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75.下準備

 幾つもの乗合馬車を乗り継いで、漸く到着したカレアナ聖教国。

 その首都であるムルペリウスの街並みを目にした時、ミルネッティは道端で呆けた表情のまま、周囲をきょろきょろと見廻してしまった。

 エヴェレウス王国のどの都市に於いても見られない洗練された建築様式が流麗で、どっちを向いても、ただただ美しい。

 全体に白を基調とした石造建物が多く、カレアナ聖導会が掲げる清廉と博愛の精神が、街全体を覆っているかの様に思えた。


(うひゃ~……リテリア達、こんな綺麗なところで何年も過ごすんだなぁ)


 そんなことを思いながら、ミルネッティは万職相互組合ムルペリウス支部へと足を向けた。この相互組合の建物もまた、エヴェレウスにある支部とはまるで比較にならない程に美しく、垢抜けた印象が強烈だった。

 こんなところに足を踏み入れても良いものかといささか挙動不審になりながら、ミルネッティは巨大な木製扉を押し開け、エントランス兼ロビーの中を覗いてみる。

 流石に森精種の格好のままでは悪目立ちし過ぎる為、今回も変身法術が仕掛けられた専用の指輪を着用し、純正人種として振る舞っているミルネッティ。

 その甲斐あってか、屋内に居た他の万職達から無用な注目を浴びることも無かった。

 そして、すぐに見つけた。

 黒衣の巨漢が掲示板前に佇んでいる。ミルネッティは他には一切目もくれず、ソウルケイジの元へと一直線に駆け寄った。


「ご主人様ぁ、会いたかったよぅ」


 久々に会った不愛想な男は相変わらず端正な顔立ちで、そしてにこりとも笑わない。ただ僅かに面を巡らせ、黒い瞳で見下ろしてくるばかりだった。


「んもう……ちょっとぐらい、喜んでくれたって良いんじゃない?」

「報告しろ」


 ソウルケイジは挨拶の言葉も何も無く、いつもの調子で用件だけを端的に口にした。

 ミルネッティは、ハイハイ分かりましたよと小さく肩を竦めつつ、懐から一枚の紙片を取り出した。


「王国の宮廷魔法術士25人から成る特別警戒チームで、王国と聖教国全体に監視ネットワークの構築が完了したんだって。ご主人様が教えた外星体波動に対する探索波形も常時展開済み。これでいつ、どこからメテオライダーが侵入してきても、すぐにご主人様に念話法術での連絡が入る様になったってさ」

「了解した」


 本当にただ、それだけだった。それ以上は何もいわず、これといった指示を出す訳でも無い。

 予想していたとはいえ、ここまで徹底して無感動な対面となると、少しどころか、かなり寂しかった。


「でもさぁご主人様。この報告だけなら何も態々ボクが来なくても、遠隔念話法術でさらっと済ませちゃえば良かったんじゃない?」

「駄目だ。奴らに盗聴されてしまう。そうなってはこちらの警戒網を突破されるだろう」


 奴ら、とはメテオライダーのことなのだろうか。念話法術を盗聴とは、一体どういうことなのか。

 ミルネッティには今ひとつピンと来なかったのだが、兎に角、直接顔を出して口頭で伝えなければならないというのは何となく理解出来た。

 しかし、それならそれでも構わない。こうしてソウルケイジと会う口実が出来た訳だから、ミルネッティとしては結果オーライだった。

 で、折角だから思い切って頼んでみることにした。


「あのさ、ご主人様……その、ボクもここに、居て良いかな?」

「暇なのか?」


 思わぬ反応に一瞬、頭の中に疑問符が幾つも浮かんだミルネッティだが、しかし確かに、今のところこれといって用事がある訳でも無い。

 救出して貰った兄弟や幼馴染み達はレイラニの招待を受けて、今は枝先の里で安全に暮らしている。

 ミルネッティとしては万職に身を置くこととなった最大の目的は既に達成された訳であり、それ以上のことは何も考えていなかった。

 だから暇だといえば、暇だった。万職階級も現在は牙鋼級へと昇格しており、無理に相互組合で依頼を受ける必要も無い。

 そんな訳で、ミルネッティは何ともいえぬ表情で小さく頷き返した。もしかしたら、帰れといわれるかも知れないという不安を抱えながら。

 ところが意外にも、ソウルケイジはならば良かろうと低い声音で答えた。


「但し、ここに居るからには俺の指示に従え」

「うん、何でもするよ!」


 ミルネッティは自分でも分かるぐらいに、明るい声で応じた。嬉しさが、ふつふつと心の奥底から湧き起こってきた。


「で、何したら良いの?」

「こいつらの自宅住所を調べろ」


 いいながら、ソウルケイジは十数名の名前が書かれたリストを手渡してきた。全員、このムルペリウス在住らしい。


「オッケェ~。これなら、半日もかかんないや」

「任せたぞ」


 ソウルケイジの応えを聞く前に、ミルネッティは相互組合を飛び出していた。

 枝先の里ではひたすら、呑気な毎日を過ごすばかりだったから、操設士としての腕がかなり鈍っていたのも事実だ。

 そんな状態でいきなり地下魔宮に挑むのは自殺行為だが、情報収集ぐらいならばお手の物だった。


(でも、このひと達、何やらかしたんだろう?)


 ソウルケイジから渡されたリストの面々は、特に犯罪者という訳でもなさそうだ。何を目的として、この連中の自宅住所を調べようとしているのだろうか。


(ま、良っか。ご主人様が特別、変なことをするとも思えないし)


 などと呑気に考えながら、ミルネッティは白亜の街並みを駆け抜けていった。

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