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総転生世界 〜Everyone Reincarnated~  作者: ful-fil
インターン ここは砂と岩の農場

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血も涙もない冷たい奴ら⑤

 いい天気だなあ……。


 俺はタープで作った日陰の下に腰を下ろして、乾いた地面をぼんやり眺めていた。

 一応、農場に開いた大穴から魔物が出てこないか見張っているつもりだ。


 何も起きない時の監視業務って退屈だよね。

 農場の入り口はサボテンの魔物が守っているから、襲撃があるとしたら、この陥没で開いた穴からしか考えられない。

 なので交代しながら見張っているんだけど……。


 退屈だなあ……。


 空気がゆらゆら揺れている、あれは陽炎って言うんだよね。

 真夏に車を運転していると、地面に実際には存在しない水たまりが見えることがあった。

 あれは逃げ水って言うんだよね。

 陽炎を眺めてても面白くもなんともないけど、他に見るものがない。

 この世界にはスマホゲームもないし、漫画雑誌もないし、誰かに生演奏してもらわない限り音楽もないのだ。

 暇をつぶす手段が圧倒的に乏しい!


 陽炎を眺めるのに飽きた俺は、横にいるマーティーさんに声をかけた。


「退屈だから何か話してくださいよ」

「んー?」


 座禅を組んで瞑想していたマーティーさんは足をほどいて楽な体勢になった。

 見張り中に瞑想してていいのか、それで見張りになるのか疑問だけど、マーティーさん的には『むしろ目で見てるより気配がわかる』らしい。

 それはそれとして、娯楽の乏しいこの世界では人間同士の会話が最も手軽な娯楽である。

 一人で見張ってるならともかく、せっかく二人組になってるんだから、なんか面白いことを喋ってほしい。


「何かと言われても……何が聞きたいんだ?」

「雑談トークだからなんでもいいんですけど、じゃあ職業について」

「俺の職業は戦士だよ」

「それで終わるんじゃなくて! もっとこうテーマを膨らませる感じで、なぜ戦士を選んだのかとか、なってみて良かったこととか悪かったこととか、実体験を元にして語ってくださいよ」

「おまえ我儘だよなあ。末っ子気質って言われたことないか?」

「甘えてるって言われたことはあります」

「だろうなあ……。それで、実体験を元にだったな」


 残念な生き物を見るような目で見られたが、マーティーさんは続きを話してくれた。


「選んだ理由は単純だ。この世界、魔法使いになるには金がかかる。金がなかったから戦士になった」

「シンプルな理由ですね」

「だが切実だ。おやっさんみたいに複数の魔法覚えようと思ったらどれだけ金がかかるか」

「レベル1の一番安いので2500ストーン、レベルが上がるごとに倍々で高くなっていくんでしたっけ」

「一攫千金のチャンスがそうそう転がってるわけじゃなし。費用対効果を考えると、防具厚くして武器で戦うのが一番経済的なんだよ」

「でも武器も高くないですか?」

「高い。使ってるうちに消耗するし、買い替えすると貯金が吹っ飛ぶ。それでも高レベルの魔法よりは手が出やすい値段だ。属性に関係なく大抵の魔物に通用するしな」

「魔法は属性に左右されるんですよね?」

「される。たとえばケイトリンちゃんのアレな」


 高温高圧水蒸気魔法スチームか。


「アレは雪だるまには劇的に効くだろう。逆にスチームアントには効かないだろうな。そよ風に吹かれたくらいにしか感じないだろうよ」

「確かに……」

「だから魔法使いは複数の属性魔法を使い分けるか、自分の専門を定めてそれ一本でやってくかなんだよ。俺は複数の魔法を覚えるほどの金を作れなかったし、どれか一つに絞る気にもなれなかった。だから戦士になった。以上、説明終わり」


 説明終わられちゃったよ。


「じゃあ、俺にはどの職業が向いてると思います?」

「戦士には向いてないな」


 向いてないのかよ。


「向いてない職業じゃなくて、向いてる職業を教えてほしいんですけど」

「俺にはわからん。俺の特技は視線や気配を感じとることであって、職業適性を判断することじゃないからな」

 

 マーティーさんの意見、参考にならない。

 戦士視点で、冒険者業界の裏側の話とか聞けるかと思ったのに。


「そろそろ時間だな」

「そうですね」


 強烈だった日差しが和らぎ、空が茜色に染まり始めている。

 ダンジョンなのに、このD-431テラロッサマウンテン(通称:赤い山)には昼夜の区別があるのだ。

 そして日没と同時に俺たちは動き出す。

 テラロッサマウンテン地下未確認エリア(仮称:クリスタルパレス)への突入だ。




 現在確認されている限りでは、地下への入り口は二か所ある。

 農場に縦に陥没した大穴と、山肌にある横穴だ。

 探せば他にもトロッコの搬出口などがあるのだろうが、探す時間が惜しい。

 ナターシャが俺たちの脱走に気づいていないわけがない。

 巨大雪だるまが帰還しなかったのだから脱出阻止に失敗と判断して、再アタックに備えている可能性が高い。


「昼夜の区別があるダンジョンやねんから、夜中は寝てるんちゃう? 夜襲かけたらええやん」


 と提案したのはエバちゃんだ。


「地下なんだから、昼も夜も関係ねえよ。敵の迎撃態勢が整う前に突入しようぜ」


 と反論したのはバートラムさん。


「睡眠サイクルは大事よ。太陽の見えない地下でも、夜はお肌のために眠ると思うわ。夜襲に賛成よ」


 というのはセシルさんのご意見。


「研究者ならば徹夜は当然。むしろ論戦後は興奮して眠れんと思う。現に儂もこの通り、休めと言われても目がギンギンに冴えて眠れそうにない。即時突入に一票」


 というのがジェレマイアさんの妙に説得力のある意見。

 ていうか突入する気満々ですね、冒険者でもないのに。


「ナターシャさんという人は起きているかもしれませんけど、スチームアントという魔物は蟻の習性が残っているなら夜は寝ているんじゃないでしょうか。ていうか先生、疲れてるんですから、ちょっとでも寝てください」


 というのはケイトリンさんの意見。

 最終的に、これが採用された。


 俺たちは体を休めて日没を待つ。

 スチームアントとナターシャ、どっちか寝ててくれればラッキー。

 寝てなかったら、その時はその時。

 どうせ雪だるまは寝てないだろうし。


 というわけで、農場に開いた大きな陥没口からの侵入だ。

 遊び気分で探検しに行った前回とは違う。

 バリバリに戦うつもりの最強の布陣……のはずだ。

 農業アルバイト冒険者一同に加えて、冒険者ギルドの先輩たちチーム暇人、そしてジェレマイアさんとケイトリンさん。


 ……ケイトリンさん、なんでいるの?



『チーム暇人』は正式なパーティー名ではありません。主人公が脳内で勝手に命名しただけです。彼らはパーティーを組んですらいません。全員ソロです。

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