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09 見間違い

「……それで、レンブラント殿下をここ数日尾行をしていても、全く収穫は無かったと言うの?」


 ここ最近、誕生日から色々とあった気晴らしにと誘ってくれたお茶会で、私の隣に座っているイーディスは、婚約者の後を尾けていた私にどうだったのかを聞いた。


「ええ。イーディス。レンブラント様って、あんなにも過密な予定をこなしているのだから、彼の誕生日プレゼントは滋養強壮の効果があるものでも贈ろうかしら……」


 主に外交関係の仕事を任されたレンブラント様は本当に多忙で一日の中に、何人と会うのだろうと私だって驚いてしまうほどだった。


 私が脅したアンドレから渡されている予定表には、時間と場所しか書いていなかったけれど、あれは敢えて書かなかった訳ではなくて、数が多すぎて書けなかったのだと思う。


 レンブラント様の主な居場所である城内の応接室に戻った執務中には、ひっきりなしに人が出入りしていたけれど、その中には彼と恋愛関係に陥っていそうな人女性は居なかった。


 文官の制服を着ていた女性は、何人か仕事で部屋に入っては居た。


 魅力的な王子様から最高値に愛されていて、数値が少ないなんて思えないもの。


 イーディスは私の意見を聞いて、呆れて首を横に振った。


「それは、流石に色気がなさすぎるから、やめておいた方が良いわ」


 確かに喜んではくれるだろうけれど、婚約者からの贈り物として、相応しいとは言えないかもしれない。


「確かにそうね……真面目に考えるようにするわ。私はレンブラント様の心を、名も知らぬ誰かから取り戻さなければならないもの」


 それは誰かわからないけれど、プレゼントの差で向こうの好感度が上がってしまうことは避けなければならない。


「けれど、結局のところ、これまでに他の女性の影は見当たらなかったのでしょう? もしかしたら、それは何かの間違いなのではないかしら?」


 イーディスは頬に手を置いて、困り顔をしていた。


 そうであれば良いと思うけれど、レンブラント様が婚約者の私に対し幼い頃から冷たい態度を取り続けていることに変わりないのだ。


「そうね……イーディスにだって、出来るなら恋愛指数を見せてあげたいわ。貴女と同じ最高値の数字が、彼の頭の上に乗っているんだから」


 そう言って、私は親友イーディスの恋愛指数を確認した。今でもやはり変わることなく『100』で、付き合ったばかりのエミールと上手くいっているようで何より。


「あまりにもその数字が気になってしまうようならば、見えなくする方法もあるわよ。リディア」


 私が上手くいっていないのにエミールのことを話すのもいけないと思ったのか、自分のことについては誤魔化すようにイーディスは言った。


 私のような能力(ギフト)で特別な時だけでなく常時何かに作用してしまうものは、神官が神力を込めたアクセサリーで抑制することが出来る。


 ちなみに神殿で、割と良い値段で購入することは可能だ。


 だから、私も頭上に見える数字を見えないようにすることは出来るのだけど、今見えなくしてしまっても気になってしまうだろうと思う。


「今は良いわ。どうせ数字の存在が気になって堪らなくなって、すぐに外してしまうと思うもの」


 なんとなく未来が想像出来てしまった私が肩を竦めると、イーディスは苦笑して頷いた。


「そうね。大抵の能力(ギフト)は少し生活改善する程度だけど、リディアは婚約者の恋愛指数が見えるようになってしまって、これがなかったとしたら、起こりえない波乱が起こってしまったわね」


 イーディスはそう言って、複雑な表情を浮かべていた。けれど、私はあのまま真実を知らなかった方が幸せだったとは思えなかった。


「……結婚してから、他の女性の存在を知るよりも良かったわ。今なら彼と結婚しないという未来だって有り得るもの」


「まあ……リディア」


 イーディスはわかりやすく強がった私の言葉を聞いて、なんと言うべきかと絶句したようだった。


 そうは言っても、これは簡単な話でもない。王族と婚約していながら、婚約解消をするなんて普通ならばあり得ないことだ。


 ……先方からの申し入れならば、別かもしれないけれど。


「イーディス! ここに居たのか……こんにちは。リディア嬢。お久しぶりです」


 これはイーディスの恋人、エミールの声だ。


 イーディスは嬉しそうに恋人へと手を振って、私は何気なく久しぶりに会う彼の方向へと顔を向けた。


 その時に、エミールの頭上にあり得ない数字を見て、飲んでいたお茶をむせてしまった。


「ごほっごほっ……」


「リディア。大丈夫?」


「驚かせて申し訳ない! ……近付いてから、声をお掛けしたら良かったな……」


 私は見間違いかもしれないと思って、こちらへと寄ってきたエミールの頭の上にある数字を再度確認した。


 嘘でしょう……彼は熱烈に口説き落としたイーディスと付き合い始めたばかりだというのに、何故恋愛指数が『20』なの?


 私は心配そうに自分の背中を撫でてくれているイーディスの頭上にある数字を確認した。


 最高値を示す彼女の隣で、エミールは申し訳なさそうに頭を掻き……そこには、『20』の数字。


 これは、見間違いではないわ……嘘でしょう。


「リディア……? どうしたの?」


 私は言葉を失ってしまい、イーディスは言葉を無くしてしまった私を見て不思議そうにしている。


 これは……なんて、言えば良いの……貴女の恋愛指数は最高値だけど、エミールはそうではないみたいだと……?


 幸せの絶頂にある彼女に、そんな事を言えるはずがない。


 私はごくりと喉を鳴らし、ただお茶に咽せただけではないのかと、怪訝な表情を浮かべたエミールの頭上にある数字を確認するようにしてもう一度見た。

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