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57.偶然ではない接近

 翌々日。

 しっかり体を休め、必要な装備や携行品を整えたリテリア達は、レイラニの案内のもと、領都ルーヴランから徒歩で丸二日の距離にあるといわれる霊明大樹の枝先の里を目指して出発した。

 途中までは街道沿いに進む為、乗合馬車に身を委ねてゆく。

 そして半日程揺られたところで下車し、そこから鬱蒼と茂る深い森の中を目指した。

 乗合馬車の御者は、本当にこんなところで下ろして良いのかと驚いていたが、リテリア達が万職相互組合から依頼された魔性闇獣の討伐が目的だなどと適当な理由を告げると、納得した様子で笑っていた。


「さて……ここからが本番です」


 レイラニが幾分、険しい表情を見せる。

 フェドリックひとりを連れ込むだけでも、里は大騒ぎだったという。それなのに今回は実に、六名だ。この人数の外部者を連れて戻る以上は、必ず何らかの衝突が起こる。

 それをどうやって切り抜けるかが最大の関門であろう。

 勿論、深い森の中だから本当に魔性闇獣が出現する可能性もある。レイラニも、緑小鬼が多数棲息していることを認めていた。


「まぁ、戦闘は俺とアルゼンに任せてくれ。なるべくソウルケイジの出番が無い様に頑張るからさ」


 レオが笑いながら、右の拳でアルゼンの胸板を軽く叩いた。

 アルゼンも、レオとふたりなら大抵の敵は撃破出来るだろうとの自信を滲ませている。

 このふたり、何だかんだで良いコンビだな――などとリテリアが目を細めていると、不意にソウルケイジが何かを掌に乗せてリテリア達に差し出してきた。


「リテリア、ソフィアンナ、アルゼン、レオはこれを着けろ」


 四つの指輪だった。

 その瞬間、何故かミルネッティが物凄く残念そうな面持ちでソウルケイジをじろりと睨んだ。


「え……これって、ボクだけへの贈り物じゃなかったんだ……」

「何の話だ?」


 ふたりのそんなやり取りを横目で眺めつつ、リテリアは四つのうちのひとつを手に取り、自身の左手中指に押し込んでみた。

 すると、いきなりその肉体に変化が生じた。といっても然程に大きなものではなく、両耳の先が僅かに尖り、瞳の色が濃緑色に煌めいたという程度であった。


「これってもしかして、森精種に変身出来るんですか?」


 ソフィアンナが半ば驚き、そして半ば嬉しそうな笑顔で、リテリアに続いて指輪を装着。すると矢張り彼女も同じ様に、森精種の特徴を持つ外観へと変化した。


「変身法術の指輪だ。森精種への変身用に調整してある」


 成程、と頷き返したリテリア。

 確かに純正人種のままで枝先の里への訪問を試みるのは、余りに無謀であろう。

 一方、ミルネッティは不満顔でぶつぶつ文句をいいながら、指輪を外している。直後、それまで純正人種だった彼女の外観が森精種のそれへと戻った。


「ちぇーっ……折角ハイテンションだったのにぃ」


 頬を膨らませて見るからに不機嫌そうなミルネッティを、レオとアルゼンが不思議そうに眺めていた。

 そのふたりも、指輪を受け取って森精種へと変身を遂げる。少しばかり体格が華奢になった様にも見受けられるのだが、ソウルケイジ曰く、筋力量は減っていないとの由。


「恐れ入りました……こんな凄い物を幾つも作製されるとは……」


 しかしそろそろ、レイラニの表情からは驚きの度合いが少しずつ薄れている様にも見えた。ソウルケイジの規格外の技量が彼女にも理解され始めてきたのかも知れない。


「でもこれなら確かに、疑われないだろうね。光の精霊の気配なんて、全然感じないもん」


 ミルネッティが森精種へと姿を変えたリテリア達を、改めてまじまじと眺めた。

 と、ここで不思議そうな面持ちをソウルケイジに向ける。この黒衣の巨漢は依然として、純正人種の外観のままだった。


「ご主人様は、姿変えないの?」

「俺は里には入らん」


 その瞬間、ソウルケイジ以外の全員がどういうことなのかと、疑問の視線を彼にぶつけた。

 ソウルケイジは、その手に黒い棒状物――リテリアが以前教えて貰った銃なる武器を手にしていた。


「奴隷収集隊と思しき連中が、捜索圏内に入った」

「そんな……奴らが?」


 最初に反応したのは、ミルネッティだった。彼女の故郷を襲った連中が近くに居る、というのである。その表情には恐怖と警戒と怒りの念が複雑に入り混じっている。

 しかし、すぐに接触可能な距離ではない、とソウルケイジは淡々と語った。


「敵の数は、何人ですか?」

「一個小隊規模だ」


 ソウルケイジの応えを聞いて、アルゼンが更に表情を引き締めた。一個小隊、即ち約20名。

 次いでアルゼンはミルネッティに、彼女の故郷の里を襲った連中が何人程度だったのかを尋ねた。


「うん……確かにあいつらも、20人ぐらいだった……きっと、ご主人様が把握した連中と同じだと思う」


 ミルネッティが悔しそうに奥歯を噛み鳴らしながら、低い声音で応じた。

 ひとつの里を20人で壊滅させ得るとなると、万職の階級に当てはめれば、全員が正銅級と同等かそれ以上の実力を具えていることになる。

 確かに、普通の感覚でいえば恐ろしい強敵集団ということになるだろうが――。


「都合が良い。ミルネッティの兄弟や幼馴染みの位置を手っ取り早く割り出せる」


 ソウルケイジは寧ろ、これは好機だと捉えていた。

 相変わらず、物事を感情では一切考えない男である。リテリアとしても、成程確かにその通りだと改めて頷くしかなかった。

 しかし、ここでリテリアはひとつの疑問に直面した。

 何故連中が、枝先の里付近にまで接近しているのか。その正確な位置を割り出しているのだろうか。

 フェドリックが里の位置をばら撒いたというのは結局、上位森精種のコリムが流した嘘の情報に過ぎない。にも関わらず、奴隷収集隊が里の近くに迫っている。

 これは決して偶然とはいえないだろう。


「何だか、嫌な予感がしますね……」


 リテリアは背筋に何か冷たいものを感じた。

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