15 誤解
色々と判明してすぐに手紙を書いて呼び出した親友イーディスは、朝一番で我がダヴェンポート侯爵邸へと来てくれた。
私は順を追って説明し、レンブラント様の前で真相が書かれた神殿からの手紙を読んでしまった気まずい瞬間までを聞いてもらった。
「まあ! そうだったの! 頭上にある数値は、リディアへの好感度だったのね」
私の能力の内容を聞いたイーディスは、嬉しそうに目を輝かせていた。
「そうなの……どうしよう。イーディス。これって、レンブラント様は私の事を、好きだって言う事でしょう?」
私は両手を頬に当てた。熱い。
昨夜、神殿からの手紙を読んだあの時から、まるで風邪で高熱を出した時のように頭がぼーっとしてしまうのだ。
「ええ。そう言うことだと思うわ。リディア。殿下に他の女性が居るなんて、これまでずっとおかしいと思っていたけれど、そう言う事だったのね」
イーディスはそう言って苦笑した。
彼女は当初からずっと『何かおかしい』とあやしんでそれを言ってくれていたのだから、私がその言葉を落ち着いて考えてみれば、神殿側の判定結果が間違えているのかもしれないということに早く気がつけたかも知れない。
「……あの、ごめんなさい。イーディス。実は貴女の恋人のエミールのことなのだけど……私は恋愛指数だと思っていたから、数値の低い彼にイーディスを騙しているのかも知れないと勘違いして彼を責めてしまったの」
私は彼のことをすっかり勘違いしてしまって、イーディスの恋人エミールを責めてしまったことを打ち明けた。
イーディスの事を思えばこその行動だったのだけど、余計なお世話をしてと言われればその通りだった。
「まあ……そうだったの。リディア」
「ごめんなさい。イーディス……」
やはり、エミールはイーディスには何も伝えていなかったようで、彼女は驚いてはいたけど、私が心を込めて謝罪をすれば手を握って慰めてくれた。
「思ってもみなかったから驚いてしまったけれど、神殿の勘違いでそうなってしまったのなら、貴女が悪いわけではないわ。それに、私への厚い友情を感じて、責められてしまったエミールには悪いけれど、嬉しくなってしまったもの」
確かに彼女の言う通りに親友イーディスでなければ、あの時エミールに意見していたかというとわからない。
私にとって彼女は失い難い、大切な友人だからだ。
いつか必ず不幸になるとわかっている相手ならば、どうにか遠ざけたいと思ってしまうほどに。
「そうなの……けれど、勘違いでよかったわ。実は……勘違いしてエミールを責めている間、彼の好感度は下がり続けて、最終的には一桁になってしまったのよ。とんでもない女だと思われてしまったわね。きっと」
昨夜、イーディスと同様にエミールにも謝罪の手紙をすぐに書いたけれど、まだ返信はない。貴族の朝は遅いので、今は手紙を開いて読んでくれている程度の時間だろう。
「リディア。大丈夫よ。貴女が悪いと言うことはないわ。きっと、エミールならわかってくれるはずよ」
「ありがとう。イーディス」
エミールの件についてはイーディスが取りなしてくれそうで、私はほっと息をつき安心した。
「それよりも、今対処しなければいけないのは、貴女とレンブラント殿下の事よ!」
私は真面目な顔をしたイーディスがいきなり声を上げて、驚いて目を見開いてしまった。
そうだった……レンブラント様とどう接すれば良いのかと相談するために、イーディスをここに呼び出したのだった。
「ええ……そうね。レンブラント様と、一度ちゃんとお話しするべきだと考えてはいるの。私の気持ちとか……それに、この前に授かった能力についてであるとか……」
彼の私への気持ちが聞かずともわかってしまうという、あまりない状況下だけど……私の告白は必ず上手くいくはずだ。
レンブラント様の好感度は、彼の頭上に乗っているもの。
「二人ならば問題はないと思うけれど、せっかくだから、良い雰囲気の中で打ち明けあった方が良いのではないかしら? きっと思い出に残るでしょう」
「……良い雰囲気の中で?」
そういえば、私たち二人は婚約者だと言うのにいつも淡々としていた。
私自身がレンブラント様と一定の距離を保っていたこともそうだし、彼だって、それ以上に踏み込もうとはしなかった。
「ええ。貴女たちは両想いなのだから、きっと上手くいくはずよ」
イーディスは力強く頷き、私もそれに頷いた。
「そうね。もうそろそろ、レンブラント様の誕生日だから、そこで何か計画してみようかしら?」
また熱くなって来た頬を両手で押さえつつ私がそう言えば、イーディスは目を輝かせて喜んだ。
「……そうしましょう! そこで殿下のことが好きなのだとはっきりと告白すれば、きっと、喜んでくださるはずよ。大体二人とも婚約者なのによそよそしくて、見ているこっちが心配になってしまうほどだったもの。勘違いがあってやきもきしたけれど、結果が良かったら全て良しなのかもしれないわ」
イーディスは自信満々でそう言い、私だって確かにそうなのかもしれないと思えた。
レンブラント様の頭上にある数字は最高値で、これで私たち二人が上手くいかない理由なんて何も思いつかないくらいだもの。




