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79.パーティードレスと用心棒

 新歓パーティーを翌日に控え、クロルドは衣装合わせや装飾品の選定に随分と時間を取られた。

 エヴェレウス王国の代表として臨む以上は、決してその威厳を損う様な真似をしてはならない。それは所作や言葉だけではなく、身に纏う物品全てに於いてもいえることだった。

 正直なところをいえば、無駄に着飾るのは趣味ではない。

 しかし各国支配者層や高位貴族の子息令嬢が参加する以上は、我を通してなどいられない。彼ら彼女らから嘲りを受けぬ為にも、ここは完璧に仕上げておく必要がある。

 気は進まないが、これも王家の務めだと諦めて我慢するしか無いだろう。


(まぁどうせ、ひと晩だけの辛抱だ)


 それに、この新歓パーティーを足掛かりに新たな縁を繋ぐ切っ掛けが得られるかも知れない。ここは多少無理をしてでも頑張ってみるのが吉だろう。

 そうして二時間近く費やして、やっとひと通りの準備を終えた。

 するとその時、衣装室のドアをノックする音が響いた。専属執事のティオルが応対に出ると、どうやら来客らしい。


「殿下、どなたかお呼びになられていたのですか?」

「おっと、もうこんな時間か……」


 問いかけるティオルに応じながら、クロルドは部屋着のボタンを留める手を休ませることなく幾分慌てて廊下へと向かう。


「実は光金級殿に、来て貰う様に頼んであったんだ」


 クロルドの応えに、ティオルは少しばかり驚いた様子だった。

 エヴェレウス王国の関係者の中で、カレアナ聖教国に留まっている光金級万職といえば当然、ひとりしかいない。

 ソウルケイジだった。

 クロルドが応接室へ姿を見せると、黒衣の巨漢は壁際の大きな絵を眺めて静かに佇んでいた。


「お待たせして申し訳ない。さぁ、どうぞかけて下さい」


 相変わらず表情の欠片も無いソウルケイジは、軽い会釈を送ってから豪奢なソファーにやや浅い位置で腰を下ろした。


「王室からの正式依頼か?」

「はい。明日、タルネアン太聖大学で新歓パーティーが開催されます。その席に、用心棒としてご参加頂きたいのです」


 クロルドは事前に、万職相互組合を通じて指名依頼という形でソウルケイジに打診していた。そして彼が態々ここまで足を運んできたということは、承諾してくれるものと見て良さそうだ。

 実際ソウルケイジは、了解したと短く応じた。

 この時のクロルドは心の底から、ほっとした気分だった。ソウルケイジを呼び込むことが出来るかどうかで、今後の自身の立ち位置が大きく変わってくると考えていたからだ。

 しかし実のところ、クロルドがソウルケイジを呼んだ理由には別の意味合いもある。

 ロサンテス第二皇子ジェスナーへの牽制であった。

 あの男は、リテリアとアルゼンをこの学府から追い出そうと画策している。勿論クロルドは、その様な暴挙を許すつもりはない。実際彼は秘密裏に、アルゼンと協力体制を構築した。

 が、はっきりいって自身とアルゼンだけでは、あの傲慢な皇子には対処し切れないと踏んでいた。

 そこで目の前の、一国の軍隊に匹敵する戦闘力を持つ超人の存在感を見せつけ、余計な真似はするなという暗黙のメッセージを叩きつけてやろうと思いついた次第である。

 特に、ソウルケイジの噂は既にエヴェレウス国外にも広く知れ渡っているとの情報を幾つも掴んでいる。

 恐らくジェスナーも、この光金級の名は知っていても、その威厳や迫力は未体験だろう。

 であれば、新歓パーティーで先手を打って出鼻を挫く。

 それがクロルドのプランだった。


「本当に助かります。光金級殿が居て下さるなら、僕も大いに勇気づけられるというものです」

「話は変わるが、リテリアはどうするのだ?」


 クロルドは丁度良いとばかりに、軽く手を叩いた。

 すると何人かの侍女が入室してきて、一着の豪奢なドレスを披露した。

 ソウルケイジが無言で、目線のみで問いかけると、クロルドは自ら立ち上がってドレスの傍らに立ち、袖部分を手に取って手触りを確認してみせた。


「これは、リテリア嬢への贈り物です。彼女には、このドレスを着て貰った上で参加して頂きます」

「では、侍従団として迎える訳だな?」


 実はこの件は、アルゼンを通じてクロルドの耳に届いていた。リテリア本人からはまだ正式に申し入れされていないのだが、先にクロルドの方から彼女に打診する形で話を付けてやろうと考えていた。

 聞けば、リテリアはパーティードレスを一着たりとも用意していなかったらしい。

 であればせめて、それぐらいは用意してやろうというのがクロルドのリテリアへの誠意だった。


「彼女、気に入ってくれるでしょうか」

「本人に訊け」


 ソウルケイジは全く興味無さげな様子で立ち上がり、室を辞そうとしていた。用件が終わった以上、長居は無用だということなのだろう。

 と、ここでクロルドは再度ソウルケイジを呼び止めた。


「実はひとつ、気がかりなことがあります」


 振り返ったソウルケイジに、クロルドはジェスナーの存在を告げた。この男がリテリアの障害になり得るということを、暗に示すつもりだった。

 これに対してソウルケイジは、


「決定的に拙い状況になる様なら考える」


 と、微妙な回答を口にするばかりであった。

 ソウルケイジの目的は飽くまでもリテリアの身の安全である。周りの者でどうにか出来る分には、自分達で何とかしろ、ということなのだろう。


(ははは……相変わらず、ブレない御仁だ)


 クロルドは去ってゆく黒衣の背中を見送りつつ、静かに苦笑を漏らした。

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