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07 脅し

 侍従アンドレがあの場所で、とても焦った態度を見せた理由は、私だって理解している。


 だって、国を治める王族のそういった噂話は当然ながら禁忌とされているし、これがレンブラント様に知られてしまうと、常に傍近くに仕える侍従である彼の立場がなくなってしまう。


 ひと目のある場所だったし、私が配慮が足りていなかった。悪いことをしてしまったわ。


「ごめんなさい。アンドレ……これを話すのならば、初めから場所を移すべきだったわ」


 私がなるべく感情を見せずに言えば、アンドレは可愛らしい顔に微妙な表情で微笑んだ。


「その、あのですね。これは私が言うべきことではないかもしれないんですが、レンブラント様にはリディア様以外の浮気相手など居ません。言い切れます」


 キッパリと言い切ったアンドレに、私は苛立ってしまった。そうではないとわかっているから、私は今ここに来ているのに。


「……どうして、そう言い切れるの?」


「殿下は婚約者であるリディア様を何より大事にしていらっしゃいますし、始終傍に居る私が言い切りますけれど、他の女性に会うなどとそんな機会はありません……絶対に、それはあり得ないんです」


 アンドレは懸命に主を庇おうと説明しているけれど、私の能力(ギフト)の話をすれば、誤魔化しきれない。彼はなんて言うかしら?


 ここに至るまでの経緯を、すべて言ってしまおうかと思った。けれど、直前に思いとどまった。


 ……だって、アンドレはあくまで、レンブラント様側の人間だ。


 レンブラント様だって能力(ギフト)を私に教えてくれないんだから、私だって言わない方が良いわ。


「……根拠については詳しく言えないけれど、私は浮気相手が居ることを知っているの。だから、出来れば教えて欲しいわ。包み隠さず、ちゃんと言って欲しいの。そうしたら、私も婚約者としてしなければいけないことをするわ」


「リディア様が、婚約者としてしなければいけないこと……ですか……それは、もしかして」


 話の内容を聞き、私の本気さ加減に大きな衝撃を受けたらしいアンドレは息をのんでいた。


 彼だって、わかっているはずだ。たとえまだ婚約中とは言え、不貞は契約違反。それは、婚約解消の原因になり得るのだと。


 覚悟を決めた私の据わった目を見て、これは本気だと、アンドレはようやく気がついたのかもしれない。


「……ええ。だから、貴方に協力を仰ぎたいの。レンブラント様のご予定を、私には教えて欲しいわ。事前にわかるならばその場ではどんな動きをするかも、出来れば、すべてを知っておきたいの」


 動揺しているところにたたみかけるようにこちらの要望を話せば、有能なアンドレは珍しくしどろもどろになって狼狽えていた。


「そっ……それは、無理です。殿下のご予定や行き先などは、知られてはいけない機密情報なのです。いくら殿下の婚約者リディア様と言えど、私にだって……その、立場がありまして」


 王族がこれから何をどうするかなどを知る事が出来れば、暗殺の危険が増してしまう。


 アンドレの言い分も、もっともだと私は頷き、切り札を出すことにした。


「それでは、疑わしいは有罪として、私はレンブラント様との、婚約解消を申し入れることにします」


「リディア様! それは! それは……どうか、思い留まりくださいませ」


 アンドレは私の捨て身の脅し文句に対し、ものの見事に焦っていた。


 ……もちろん。私は婚約解消なんてする気は無くて、これは単なる脅しだし、優秀なアンドレもそれは薄々わかっているはずだ。


 けれど、ここで私が婚約解消すると言わせてしまえば、彼の立場がなくなってしまう。


 涙目になり両手を組んで祈るような体勢だけれど、私はそれを冷ややかに見つめ、彼の言い分は聞く気はないと示した。


 可哀想だけど、アンドレにしか頼めない。


「だって、アンドレは私にレンブラント様の予定を、敢えて隠しているってことでしょう? それなら、浮気相手を隠していないという証拠はどこにもないもの」


 無理矢理な理屈だし、アンドレは忠実な侍従として役目を果たしているだけだ。私はそれを利用している酷い女だと自覚はある。


 私だってお互いに程良い距離を保っていたレンブラント様のことでこんなにも必死になれるなんて……これまでに思いもしなかった。


 私たち二人はしばし見つめ合い、根負けしてしまったのは、最悪の事態を想像し涙目のアンドレの方だった。


「……わかりました。本来ならばこれは許されぬ行為ではありますが、他ならぬ殿下の婚約者であるリディア様がお相手なので、問題のない程度にはお教えします。ですが、レンブラント殿下に女性の入る隙間なんて、本当にございませんよ。あのお方が分刻みで動きご多忙であることは、リディア様だって知っておられるでしょう?」


「それは……確かに、知っているけれど」


 オルレニ王国王族は驚くほど多忙なのは、身近に居る私だって知っていた。第三王子とは言え重要な公務が割り振られ、レンブラント様は兄二人とは違う外交関係を任されることが多いそうだ。


「リディア様のお誕生日当日には、どうしても移動が間に合わずに行けないからと、自ら花もメッセージカードも時間を掛けて選ばれたのですよ」


 そんな小さな情報で、安心しろとでも?


 ……侍従アンドレはレンブラント様に仕えているし、なんとでも言えるもの。


 けれど、婚約者の私に冷たい態度を見せるレンブラント様の恋愛指数は、間違いなく最高値の『100』であることには、誤魔化しなんて利かない。


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