67.自分にも出来ること
奴隷収集隊は、全部で24名で構成されていた。
フェドリックによれば、彼が脱退した当時は21名だったというから、その後増員したという訳であろう。
いずれにせよ、この24名はソウルケイジに一分とかからずに叩き伏せられ、全員が両腕、両脚の関節を破壊されており、態々縄で戒めるまでもなく身動き出来ない状態だった。
一応自殺防止の為に猿轡は噛ませたものの、この連中から直接何かの情報が出てくるとは思えない。
そこでアルゼンはフェドリック、レオ、ミルネッティらの協力のもと、奴隷収集隊が用いていた数台の馬車を検めることにした。
馬車はいずれも、枝先の里の大樹壁外縁に停められており、すぐに発見することが出来た。
そして、そのうちの半数から囚われていた森精種と勇獣種が救出された。その人数は18人。
「意外と多かったな。いつもは大体5、6人ぐらいしか連れ歩かないんだが」
とはフェドリックの弁。
恐らく闇の奴隷オークションに向かうよりも先に、枝先の里を襲撃しようと目論んでいたのだろう。
「ねぇ、キミ達はどこの里のひと?」
馬車から解放した森精種達に、ミルネッティがひとりずつ、その出自を聞いて廻っていた。
彼女の里も、奴隷収集隊の襲撃に遭っている。今回発見された森精種達がどの里で襲われたのかを訊き出すことで、ミルネッティの兄弟や幼馴染みがいつ頃奴隷オークションにかけられたのかを探ろうという訳だろう。
一方アルゼン、フェドリック、レオの3人は文書類や装備品、貨幣などを分類し、その内容をひとつひとつ徹底的に調べ上げた。
王国内のどの貴族が、いつ、どこで非合法な奴隷オークションに参加していたのかを明らかにする為だ。
フェドリックは自身が所属していた頃までの記録は大体覚えていたらしく、かなりの精度で細かい情報を割り出すことが出来た。
逆に彼が脱退して以降の分は、アルゼンとレオで精査してゆく。アルゼンは貨幣や文書からオークションに参加した貴族の痕跡を追い、レオは万職相互組合から借りた被害状況表から、何人が奴隷として売られたのかを照合した。
「妙だな……数が合わない」
「矢張り、一致しませんか」
ダルホルテの許可を得て借りた樹上の作業小屋内で、レオは何度も首を傾げていた。
拉致された森精種や岩命種、勇獣種の総数よりも、奴隷オークションにかけられた人数の方が圧倒的に少ないのである。
既に、東の超大陸の鉄血帝国ギルデランへ移送された後なのかも知れない。
「ミルネッティが探している兄弟や幼馴染みが、海を渡ってなきゃ良いんだけどな……」
レオが渋い表情で、何枚かの文書を見比べる。するとそこへ、フェドリックが横合いから顔を出してきた。
「彼女の里の位置はどの辺なんだ?」
「あぁ、それなら……」
レオは卓上に王国内の地図を広げ、五つの巨大湖に程近い大きな森を指差した。
するとフェドリックは先程までレオが眺めていた資料と突き合わせながら、ひとりで何度か頷いている。
「だとしたら、このリストだな。アルゼン、オークション実施日のリストを見せてくれ」
「分かりそうですか?」
アルゼンは幾らかの期待を乗せた視線をフェドリックに向けた。
流石に元奴隷収集隊員だけのことはあり、これらの文書の内容を紐づけるのはお手の物の様だ。
「ベルメント伯爵領内のオークションで全員、売り捌かれているな。東の超大陸には渡っていない」
アルゼンとレオの面に、笑みが広がった。ミルネッティの探している森精種達の居場所の目途が、これで大体ついたことになる。
ベルメント伯爵家の現当主は決して人格者とはいえないという噂を、アルゼンは過去に何度か耳にしたことがある。恐らく彼の懐を叩けば、幾らでも埃が出てくるだろう。
「ミルネッティに知らせてきます」
「おう。残りの分析は任せておいてくれ」
レオの笑顔を背に受けて、アルゼンは救出された森精種と勇獣種らを里長の樹上館で介抱しているミルネッティの元へと走った。
「あら……どうかなさったのですか?」
リテリアが幾分驚いた様子で出迎えた。アルゼンがミルネッティの所在を訊くと、彼女も何か察するところがあったらしく、アルゼンの手を引いて大広間へと足を急がせた。
「ミルネッティ! アルゼン様がお話があるそうよ!」
「え、ボクに……?」
操設士の森精種は、不安と期待が入り混じった瞳を返してきた。アルゼンは彼女を安心させる為にも、いつも以上に落ち着いて、そして穏やかな笑みを浮かべる。
「君の兄弟と幼馴染みの居場所が、分かったよ」
直後、ミルネッティは全身の力が抜けた様にその場に座り込み、それからしばらくして両手で顔を覆った。肩が小刻みに震え、低い嗚咽が漏れ聞こえてくる。
そのミルネッティにリテリアだけでなく、ソフィアンナとレイラニも寄り添って、三人で優しく抱き締めてやっていた。
(ああ、そうだ……俺にはまだ、出来ることがあるじゃないか)
リテリアを守る為には何も出来ないと、己に絶望したアルゼン。
しかし今、泣きじゃくるミルネッティと、彼女を優しく包んでやっている女性達を見て、拳を握り締めた。
(仲間達の……罪無きひとびとの安心と平和を、取り戻す。守り抜く。こんな大事なことを、俺はすっかり忘れていた……)
自分には確かに、ソウルケイジの様な圧倒的な強さは無い。
それでも、守るべきひと、助けるべきひとの力にはなれる。
だったらその為に、全てを尽くせば良いじゃないか。
(そうだとも……やってやろう)
アルゼンの心の闇が、完全に消え去った瞬間だった。
これにて第三章『星界からの悪魔』はおしまい。
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