血も涙もない冷たい奴ら③
岩山の崖の途中にぽっかりと開いた穴で救助を待つ俺たち。
切り立つ崖はかなりの高さで、自力では降りられそうになかった。
最悪、地下へ引き返すことも考えたが、地下はナターシャさんのテリトリーだ。
また巨大雪だるまやそれに近い強敵に出くわす可能性もあるので、できれば地下へは戻りたくない。
「エレベーターがあればいいのに」
「激しく同意する」
俺の呟きにジェレマイアさんが頷いた。
「ここはせめてロープがあればと言うところじゃないか?」
「この二人、発想が変だよな。贅沢というか、我儘というか」
ロレンスさんとマーティーさんがなんか言ってる。
ロープ一本で崖を降りるとか、かっこいいけど危ないじゃん。
上下移動のスピードと安全性ではエレベーターがベストだと俺は思うよ。
この世界にないのはわかってるけどね。
誰か、エレベーター発明して〜。
今すぐここに設置して〜。
※
横穴で待つこと約1時間。
来るあてのない救助を待ち続け、もういっそのこと横穴に引き返して雪だるまとスチームアントの大群に特攻かけようか、と思い始めた頃だった。
エレベーターは生えてこなかったけど、天は俺たちを見捨てなかった。
地平線に砂煙を立てて走ってくる影が見えたのだ。
「応援だ!」
「おーい!」
「ここじゃー!」
「たすけてー!」
砂煙と共に疾走してきたのは騎馬隊を引き連れた一台の幌馬車だった。
※
「師匠、なんでそんな所にいるんですか!」
「おやっさん、それにみんなも、いる場所がおかしい」
「なんで山の中腹なんだよ。農場にいろよ」
ケイトリンさん、そして植木屋さんともう一人の護衛の人。
応援を連れてきてくれたんですね。
「おーい、大丈夫かー。急ぎだって言うから、お馬さん超特急で飛ばしてきたぜー」
厩務員倶楽部の部長さん。
幌馬車と騎馬隊で送迎してくれたんですね、ありがとうございます。
「アーウィン、無事かー。先輩が助けに来たったでー」
エバちゃん。
いつも我儘な困った先輩だと思っててごめんなさい、来てくれて嬉しいです。
「地面に大穴が開いたって聞いたけど、その穴か?」
バートラムさん、来てくれてありがとうございます。
地面の大穴は別の穴です。
「どうやって救助したらいいかしら。私の弓矢でロープを付けて飛ばしてみる?」
セシルさん。
弓矢はいいけど、あの技は使わないでください、お願いします。
「万が一墜落しても回復魔法をかけてあげましょう。即死でなければですが」
グレアムさん。
ありがたいけど、なんか不吉なので微妙です。
「大丈夫、大丈夫。任せてよ。サクッと救助してあげるよ」
……ダニエルさん。
頼もしいセリフですけど、いまいち信用できません。
冒険者ギルドの暇人が勢ぞろい。
有難いような、気恥ずかしいような、ホッと安心して力が抜けそう。
そしてダニエルさん、あなたの顔はできれば見たくなかったです。
※
顔は見たくなかったダニエルさんだが、さすがはシーフ。
器用に崖にハーケンを打ち込んで、ロープを担いで軽々と登ってきた。
その身のこなしはプロとしか言いようがない。
あっという間に岩にロープを固定してしまった。
「かたじけない」
「感謝する」
ロレンスさんとマーティーさんはそれぞれ自分の体にロープをハーネス状に結び付けた。
「儂はこういうのに慣れておらんから」
ジェレマイアさんは冒険者ではなく依頼人なので、麻袋に詰められ、小包のように縛られて、真っ先に降ろされた。
続いてロレンスさん、マーティーさんが降りていく。
残るは俺なんだけど……。
「アーウィンくん、久しぶりだね」
「……どうも」
「ところでロッククライミングとかの経験ある?」
「……ないです」
「ロープ結べる? 手伝ってあげようか」
「……お願いします」
悔しいけど、一から十までダニエルさんに手伝ってもらったよ!
自分でできる気がしなかったからね、悔しいけど!
「ありがとうございます」
「お礼なんかいいんだよ。僕たち先輩と後輩じゃないか。ね?」
「……はい、そうですね」
救助された以上、感謝するしかない。
キラキラ笑顔は胡散臭いけどね。
この人は根本的に信用ならない。
表面的には過去のことは水に流すけど、油断しないように気をつけよう。
無事に地上に降り立った俺たちは農場に移動した。
例の大穴を応援部隊に見せて、地下で見聞きしたことを報告する。
スチームアントの群れが地下で何かを採掘していたこと、線路を使って運び出しているらしいこと、ナターシャさんが占有権を主張して武力行使してきたこと、雪だるまの軍団を手足のように使っていること、巨大雪だるまに追いかけられたこと……等々。
「古代王国の遺跡で何を採掘してるんやろ?」
「遺跡と坑道は別々かもしれないわよ」
「いずれにせよダンジョンで新規階層を発見したら冒険者ギルドに通報する義務があるはずです。私物化するのはルール違反。処罰対象です」
グレアムさんが今にも断罪しに行きそうな気配。
裏の顔(魔狩人)は知らないことになってるので、闇討ちしに行くのはやめてください。
「地下の構造はどんな感じ?」
「マップを描こう。儂が覚えている範囲でだが」
ダニエルさんに問われてジェレマイアさんがシャカシャカと地図を描き始めた。
なかなか上手い。
「ここが線路で、行き止まりが広場で、こっちが坑道で」
「この辺が野菜とか肉とかの保存庫で、この先に謁見室みたいな部屋があったな」
「とにかく寒くて、おやっさんの魔法がなければ厳しいと思った。多分5℃以下だな」
「場所によっては氷点下ですよ。肉とか魚とか完全に凍ってましたもん」
わいわいガヤガヤ、あーだこーだ。
地図のあちこちを指さして覚えていることを話し合う。
ついでに手がかりとして、『管理者以外立ち入り禁止』の部屋を漁って手に入れた物を見せ合う。
ジェレマイアさんが持ち出したのは書類、ロレンスさんは銀色のゴブレット、マーティーさんは瓶入りの液体、俺は魔石。
「アーウィンくん、その魔石ちょっと見せてくれる?」
「えー」
ダニエルさんに言われて俺は渋った。
だってシーフだもん、偽物とすりかえたりできそうじゃん。
「盗らないから。ちょっと鑑定するだけだよ」
「信用できません」
「では儂が鑑定して進ぜよう。価格はわからんが錬金素材としての成分はわかるぞ」
ジェレマイアさんが魔石を見ることになった。
ひっくり返して裏を見たり、光に透かして見たり、顕微鏡で拡大してみたり、爪ではじいて音を聞いたり。
やがて鑑定結果が出たようだ。
「これは氷の魔石だな」
氷の魔石。
魔石に属性ってあったの?
「氷の……!」
ダニエルさんの目がギラリと光った。




