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10 告白

 今日も私はアンドレが用意してくれた部屋で執務中のレンブラント様を高価な双眼鏡で見つめながら、昨日偶然にも確認してしまったエミールの『恋愛指数』の低さについて考えていた。


 イーディスは、私にとって一番の親友だ。彼女にとっても、きっとそうだと思う。


 幼い頃からとても仲が良くて、私の幸せを一番に喜んでくれる友人は彼女だろうし、私にとっても彼女の幸せは心から喜びたいと思える人なのだ。


 それなのに、あの……付き合いだしたばかりの恋人エミールの頭上にあった数字……信じられない。


 エミールは最初から好意を隠さずに迫ったイーディスを好きでいるだろうと思っていたし、彼女だってそれを疑っていないはずだ。


 あのように、二人の恋愛指数に差があるということは……もしかしたら、彼はイーディスを利用しようとしているということ……?


 彼女のフレイン伯爵家は莫大な資産を持つ家として有名なのだけど、跡取りとなる男子に恵まれず、彼女は次期フレイン伯爵となる婿を迎えるはずの総領娘だ。


 対して、エミールはルピノ伯爵令息とは言え、世間的には“跡取りのスペア扱い”されてしまう次男。


 つまり、本来ならば実業家や騎士として身を立てて生きていくか、こうして……婿取りすることを希望している女性と結婚をするかしか生きる道がない。


 ……イーディス自身がそれでも別に構わないと思うならば、それは、私が口出すべきことではないのかもしれない。


 けれど、私にとって彼女はすごく大事な存在で……騙されるように愛のない結婚になってしまうとわかりつつ、それを見逃すことなんて出来ない。


 そんな風に悪い男に利用されてしまうなんてイーディスを大事に思う私にとっては、絶対に許し難いことだった。


 悪い未来の想像がどうしても止まらずに、私は大きくため息をついた。


 鬱々と考えたって、事態が変わることなんてあり得ないのに。


 こうして、能力(ギフト)が覚醒し恋愛指数が見えるようになってしまって、今まで見えなかったものが見え過ぎてしまう。


 レンブラント様が誰に恋をしているかという事実だって気掛かりだけど、イーディスとエミールの件だって、このまま何もせずに放っておくことは出来ないわ。


 もう一度ため息をついた私は、気晴らしをしようと城中を散歩することにした。私は王族の婚約者だし、城の中は良く出入りをしている。


 尾行をしていたレンブラント様はここ一週間、何かを楽しむ余暇の時間さえもなく、仕事しかしていないようだ。


 収穫はないに越したことはないのかもしれないけれど、私は無実ではないと知っている。


 けれど、私がダヴェンポート侯爵邸へと帰ってしまった後に、誰かと会っていてもわからない……むしろ、その方が可能性としては、高いと言えるのかもしれない。


 だって、ダヴェンポート侯爵令嬢である私を表向きの妻に据えるならば、もしかしたら、お相手は身分の低い女性なのかもしれないし……。


 悪い想像がぐるぐると止まらずに考えを巡らせていた私は、前から歩いて来る男性の姿を見て頭に血が昇ってしまった。


 偶然、ここで会うことになったエミールは私に気がつき、にっこりと微笑んで頭を下げた。


 いつもならば、もう少し考えて行動が出来たのかもしれない。


 けれど、その時の私は何個かの難しい問題に直面し、これまでになく切羽詰まっていて、そこで正常な判断をしたとは言い難かった。


 イーディスのためならば、彼に悪く思われても構わないと思っていた。


「あの……エミール。少し話がしたいのだけど、良いかしら」


 すれ違う瞬間に私に話しかけられ、エミールは不思議そうな表情を浮かべながらも頷いた。


「ええ。構いません……もしかして、イーディスに関わることですか?」


「そうよ」


 眉を寄せた私は、エミールの質問に軽く頷いた。


 私と彼の間にある人物はイーディスなので、もしそれがなければ、こうして親しく話すこともなかったはずだ。


「……ここでは話せないから、良かったら場所を移せるかしら?」


 私の表情や口調で何か深刻な問題を抱えているのかと、エミールは思ったらしい。真面目な表情で頷いた。


「構いません。イーディスに関わることなのですね。ぜひ、お話を聞かせてください」


「こちらへ……」


 私は彼を促して、つい先ほど自分が出てきた部屋へと戻った。


 そして、エミールと立ったままで向かい合った。


 挑戦的な態度と見られてしまっても仕方ない。エミールはここで何を伝えられるのかと、とても不安そうだ。


 私だって、本当はやりたくないのだけど……これをしないままで居たら、絶対に後悔してしまうから。


「こういうことは……中途半端に隠していても仕方ないから、はっきり聞くわ。エミール」


「……はい」


「実はついこの前に与えられた私の能力(ギフト)は、人の恋愛指数を見ることなの」


 真っ直ぐに彼の目を見つめている私に、エミールは戸惑っているようだ。


「恋愛指数……ですか? ……それは」


「恋愛をしている度数というか……恋に落ちている深さを測ることの出来る数値みたいなの。それで、貴方の頭の上にある数字は、かなり低くて……イーディスは最高値なの。エミール」


 エミールは驚いた表情になっていたけれど、あんなにまで上手くイーディスを欺いていたとしたら、それも演技なのかしら?

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