78.新歓パーティー
初日の講義を終えてひと息ついたリテリアとアネッサは、カティアを加えた三人で、アルゼンとの待ち合わせ場所となっている噴水広場へと足を向けた。
この日、最初の講義を終えたお疲れ様食事会を開こうということで、カティアお勧めの店に予約を取っていたのである。
アルゼンはまだ姿を見せていないが、時間にはまだ少し余裕があった。
そんな中で、カティアは毎度の如く恐縮しきりの表情でリテリアとアネッサに挟まれていた。
「あ、あのぅ……わ、私なんかが、ご一緒させて頂いて……その、だ、大丈夫、なんでしょうか?」
「全然大丈夫だよ~。あたし達はこの街、まだまだ全然ビギナーだからさ、カティアに色々教えて貰えると嬉しいかな、なんて思ったり」
恐縮気味のカティアに、アネッサが明るい笑みを向けた。
入学式で偶然彼女と知り合う切っ掛けを得たリテリアとアネッサは、その後も事ある毎にカティアと行動を共にし、ムルペリウスの各所を色々と案内して貰っていた。
カティアは地元生まれの平民で、実家は中流商家を営んでいるのだという。財力は程々で、商売は長男が継ぐことになっているから、カティアは昔からの夢だった聖癒士になりたいと両親に訴えたところ、一発OKで許可が貰えたということらしい。
「とても理解のある御両親なのね」
そんなカティアの話を聞いていると、リテリアも少しばかり嬉しくなった。リテリアは孤児だから、実の両親の顔は知らない。幸い彼女を育ててくれたクライトン孤児院の院長はとても誠実で、孤児達の将来を真剣に考えてくれる素晴らしい人物だったから、彼の世話になっていたことには心から感謝をしている。
が、矢張り両親への憧れというものはリテリアの中で少なからず根付いており、カティアの話を聞いていると嬉しく思うと同時に、少し羨ましくもあった。
「あ、そういえばさぁ、新歓パーティーどうすんの?」
不意にアネッサが、突然思い出した様な調子で訊いた。
新歓パーティーとはその名の通り、タルネアン太聖大学の新入生を歓迎する為のパーティーだ。学生が参加する催しとしては随分と豪華らしく、カレアナ聖導会が態々予算を捻出してまで開催するという話だった。
どちらかというと貴族の舞踏会に近い雰囲気だと聞いているのだが、果たしてそんなところに、平民出身の三人が顔を出して良いものかどうか。
「そうよねぇ……着ていく服なんて全然、用意してなかったし」
リテリアは太聖大学での生活は兎に角学び一辺倒でしか考えていなかった為、パーティードレスなど一着も持ってきていなかった。
それに第一、エスコートしてくれそうな男性が居るのかどうか。
「えー? ソウルケイジ連れてったら良いんじゃないの?」
アネッサが物凄く無責任なひと言を放った。
確かにこの新歓パーティーでは珍しく、部外者の参加が許されている。但しそれはエスコート役やパートナーとして参加する場合に限られているのだが、それでも一応ソウルケイジを引っ張り込むことは可能だ。
しかしリテリアは、乾いた笑みを浮かべながらかぶりを振った。
「あ、ダメダメ。あの方、そういうのは一切、関わろうとしないから」
ちょっとした夕食の誘いですら乗らない様な男である。ましてやパーティーなど、いわずもがな。
「えと……どの様な、御方なのでしょうか……?」
「あぁうん、また機会があったら紹介してあげるけど、兎に角不愛想なんだよね」
カティアに応じながら苦笑いを浮かべるアネッサ。
その傍らで、確かに、と内心で頷くリテリア。
如何に男前とはいえども、あの仏頂面では却って余計な軋轢を生みかねないから、下手にパーティーなどには連れて行かない方が良いかもしれない、と変な方向で自分に納得してしまった。
「あたしはまぁ別にどっちでも良いんだけど、特級聖癒士が参加しないのは流石に拙いんじゃない?」
「う~ん、そうかしら……」
改めてアネッサに指摘され、リテリアは真剣に考え込んでしまった。矢張り最初ぐらいは顔を出しておいた方が良いだろうか。
しかしどうにも気が進まない。
ミラベルとその取り巻き連中は間違い無く参加するだろうし、先日カティアを助けた際に因縁が出来てしまった謎の男性とも接触する可能性がある。
単にトラブルの海へ自ら飛び込んでいく様にしか思えず、出来れば何とか理由を付けて辞退したいというのが本音だった。
などといっているうちに、アルゼンが小走りで通りの向こうから姿を現した。
「いやぁ、申し訳ない。少し演舞場の片付けに手間取ってしまって」
申し訳無さそうに頭を掻くアルゼン。しかし時間に遅れた訳ではなく、寧ろ少し早いくらいだ。それでも先に三人が待っていたことに対して頭を下げる辺り、アルゼンらしいといえば、らしい。
「あ、あの、はじめまして。リテリアさんと聖癒士養成科でご一緒させて頂いてる、カティア・メロウズと申します……」
「ご挨拶が遅れました。アルゼン・バルトスと申します。これからどうぞ宜しく」
ふたりの自己紹介を見届けたところで、早速予約の店へと足を向ける。既に天は濃い藍色に包まれており、そこかしこで星が瞬き始めていた。
と、その道中で再びアネッサが新歓パーティーの話を持ち出した。アルゼンはどうするのかと問いかける為らしい。
「うん、まぁ、出ない訳にはいかないだろうね。殿下の御付としての立場もあるし」
それもそうか、とアネッサ。
アルゼンは近衛騎士だ。クロルドが参加するなら、出ない訳にはいかない。
「あ、だったらさ、一緒に侍従団って形で参加したらどう? それならエスコート役、要らないじゃん」
思わぬ提案がアネッサの口から飛び出してきた。が、悪くない発想だった。
可能であれば極力目立ちたくないリテリアとしては、ミラベル達からの攻撃も、王家の御付という立ち位置なら何とか未然に防ぐことが出来るかも知れない。
「……それ、良いわね」
ついつい本気で考えてしまった。
しかし、どうやってクロルドに話を持っていけば良いのか――そこだけが、問題であった。




