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62.内通者

 客人らをもてなす宴も終わり、レイラニはミルネッティ、ソフィアンナ、アルゼンの三人を里長の樹上館内に設けられている客室へと案内した。

 それぞれ、ひと部屋ずつが提供される。リテリアとレオの部屋は、ふたりが戻ってきてから改めて案内すれば良いだろう。


「それでは、ごゆっくりお寛ぎ下さい」


 三人を案内し終えてから、レイラニは里長であり父でもあるダルホルテの書斎を訪れた。

 後で顔を出す様にとの指示を受けていたのである。


「お父様、只今、参りました」


 返事は無いが、いつものことだった。レイラニは無言で机に向かったままのダルホルテの背中を見ながら、そっと室内へと足を踏み入れる。

 日頃であればレイラニが入室してもしばらくは振り向かないことが多かったダルホルテだが、今回は珍しくすぐに面を巡らせ、扉を閉めろと小声で命じた。

 何かがおかしい――レイラニは途端に湧き起こってきた緊張感に頬を強張らせつつ、いわれるがままに木扉を閉め、そしてダルホルテの傍らに腰を下ろした。


「お前にはもっと早く話しておくべきだった。まさか、あんな行動に出るとは思ってなかったよ」


 ダルホルテの皺深い顔に、僅かながら苦悩の色が浮かぶ。一体何のことなのか。

 レイラニは父の真意が測れぬまま、相手の次なる言葉を待った。


「フェドリックのことだよ。彼は今、結界外にわしが用意した隠れ家で身を潜めておる」

「そ……それは、どういうことなのですか?」


 余りに意外な告白に、レイラニは思わず上体を乗り出して詰め寄った。

 そのレイラニの反応を受けて、ダルホルテは更に申し訳無さそうに顔を歪ませた。


「彼は警告してくれていたのだ……この里の中に裏切り者が居る、と」


 曰く、フェドリックはこの枝先の里内部に、奴隷収集隊と通じている者が居ると告発してきたらしい。しかしその正体までは分かっていない。

 そこでダルホルテは真偽を確かめるべく、娘であるレイラニにも知らせずに極秘調査を進めていた。

 そしてその間、フェドリックにはダルホルテが用意した結界外の隠れ家に身を潜めさせた。裏切り者がこちらの意図に気付いた場合、彼の命が狙われる可能性があったからだ。

 敢えてレイラニに黙っていたのは、フェドリックに想いを寄せているであろう娘がどの様な動きを見せるか予測出来なかったかららしい。

 しかしフェドリックが身を隠した前後から、彼がルーヴランに於いて枝先の里の存在を暴露したという噂が流れてきた。これは間違い無く、奴隷収集隊の内通者による仕業だと思われる。

 恐らく、フェドリックを誘い出そうという意図があったのだろう。

 これに対しても何らかの手を打とうとしたダルホルテだったが、それよりも先にレイラニが動いてしまったから、動くに動けなくなってしまったと、老齢の里長は溜息を漏らしながら静かに語った。


(何ていうことなの……私が、父上とフェドリックの邪魔を、してしまっていたなんて……)


 愕然と、言葉を失ってしまったレイラニ。

 自分の先走った行動が、拙い事態を招きつつあったなどとは思いもしなかった。

 だがその一方で、収穫もあった。リテリア達の徹底した調査のお陰で、内通者の正体が分かった。


「フェドリックの噂をルーヴランで流していたのは、コリムでした」

「……そうか、では首謀者はスワルドか」


 コリムは枝先の里の事実上のナンバー2であるスワルドの息子だ。そのコリムが直接動いて、フェドリックの悪評をばら撒いて彼を誘い出そうとしていたと考えられる。


「私はフェドリックが里の誰かに捕らえられ、私の捜索の手が届かない場所に囚われていると思っていましたが……」


 そこまで話して、レイラニは唇を噛んだ。

 その捜索の手が届かない場所というのが、スワルドが管理している宝珠庫だった。

 レイラニはリテリアとレオに、その宝珠庫でのフェドリック捜索を任せてしまった。

 ふたりの身が危ない。


「お父様、宝珠庫へ……」

「わしも行こう。それから、客人の御三方も呼んでくるのだ」


 ダルホルテが頷き返すと同時に、レイラニは部屋を飛び出した。

 それにしても何故、スワルドとコリムは奴隷収集隊と内通するなどという馬鹿な真似をしたのか。そんなことをして一体、何のメリットがあるのか。

 理由も、動機も分からない。

 だがひとつ確実にいえるのは、スワルドであればこの里を覆っている結界を即座に無力化出来る。そうなれば奴隷収集隊は一気に攻め込んでくるだろう。

 勿論、この里に居る大勢の精霊術士や弓師、戦士達はそう簡単に斃される様な者達ではない。

 しかし当然、敵も無策ではない筈だ。きっと何かしらの決定的な作戦を用意しているに違いない。

 それが何であるのかが分からない以上、最大級の警戒をすべきだ。決して油断して良い相手ではない。

 ともあれ、今は兎に角ミルネッティ、ソフィアンナ、アルゼンの三人に急を告げて共に立ち上がって貰わなければならない。

 レイラニはまず、ソフィアンナが居る筈の客室へと飛び込んだ。

 そこで、愕然と立ち尽くした。

 ソフィアンナの姿が無い。室内は奇妙に荒らされ、木窓が開けっ放しになっている。


(そんな、まさか……!)


 続いてアルゼンとミルネッティの室へも飛び込んだが、結果は同じだった。三人共、忽然と姿を消してしまっている。

 一体、何があったのか。

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