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52.花の領地

 エヴェレウス王国には、百を超える領地持ちの貴族が割拠している。

 その中でも最大級と呼べるのが、六大公爵家だ。彼らのそれぞれの領地は王家直轄領に次ぐ面積を誇り、この六家全ての領地を合算すれば、王家直轄領を凌ぐ広さになるだろう。

 次いで広い面積を持つのが侯爵家や上級伯爵家などの領地だ。彼らの所領は都市国家並みの広さを誇り、それだけで独立した自治領として十分に機能している。

 その他にも下級伯爵や子爵などの身分の貴族らが細々とした領地経営で税収を賄い、王国民を各家門のもとで支配し、治めている。

 それらの貴族領の中には、光性亜人(デミヒューマン)の村や里が点在しているケースもある。中でも王国内最大の森精種の里が、王国中西部ルヴェントラス侯爵領内にあることが分かっていた。

 が、この森精種の里は純正人種では足を踏み入れることが出来ないとされており、事実、これまで何度もルヴェントラス侯爵家の騎士団が突入を画策し、その都度失敗してきた。

 恐らくは精霊法術を駆使した強力な結界が張られているからであろうと推測されているのだが、その実情は未だによく分かっていない。

 その里の森精種達も決して外部と接触を取ろうとしないから、本当にこの里が存在するのかどうかについても訝しむ者が多くなってきていた。

 しかし近年、この里が間違い無く存在するという証拠が得られた。

 というのも、ある万職がこの里への訪問が認められ、そして生還してきたというニュースが流れたからだ。

 件の万職は森精種達との約束がある為、詳しいことは絶対に口にしようとはしなかったが、うっかり酒の席でその事実を漏らしてしまい、世間の話題に上らせてしまった。

 そしてこの万職は数日後、消息を絶った。

 森精種の怒りに触れて暗殺されたのだとか、或いは密かに拉致されて囚われの身になったとか色々と噂されているが、結局のところは真相は闇の中のままだった。

 このルヴェントラス侯爵領に、リテリア達は足を踏み入れた。

 奴隷収集隊らしき姿がここ最近、この領内で頻繁に目撃されているという情報を万職相互組合経由で入手したからだ。

 もしかすると、連中は王国内最大の森精種の里を狙っているのかも知れない。

 真偽の程は不明だが、調査するに越したことは無いだろうということで、リテリアは仲間達と共に奴隷収集隊の足取りを追うと同時に、連中に狙われている可能性が高いであろう森精種の里の実態を探ることも視野に入れていた。


「流石……王国内でも指折りの花の街といわれるだけのことはあるわね」


 領都ルーヴランの美しい街並みを眺めながら、リテリアは感心して何度も溜息を漏らした。

 ルヴェントラス侯爵は植物に造詣の深い人物として知られており、特に美しい花の栽培や研究には熱心で、多くの魔法術士や研究家を領内に招いているのだという。

 この街にあるカレアナ聖導会の支部も同じく多くの種類の花々で鮮やかに飾り付けられており、その美しさは目に入れた瞬間に思わず見惚れてしまう程だと噂されている。


「私も一度だけ訪れたことがあるけど、本当に綺麗なところよ。まぁ一度、御覧なさいな。本当にびっくりするぐらい華やかだから」


 リテリアと肩を並べて歩いていたソフィアンナが、何故かドヤ顔で胸を反らせていた。

 すると、すぐ後ろで大通りの左右に並ぶ屋台を遠目に物色していたレオが、やけに食べ物系の店が多いことに小首を傾げていた。


「祭りでもあるのかい? やたら良い匂いがあっちこっちから流れてくるんだけど」

「あぁ、ここはですね、年中花見客が絶えない街なんです」


 振り返りながら応じるソフィアンナに、レオはならば早速と、近くの串焼き屋台へと小走りに飛んでいった。そのレオの触発された訳でもないが、リテリアの腹の辺りから低い胃の音が鳴った。


「あはは……どこかでお昼休憩にしない?」


 リテリアが問いかけると、ソフィアンナもミルネッティも、待ってましたとばかりにレオの後に続いて肉料理の屋台へ足を運んでいった。


「アルゼン様も、お腹空いてらっしゃいますよね?」

「うん、もう腹ペコだ」


 頭を掻いて笑うアルゼンに、リテリアは穏やかな笑みを返した。


◆ ◇ ◆


 遡ること、一週間前。

 リテリアはミルネッティやソウルケイジと協議した結果、奴隷収集隊が最も潜んでいる可能性の高い地としてルヴェントラス侯爵領を捜索候補に挙げた。

 まずはここで情報を集め、敵の動きを探るというのが大まかな流れだった。

 王都の万職相互組合でルヴェントラス侯爵領への潜入捜索を提言したリテリアは、そこでまず、信用に足る万職としてレオに協力を求めた。

 レオはふたつ返事で応じ、同行を決めてくれた。

 ところがそこに、何故かソフィアンナまでが一緒についてくるといい出した。これには驚きを隠せなかったリテリアだったが、ソフィアンナの、


「私だって、たまには聖導会の外で活躍したいのよ」


 という妙な理由に押し切られてしまい、結局彼女も潜入捜索班に加える運びとなった。

 更にミルネッティを専属操設士として迎えることにしたが、これは最初から決めてあった。今回の奴隷収集隊捕縛も、もとはといえばミルネッティの為に計画した様なものである。彼女を外すことは、最初から考えていなかった。

 しかし、最後に加わってきた戦力はリテリアも想像だにしていなかった。

 実に近衛騎士団副長レンダルの推薦で、アルゼンが潜入捜索に投入されることになったのだ。

 これには流石に気まずさを覚えたリテリア。

 過日、アルゼンからは思わせぶりな言葉を受けている。リテリア自身、アルゼンに対してどの様な態度を見せれば良いのか迷っていた。

 そこでソフィアンナに相談したところ、


「事実は事実として、教えておいてあげた方が良いと思う」


 との言葉を受け、第二王子クロルドから内々に求婚されていることを告げることにした。

 そして、その日のうちに近衛騎士宿舎を訪ねたリテリアは、アルゼンにその事実を伝えた。

 正直、胸が苦しかった。恩ある大事なひとに、こんなことをいわなければならない己の運命を呪った。

 しかしアルゼンは、ただ穏やかな笑みを浮かべて、気にしないで欲しいと静かにかぶりを振った。


「寧ろ、リテリア嬢の心遣いに感謝するよ。君が教えてくれなかったら、俺は主君に刃を向けるところだったからね」


 その言葉の端々に、どこか寂しさの様な響きを感じた。

 リテリアは心の底から申し訳ないと、思わず俯いてしまった。


◆ ◇ ◆


 そして現在。

 アルゼンはリテリアと共に奴隷収集隊の足取りを追う潜入捜索班の一員として肩を並べている。

 その表情には一点の曇りも無く、ただミルネッティとリテリアを助ける為だけに力を尽くそうという決意の様なものが感じられた。


(本当に、御免なさい、アルゼン様……)


 感謝と申し訳無さが複雑に胸の中で入り混じる。

 それでもリテリアはアルゼンの前では、笑顔で居ようと努めた。それが、アルゼンの心遣いに対するせめてもの感謝になるだろうと信じて。


「お~い、美味そうな串料理があったぞぉ」


 そんなリテリアの密かな葛藤など微塵にも気づかぬ様子で、レオが何本かの串料理を手にして戻ってきた。

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