表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

64/128

64.元奴隷収集隊員

 枝先の里内部で、何やら混乱が生じている。

 しかしソウルケイジは、リテリアの生命には未だ危険は及んでいないと判断し、尚も里を包む結界の外側で先遣兵の動きを探り続けていた。

 必要とあらば、あの程度の結界はいつでも突破出来る。本当にリテリアの身に危機が迫った時にこそ、改めて判断すれば良いだろう。

 ところが里の北側に足を踏み入れた時、もうひとつ別の結界が構築されていることを察知した。

 里全体を守る結界もそれなりに強力ではあるが、忽然と現れたもうひとつの結界はその隠密性、隠蔽性に於いて更にワンランクもツーランクも上だ。少なくとも、ソウルケイジが10メートル近くにまで接近しなければ検知出来なかった程の完璧なステルス性能を誇っている。

 ここには、何かがある。

 ソウルケイジは魔素抵抗などものともせず、この新たな結界内に踏み込んでいった。

 周囲は相変わらず深い樹々に閉ざされているが、結界の中心付近は開けている。そのぽっかりと空いた草地広場の中に、頑丈そうな丸太小屋が鎮座しているのが見えた。

 その内部に気配がある。

 ソウルケイジはルーヴランの宿屋でレイラニから借りたペンダントと同じ精神波動が、その丸太小屋内から漏れ出ていることを検知した。

 最早、考えるまでも無い。この丸太小屋に居るのは間違い無くフェドリック本人だろう。

 するとその時、突然ひとりの頑健な体躯の男が飛び出してきて、長剣片手に突撃を仕掛けてきた。

 純正人種だ。この男がフェドリックなのだろう。

 ソウルケイジは突き出されてきた長剣の切っ先を躱しもせず、素手でその刃を掴み取った。

 男は突然勢いを殺された為に態勢を崩しかけていたが、それよりもその表情は、素手で刃を受け止めているにも関わらず、血が一滴もこぼれていない事実に驚愕している様子だった。


「フェドリックか?」


 ソウルケイジは相手の愕然とした表情などお構い無しに問いかけた。

 その男――元奴隷収集隊員の万職フェドリックは、半ば呆然としたまま小さく頷き返した。


「レイラニがお前の居場所を探していた。ここに居た理由と経緯を聞こう」

「レ、レイラニが?」


 フェドリックが呆けた表情で問い返すと、ソウルケイジは握っていた刃を手離した。フェドリックは戸惑い気味に剣を引き、鞘へと収める。


「レイラニが俺を探していたっていうのは、どういうことなんだ?」


 この問いかけに対し、ソウルケイジはルーヴランでの一連の出来事から、レイラニの案内で枝先の里を訪れることになった経緯を手短に伝えた。

 最初のうちは黙って聞いていたフェドリックだが、その表情は次第に険しさを増していった。


「何てこった……彼女に心配をかけまいとして里長殿と取った策が、裏目に出ちまったって訳か」


 フェドリックは後悔した様子で奥歯を噛み鳴らした。

 今度はソウルケイジが、何があったのかと訊く番だった。


「まだ誰かは分からないが、里の中に奴隷収集隊と内通している奴が居る」


 そのひと言を受けて、ソウルケイジは懐から例の似顔絵を取り出した。ルーヴランでフェドリックの悪評を広めて彼を誘い出そうとしていた点を考えると、その内通者と近しい存在と見て良い。

 差し出された似顔絵を凝然と睨みつけていたフェドリックは、悔しげに顔をしかめた。


「そうか……内通者はコリムだったか。しかし、あいつは確かに腕の良い精霊術士だが、里全体を敵に廻す程の度量も知恵も無い筈だ……ってことは、首謀者はスワルドか」

「何者だ?」


 すかさず問いを重ねたソウルケイジ。

 フェドリックは、枝先の里の重鎮であると同時に里長ダルホルテに次ぐ事実上のナンバー2である旨を説明した。そして里全体を覆う結界を構築しているのも、スワルドだと付け加えた。


「では奴隷収集隊を招き入れることも容易という訳だな」


 里全体の守りを管理する責任者が敵と内通していた。であれば、敵を内部に引き入れることも容易だろう。スワルドはその地位と権限を最大限に有効活用していることになる。


「拙いな……多分レイラニはスワルドが内通者だってことを、里長殿にはもう告げているだろう。となると、里がふたつに割れて内紛に陥るのは時間の問題だ」

「いや、もう遅いかも知れん」


 ソウルケイジが答えたその瞬間、奇妙な震動が森全体を襲った。地震という程ではないが、若干の不快感を与える不気味な響きだった。

 その発信源は南側、即ち枝先の里方面ということになる。

 この震動の正体は、ソウルケイジにはすぐに分かった。


「標的選別型の重力波だな」

「な……どういうことだ?」


 フェドリックの問いかけには答えず、ソウルケイジは枝先の里へと足を向けた。既に事態は動いている。先遣兵を探すよりも、リテリアの身に迫ろうとしている危険を排除する方が先だ。


「恐らく、奴隷収集隊が突入するだろう。連中を叩く」

「ま、待ってくれ」


 幾分慌てた様子でフェドリックは丸太小屋の中へと引き込んだ。と思う間もなく、彼は古びた革鎧を着用し、先程ソウルケイジに挑みかかった際のものとは異なる別の大剣を携えて飛び出してきた。


「俺も行く」

「良いのか? 俺は敵かも知れんぞ」


 ソウルケイジの反問に対し、フェドリックは苦笑しながらかぶりを振った。


「あんたは敵じゃない。目を見りゃあ分かる」

「そうか」


 かくして、ふたりは結界が消失した枝先の里に向けて、鬱蒼と茂る樹々の間を一気に駆け抜けていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ