表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

58/128

58.地上生体監視用先遣兵

 霊明大樹の枝先の里がある大森林は、その全体像を確認した過去の魔法術士トロイ・トヴァイアトスの名を取ってトヴァイアトス大森林、或いはトヴァイアトス大樹海と呼ばれたりしている。

 このトヴァイアトス大森林にはかつて、森精種の里がみっつ存在していたらしい。そのうちふたつは何らかの原因で消滅した旨が王国内の諸々の文献に残されているが、何故消えたのかは謎のままだ。

 時の為政者に逆らって全滅の憂き目に遭ったとか、正体不明の疫病にやられて里が壊滅したとか色々いわれているが、いずれも推測の域どころか噂レベルの不正確な情報だった。

 ところが、リテリア達を案内する道中、レイラニが驚くべきひと言を発した。

 消滅したそれらの里はいずれも、得体の知れない怪物によって、たった一晩で壊滅させられたのだという。レイラニ自身がその光景を目にした訳ではないが、非常に精度の高い情報として、枝先の里に代々いい伝えられてきた話らしい。

 以前であれば、森精種の里がそう簡単に壊滅させられるものなのかと疑ったであろうが、今のリテリアならば何となく信じる気になれた。

 根拠は幾つかある。

 ひとつはミルネッティの故郷を襲い、その圧倒的な戦闘力で崩壊へと導いた奴隷収集隊の存在が現実として登場しており、最早普通にありそうな話だと思える状況になってきていること。

 そしてもうひとつは、ソウルケイジの存在だった。彼自身が一国の兵力に匹敵する戦闘力の持ち主だといわれている上に、更にはメテオライダーなる星界からの怪物の件もある。

 今まではそれらの存在を知らなかったから、森精種の里が壊滅するなどあり得ないなどと笑い飛ばしていただけだ。無知というのは、それだけ恐ろしい話なのだ。

 ここでリテリアは黒衣の巨漢に水を向けた。もしかしたら何か情報を握っているのではという妙な期待を抱いて。


「ソウルケイジ様は、ふたつの森精種の里を壊滅させた者の正体について、何かご存知ですか?」

「地上生体監視用先遣兵だ。記録にある」


 実にあっさりと、そして勿体ぶる訳でもなく、ソウルケイジは簡単にすらっと答えた。

 その余りにシンプルな受け答えに、他の全員が深い樹々の間で思わず足を止めてしまう程であった。


「その……ちじょうせいたい何とかというのは、一体何なのですか?」


 ソフィアンナが動揺を隠さずに問い返した。

 一方でリテリアは、内心で低く唸った。これまでに何度か聞かされてきた同系統の名称だし、あの処刑舞台の上で彼女を殺そうとしていたのも、似た様な名前の怪物だったと記憶している。

 それが一体、何故ここで登場してくるのだろう。


「旧カンザスシティ近郊のバーリントン航空宇宙開発センター跡地から、外星体監視衛星の制御パネルを持ち帰ったことが原因だ。先遣兵は衛星軌道上に配置している降下補助用ステーションの存在を知られることを恐れ、それらふたつの里を襲い、証拠を消すと同時に皆殺しにした」


 だが結局は、ソウルケイジのデータベースにそれらの事件は全て記録されていたから全くの無意味な殺戮だった、と彼は淡々と語った。

 正直、リテリアには全く意味が分からない。

 だがひとつだけ、ピンときたことがあった。


「ソウルケイジ様……もしかしてその先遣兵とやらは、まだこの近くに潜んでいるのでは?」

「潜んでいる。奴隷収集隊の監視も勿論だが、俺が里の外に残るもうひとつの理由は、それだ」


 リテリアはごくりと喉を鳴らした。

 今まで教えて貰った話の中で、大空の更に向こう側には宇宙と呼ばれる空間が広がっているとの説明を受けたことがある。リテリア達はその世界を、星界と呼んでいる。

 その星界から訪れた悪魔の如き怪物が、未だに数多く、世界中に散らばっているらしい。その目的の多くは、人類に気付かれることなく過去の遺物を制御もしくは破壊することなのだという。

 一方でメテオライダーは単純に、リテリアを殺害する為だけに派遣される戦士だ。

 だから逆をいえば、メテオライダーではないそれらの先遣兵が居たからといって、今すぐにリテリアの命が脅かされるという訳でもないだろう。

 が、人類に仇為す存在である以上は、放っておくことも出来ない。だからソウルケイジは、ここでその先遣兵を叩くことにしたに違いない。


「これ以上、星界からの敵の好きなようにはさせておけない、ということですね」

「そうだ」


 ならば仕方が無いと、リテリアはひとりで納得したが、他の面々は未だに理解が追い付いていないらしく、ソウルケイジの代わりに説明してくれという哀願の視線が突き刺さる様な勢いで飛んできていた。

 しかしリテリアとて、全てを正確に把握している訳ではない。飽くまでもソウルケイジの意向が分かるだけであり、細かな裏事情については他の面々と然程に違いは無いのである。

 だから、自信を持って教えてやれるという訳でもなかった。


「あの、御免なさい……私も、ちゃんとした背景とか経緯はよく分かってないので、もうちょっと、しっかり理解してからで良いですか?」


 余りに高度過ぎる内容の為、知ったかぶりでは説明出来ない。

 勿論、いつの日にかソウルケイジの言葉が全て理解出来る様になるという保証も無いのだが、少なくとも今の時点では受け売りすら出来ないだろう。


「まぁ、そういうことなら……」


 ソフィアンナが渋々頷き返す。アルゼンとレオ、そしてミルネッティも、これ以上の追及は不可能だと察したのか、そこから先は何もいわなくなった。

 かくして、一行は再び歩き始めた。

 夜を小川のほとりで野営を張って過ごし、途中凶暴な狼型の魔性闇獣を退けながら、いよいよ枝先の里が張っている結界の際へと近付いた。


「ここから先は、樹々の精霊が構築している魔素の迷路が待っています。私の後についてきて下さい」


 レイラニが声をかけたところで、ソウルケイジは他の面々から離脱した。

 ここから先はレイラニとリテリア達だけで解決しなければならない領域だった。


(ソウルケイジ様無しでの挑戦……ちょっと緊張しちゃうな)


 それでもリテリアは自らに気合を入れるかの如く、小さく吐息を吐き出して拳を握り締めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ