表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

56/128

56.とある男の似顔絵

 フェドリックを陥れようとした人物が居るなら、そして枝先の里についての噂を流したとするならば、その震源は間違い無く酒場だ。

 噂話によれば、フェドリックは酒に酔った勢いでついうっかり喋ってしまった、ということになっている。

 この街で酒が供された上で他者と歓談することが出来るのは、酒場しかない。

 そしてフェドリックが万職であることを、噂を流した人物が知っているのなら、万職が集う場所でその噂をばら撒いた可能性が高い。

 リテリア達はそれぞれ手分けして、領都ルーヴラン内の全ての酒場を虱潰しに当たり、どこでその噂が聞かれたのかを探った。

 領都ルーヴランは王都シンフェニアポリス程の規模は無いが、しかし辺境の都市クルアドーと比べると二倍近い広さがある。

 酒場の数も決して少なくはない。それでもリテリア達は、それらの酒場を全て廻って情報を掻き集めることにした。

 幸い、この街の酒場はどの店舗も明け方まで経営している。手分けさえすれば、全てを廻ることは十分に可能だった。

 そうして東の空が白々と明け始めた頃、リテリア達は女性陣の宿泊部屋へと集合した。

 ソウルケイジ以外は、どの顔も疲労の色が濃い。ミルネッティは油断すれば今にも寝てしまいそうな状況で、こっくりこっくりと船を漕ぎ始めている。

 そんな中でソウルケイジが、四人掛けテーブルの卓上に一枚の似顔絵を開いた。

 彼は全員が各酒場を廻っている際に、念話法術で同時並行的に情報を集約していた。その結果として、噂話を広めたであろう人物の特徴を総合し、纏めたものらしい。

 中々の男前だ。若干軽薄そうな部分はあるが、身なりを整えれば吟遊詩人や男娼としてでも通用するかも知れない。

 この似顔絵を見て、レイラニはひとり、息を殺してじっと凝視していた。


「心当たり、あるのですか?」


 アルゼンが問いかけると、それまで凝然としていたレイラニが、幾分辛そうな表情で静かに頷き返した。


「枝先の里に住む上位森精種の中に、光の精霊法術で純正人種に変装した時の顔が、この似顔絵とそっくりな者が居ます」


 曰く、レイラニの幼馴染みでコリムという名の男性らしい。精霊術士であると同時に、腕の良い弓師という話だった。

 この時点で、フェドリックの居場所は枝先の里内のどこかだという推測が、ほぼ的中していると見て良さそうであろう。


「フェドリック氏は、枝先の里の上位森精種に身柄を拘束されているかも知れません」


 アルゼンが思案顔で、半ば呟く様にそう漏らした。

 そういえば、とリテリアはアルゼンが所属している近衛騎士団の第二近衛騎士隊が王都内に於いて、事件性のある問題についての捜査権を与えられていることを思い出した。

 この手の出来事について推測を巡らせるのは、アルゼンには得意分野に当たるのかも知れない。


「フェドリック氏が、上位森精種の誰かから恨みを買っていたということはありませんか?」

「恨み……」


 アルゼンに問われて、レイラニは沈んだ表情で俯いた。その様子から察するに、フェドリックはもしかすると里全体の民から余り良い様には思われていなかったのかも知れない。

 特に外部との接触を遮断した閉鎖的な部族ならば、尚更だ。

 と、ここでリテリアは別の観点にふと、軽い疑問を覚えた。


「そういえば、レイラニさんは枝先の里内ではどの様な立場の御方なのですか?」

「え? 私、ですか?」


 半ば不意打ちに近い形の問いかけだったらしく、レイラニは幾分驚いた様子で何度も目を瞬かせた。しかしリテリアは決して、興味本位で訊いている訳ではない。フェドリックの枝先の里での立ち位置を知る為には、どうしても把握しておかなければならない情報だった。


「私は、里長の娘です」


 その瞬間、室内に奇妙な困惑が広がった。

 里長の娘ともなれば、中々の重鎮ということになる。それ程の立場の女性が純正人種にここまで入れ込んでいたら、他の住民らはどう思うだろう。

 しかも彼女自ら、敢えて危険を冒してルーヴランへと繰り出してきている。

 もしかするとレイラニはフェドリックを想う余り、冷静さを少しばかり失っているのではないだろうか。

 と、ここでソウルケイジが卓上の似顔絵を取り上げ、そのまま懐に仕舞い込んでしまった。一体何事かと、全員が訝しげに黒衣の巨漢を見上げる。


「今日はもう終わりで良かろう。探すべき相手は見つかったし、フェドリックという男の居場所も大体推測出来ている。これ以上の議論は時間の無駄だ。全員、今すぐ休め」


 いわれてみれば、確かにその通りだった。

 ここでこれ以上議論を重ねたところで、実りある結果が導き出せるとは思えない。それよりも、疲労回復が先だ。


「お前はここのベッドを借りろ。既に狙われていると見た方が良い」

「私が、狙われている……?」


 レイラニは意外そうな面持ちでソウルケイジの巨躯を見上げた。

 しかしリテリアは、確かにその通りだと頷く。


「これだけ嗅ぎ廻ったんです。相手側にもこちらの動きがバレている可能性はあります。そしてその中心に居るのがレイラニさんだと見抜かれているかも知れません。そうなると、おひとりにさせるのは危険です」


 アルゼンとレオも、リテリアの説明に賛同した。

 事態は最早、奴隷収集隊の捜索だけには留まっていない。下手をすれば、上位森精種達の複雑な内情に巻き込まれる恐れもある。

 そのカギとなるのは間違い無く、レイラニだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ