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80.テロリスト

 白亜の街並みが斜陽を浴びて、都市全体が薄いオレンジ色に染まり始めた頃。

 ミルネッティは仲間達と共に万職相互組合ムルペリウス本部を訪れた。

 エントランス兼ロビーに踏み込むと同時に、真っ直ぐ受付カウンターを目指す。今日ミルネッティは、ムルペリウス近郊を走る街道沿いの森まで足を延ばし、緑小鬼の群れを討伐する依頼をこなしてきた。

 その結果報告と同時に、依頼料受け取り手続きを受付嬢に申し入れる傍ら、ミルネッティの視線は休憩スペースに並んでいるソファーやテーブルの間を彷徨っていた。


(あ、居た)


 ソウルケイジが何かの文書を手にして、壁際のソファーに腰を下ろしている姿があった。

 そのソウルケイジに、ミルネッティの仲間達が嬉しそうな笑みを浮かべて駆け寄ってゆく。


「やぁ、久し振り!」


 声をかけたのは、槍戦士のイオだ。彼は以前、エヴェレウス王国辺境の都市クルアドーを拠点としていた万職で、かつてはアネッサとも組んでいた青年だった。ソウルケイジとはクルアドーで知り合ったらしい。

 ソウルケイジはイオにちらりと視線だけを向け、そしてすぐに手元の文書へと目を戻した。


「ミルネッティはどうだ?」

「いやぁ、大したモンだよ。今まで出会った操設士ん中じゃトップクラスなんじゃないかな」


 答えたのは剣戦士のホレイスだった。彼もまたイオと同じくクルアドーからここムルペリウスへと移動してきた万職で、イオとは駆け出しの頃からチームを組んでいるという話だった。


「ミルネッティ、終わったよ」


 イオやホレイスと言葉を交わしているソウルケイジに意識を向けていたミルネッティだったが、傍らから魔法術士のジェイドが報酬金の詰まった革袋を掲げつつ、彼女の肩を軽く叩いてきた。

 実はミルネッティ、最近この三人――イオ、ホレイス、ジェイドの堅鉄級万職トリオと探索班を結成し、たびたび依頼を受ける様になっていた。

 階級からいえば牙鋼級のミルネッティが頭ひとつ抜けているのだが、自分は他人に指示を出すのには性格的に向いていないという自覚があった為、リーダーはイオに任せている。

 この三人共、アネッサが態々クルアドーに手紙を出して呼び寄せたらしい。ソウルケイジがミルネッティの腕を鈍らせない為に適当な万職を紹介しろとアネッサに打診したところ、アネッサがかつての仲間達を呼び寄せることで決着したという訳である。

 ミルネッティとしてはソウルケイジと共に依頼を受けられないのは少し寂しい気分もあるにはあったが、力量差が余りにかけ離れ過ぎている黒衣の巨漢と一緒では、受けられる依頼内容にどうしても限りがある。

 そこでソウルケイジがミルネッティと同行可能な階級の万職を探した結果、今のこの三人が最適だという結論に至った。

 実際ミルネッティは、この新たな三人の仲間達には何の不満も持っていない。共に助け合い、共に笑い、共に苦難を乗り越える毎日は、意外と楽しかった。

 イオとホレイスは最大限の敬意を示してくれるし、ジェイドは嫌な顔ひとつ見せずに色々と協力してくれる。もしかすると、ソウルケイジと組む以上に充実しているのではないだろうか。


「そうか。では引き続き、互いに切磋琢磨しろ」

「うん、勿論!」


 笑顔で黒衣の巨漢に頷き返すホレイス。

 何だか、聞いているミルネッティの方がこそばゆい感じがしてきた。他者から褒められる、称賛される経験が少な過ぎたからかも知れないのだが、今は兎に角、ちょっと空気を変えたいという気分だった。


「あ、ねぇご主人様……それ、何読んでるの?」


 不自然にならない程度に、歩を寄せながら違う話題を振ってみたミルネッティ。

 ソウルケイジは、面倒な連中が動き始めていると応じた。


「セルパクロー統一尊教は知っているな?」

「あ、えぇっと、カレアナ聖導会をめっちゃ敵視してて、東の超大陸に本部がある大きな宗教だよね?」


 ミルネッティは必死に記憶の中から手繰り寄せながら答えた。ソウルケイジはその通りだと小さく頷き、続けて物騒な台詞を口にした。


「その連中がこの大陸では半ばテロリストと化している。特にここカレアナ聖教国では過激派組織が、そこら中で暴れ始めている様だ」


 そしてその攻撃対象は徐々に、ここムルペリウスに迫りつつあるのだという。


「うわぁ……ってことは、ここも危ないってこと?」

「相互組合は聖導会とは一線を画しているから、そう狙われることは無いだろう。問題は寧ろ、太聖大学の方だろうな」


 ここでミルネッティは、喉の奥であっと声を漏らした。

 ソウルケイジはリテリアの命を守ることを最優先としている。そのリテリアの命を狙っているのは外星体が派遣した怪物ばかりだと思っていたのだが、リテリアの特級聖癒士という立ち場を考えると、彼女がセルパクロー統一尊教の標的とされてもおかしくはない。


「基本的には俺が対処する。しかしお前達もリテリアやアネッサと関りがある以上、多少は気にかけておいた方が良い」

「いや……多少どころじゃねぇって」


 ホレイスが幾分紅潮した頬を膨らませて声を大きくした。


「アネッサは今でも、俺達の仲間なんだ。あいつに手を出そうってんなら、俺も黙っちゃいねぇぜ」

「うん……ボクだって、リテリアとアネッサがそんな訳の分からない連中に傷つけられるのは、放っておけないよ」


 ミルネッティもホレイスに続いて気勢を上げつつ、ぐっと拳を握り締めた。

 するとソウルケイジは、手にしていた文書をテーブル上に置いた。


「セルパクローの操獣法師が聖教国内に潜入したらしい」


 操獣法師とは、自身の魔素を用いて凶獣や魔性闇獣を自在に操る専門技課である。個人の戦闘能力も比較的高い方で、駆け出し程度の万職では中々厳しい相手かも知れない。

 それでも、ミルネッティは退くつもりは無かった。

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