなので、群生地はそこだけ目に染みるほどの鮮やかな黄色なのだが、まあこれは一年中咲いてて、咲いていない時期がないとの事なので仕方がない。
神様が転生者のために用意してくれた物らしいから、ありがたく採取しよう。
一人での薬草採取や魔石採取にも慣れてきた。
なぜか頻繁にフェアリーが出るけど、全力疾走で逃げれば大丈夫。
足腰が強くなってきた気がする今日この頃だ。
もちろんスライムを見つけたらすかさず倒す。
俺の今宵の糧となれ!
※
「新しい棒ください」
「あんたね、いつまでも甘えてんじゃないわよ。武器くらい自分で買いなさいよ」
いつものように『ただの棒』を借り換えようとしたら、ソニアさんに怒られた。
「えー、でもー、鋼の剣とか高いしー。5000ストーンくらいするしー」
「ビギナーが分不相応な武器買おうとしてんじゃないわよ。スライム狩りなら棒で十分でしょ。棒を買いなさいよ、棒を」
「と言われても」
武器屋に行けばまっさらな棒が売られている。
商品名『さくらの棒』1本30ストーン。
握りやすい太さで振り回しやすい長さで、手触りも悪くないのだが、見た目は単なる木の棒だ。
大して強そうでもないし、ギルドで借りれば無料だと思うと、わざわざお金出して買う気が起きない。
そもそも倒す相手がスライム一択。
酸を吐くので、敵が弱い割に武器が傷みやすいのだ。
すぐに傷むと知ってて買うのはなんだかなー。
それに『さくらの棒』ってネーミングもほのぼのしすぎて、いまいち心が躍らない。
「近くの森に桜が山ほど生えてるじゃないですか。棒の元が雑草みたいに生えてるあれだと思うと有り難みがなくて、お金出す気になれないんですよ」
「あんた贅沢なのよ!」
ソニアさんから『さくらの棒』がいかにコストパフォーマンスに優れた道具であるか、滾々とお説教された。
「というわけで、あんたこれからは自分でお金出して武器を買いなさい」
「えー」
コツコツ貯めて鋼の剣を買おうと思ってたのに。
武器屋の奥にあるやつ、初めて買う武器はあれにしようと目をつけてたのに。
そんな不満が顔に出たらしい。
「文句があるの?」
ソニアさんの目つきが険しくなった。
そこへ明るい声が割って入った。
「まあまあ、ソニアちゃん。ここは大目に見てあげてよ。僕に免じてさ」
割って入ったのはキラキラした笑顔のチャラそうな男だった。
この人は酒場にたむろしているいつものメンバーの一人、職業はシーフで、確か名前は……。
「ダニエルさん?」
「なんであんたに免じてやらなきゃならないのよ」
ソニアさん、何か嫌そう。
「彼には僕の探索に付き合ってもらおうかと思ってさ」
キラキラした笑顔がこっちに向けられた。
えーと、なんだかキツネに笑顔を向けられたウサギの気分。
信用ならないので、逃げていいですか。




