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02 親友

「まあ! リディアの能力(ギフト)は、頭上に恋愛指数を見ることが出来るものなのね? ……そうなの。良くわからないけれど、何だか凄いわ。私はどうなのかしら?」


 幼い頃から仲の良い友人で親友と言えるフレイン伯爵令嬢イーディスは、ついこの前に判定された私の能力(ギフト)の内容を聞き、自分の頭の上を指さして目を輝かせてそう言った。


 彼女はうっすらとそばかすのある白く美しい陶器肌が特徴で、焦げ茶の髪に同色の瞳を持つ可愛らしい女性だ。


 ちなみに、私とは同じ歳で数ヶ月前に先に誕生日を迎えたイーディスは『紙程度の軽い物ならば浮かせることが出来る』能力(ギフト)らしい。


 とは言え、日常の中でそんな能力(ギフト)をどう使えば良いのか用途がわからないので、ほぼ使わないそうだ。


 もしかしたら、彼女が紙を扱う仕事をしていたら役に立つこともあったかも知れないけれど、労働をすることのない貴族令嬢に使える場面はないだろう。


 私も彼女の能力(ギフト)を誕生日直後に見せて貰ったことがあるけれど『紙が浮いたわね』という感想以外は思い浮かばなかった。


 そうして、ろくに使われないままに終わってしまう能力(ギフト)も多いのだろうと思う。


 教会での『能力ギフト判別の儀式』を受けた誕生日の三日後に、私たち二人はフレイン伯爵邸の陽光降り注ぐ庭園にてお茶会をしていた。


「あら。貴女の頭の上に、浮かんでいる数字は『100』よ。イーディス。これは最高値らしいわ。まあ……貴女は現在、付き合ったばかりの恋人と熱愛中ですものね。お熱いことだわ」


 実はイーディスはついこの前に出会ったルピノ伯爵令息エミールと、真剣交際中なのだ。


 お互いにとって初めての恋人なので、ぎこちなくも初々しい可愛らしい二人だ。


 自分の期待通りだった『恋愛指数』の結果を聞いて、イーディスは嬉しそうに顔を綻ばせた。


 イーディスの場合、付き合っているエミールの方から、見ていて恥ずかしいくらいに熱心に口説いて来ていたので、当初はあまりその気になれなかったらしい。


 けれど、今ではエミールの努力が実り、彼女も彼のことが好きになり、見事に両想いのよう。


 いやよいやよも好きのうちとは言うけれど、あれほど迷惑だと言っていたのに、押されて押されて気がついたら好きになっていたらしい。


 人の気持ちなんて、わからないものだわ。


 幸せそうな二人は羨ましいけれど、私からするとどこか遠い場所の出来事のように思える。


「ええ。そうね。私とエミールは付き合ったばかりなのだから、それは当たり前のことよね。だって、私は今でも、彼が何をしているか気になってしまうもの……仕事中なのだろうけど」


 うっとりとした眼差しで空を見つめ、イーディスは両手を組んだ。彼女の目にはそこにエミールの顔が映っているのかもしれない。


 恋愛指数最高値の計測は正確なようだわ。だって、そんなイーディスが今恋なんてしていないだなんて、誰も思わないわよ。


「なんだか急に暑くなって来たわ。冷たい氷菓子でも出して貰おうかしら?」


 まだ氷菓子には季節的に早いけれど、私が揶揄うようにそう言って手で顔を仰げば、彼女は楽しげにくすくすと微笑んだ。


「体が冷えてしまって構わないのなら、別に構わないわよ。そうだわ。リディアの婚約者様の恋愛指数は、どうだったの?」


 イーディスは自分側の話をしたのだからと思ったのか、私の婚約者の話へと水を向けてきた。


 とは言っても、私と婚約者の関係は彼女たちとは違ってお熱いとは言い難いので、素っ気なく肩を竦めた。


「ああ。どうなのかしら。最近はお忙しいらしくて、まだお会いしていないの。きっと、あの方は『10』とか。あっても『15』とかではないかしら。だって、女嫌いの噂もあるくらいに、婚約者の私に冷たいのよ」


 自分が最高値の恋愛指数を持つイーディスは、私の婚約者が現在どの程度の恋愛指数なのかと、気になってしまっても不思議ではない。


 けれど、私たち二人はお互いの親の政略的な理由で、幼い頃から婚約している関係だし、イーディスやエミールのように恋愛をしての熱烈に好き同士の関係という訳ではない。


 親からそれを決められているから、将来結婚するだけの関係なのだ。


「けれど、リディア。あのお方は折々の贈り物も欠かさないし、三日も置かずにお手紙も来るし、一週間に一度は、何がなんでも絶対に会う機会を作ってくれるんでしょう。それって……貴女のことが、とても好きだからではないの?」


 幸せな人は周囲の人たちも、幸せにしたくなってしまうのかも知れない。


 イーディスは善良で無邪気で可愛らしく、悪意が全くない。フレイン伯爵家は裕福だし跡取り娘の彼女は大事に育てられ、性格も良く私もとても好きだ。


 だから、これは幸せな自分とそうではない私の関係を対比して嫌味を言っている訳ではないとわかっているので、ここは苦笑するしかなかった。


 目の前に居るイーディスも知っている通り、私を冷たくあしらう癖に婚約者は熱烈に好き同士のような婚約者らしいことをしてくれる。


 けれどそれは、周囲からそう見えるようにしているだけなのだ。


 私には冷たい態度を取り続けていて、実際には全く違う。


「それは……そうではないわ。きっと、あの方にとっては私との関係も仕事の内なのよ。だって、彼は体面を気にしなければならない王族ですもの」


 再度肩を竦め浮かない表情になった私を見た気の利くイーディスは、先日王都で開店した可愛らしいお菓子屋の話へと話題を変えていた。




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