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25.舌鋒

 ソウルケイジの予言通りだった。

 たった今まで血まみれで仰臥していた処刑人が、突然跳ねる様な勢いで起き上がった。

 その体躯は、奇妙な形に捻じれている。一応形態としては人間のそれを維持しているが、腕や脚があらぬ方向に折れ曲がっており、しかも至る所で筋肉が異常に隆起していた。

 かつて処刑人だったモノは、数メートルの高さにまで跳躍した。そのまま一気に降下して、ソウルケイジに襲い掛かろうという勢いを見せている。

 が、それよりも早くソウルケイジは左腕に携えていた大型の棒状物を振り上げた。その黒い金属光を放つ棒状物は中心を軸として同心円状に回転し、無数の光の弾丸を撃ち出した。

 甲高く耳障りな炸裂音が超高速で連続し、ものの数秒で、処刑人だった何かが全身をずたずたに破壊され、そのまま石畳の地面へと砕ける様に落下した。

 この僅か十数秒の間の出来事に、広場の群衆はただ沈黙して、その結果を見つめるしか無かった。


「お、終わったのですか……?」


 ソウルケイジの背後で頭を抱えてうずくまっていたリテリアが、恐る恐る訊いた。

 これに対してソウルケイジはただひと言、終わったと短く応じた。


「相互組合に戻る。ついて来い」


 左手に携えていた巨大な棒状物を背負いながら、ソウルケイジはリテリアに命じた。リテリアは、ただ黙って頷くしか無い。

 ところが――。


「し、しばし待たれよ、光金殿!」


 クロルドの慌てに慌てた声が、ふたりの背中に飛んできた。

 見届け人として処刑舞台の脇に居た連中が一旦は後退していたものの、一連の戦闘らしき行為が終わったと判断したのか、再び距離を詰めて追いすがってきたのである。

 ソウルケイジは足を止め、処刑舞台上で振り返った。


「そ、その女は我が国の大罪人である。このまま光金殿が連れてゆくのを黙って見過ごす訳にはいかない」

「そうか。では力ずくで取り戻せ」


 クロルドがいい終わるや否や、ソウルケイジは右手に携えている黒い棒状物の先端を見届け人達に向けた。

 その間に、警備兵や騎士達が抜刀して処刑舞台を取り囲んでいる。が、いずれの顔も恐怖に引きつっていた。先程、処刑人だったモノを撃破したソウルケイジの謎の攻撃に、誰もが尻込みしているのだろう。

 そしてリテリアは、ソウルケイジとクロルドのやり取りを、ただ黙って見つめていた。


「ほ、本気でいっておられるのか?」

「国ひとつ潰す程度のことは、どうということはない。こちらとしてもエヴェレウスを滅ぼした方が、この女に纏わりつく罪状を無かったことに出来るから楽というものだ」


 ソウルケイジは、まるで茶飲み話でもするかの様な調子でさらりといってのけた。

 その言葉の端々に、確実に国を滅ぼしてみせるという自信の様なものを、リテリアは密かに感じ取っていた。と同時に、空恐ろしさをも覚えた。この男なら、本当にやりかねない。

 一方、クロルドはソウルケイジの圧を受けて気後れしている様だ。が、その傍らからオーウェルが猛然と吠えた。


「ふざけるな! その女は敵前逃亡し、俺の部下を大勢死に追いやったのだ! 許される訳はなかろう!」

「では逆に訊くが、この女が敵前逃亡したと判断した理由は何だ?」


 ソウルケイジからの思わぬ反問に、クロルドのみならず、オーウェルも一瞬言葉を失った。何をいわんとしているのかが理解出来ていない様子だった。

 しかし、この問いに応じたのはクロルドでもなく、オーウェルでもなかった。


「わ……わたくしの直属の騎士、アルベルト・セルデランが、その一部始終を目撃しておりました!」


 メディスだった。何故かその表情には必死の色が張り付いている。

 その応えを受けても、ソウルケイジは顔色ひとつ動かさなかった。


「ではこの女の敵前逃亡を見届けた後、そのセルデランは何をしていた?」

「え? 何を、ですって……?」


 今度はメディスが困惑する番だった。ソウルケイジの黒い瞳には感情の欠片も見られなかったが、その舌鋒は刃物の様に鋭かった。


「何もしなかったのか? この女が敵前逃亡すれば、第四騎士団が窮地に陥ることは簡単に想像出来た筈だ。なのにそのセルデランはこの女に代わって、第四騎士団に緊急事態を知らせる伝令代役をしようとは考えなかったのか?」

「そ、そんなことをする義務はありませんわ! セルデランは当家の騎士ですもの!」


 するとソウルケイジは、今度は幾分呆気に取られているオーウェルに視線を戻した。


「その女のいうことが、騎士としてのあるべき姿か?」

「い、いや、そんなことはない。例え所属が違えど、緊急の際は自軍に危機を知らせるのが騎士の本分だ」


 この時、クロルドがはっとした表情でメディスとオーウェルの双方を見比べた。

 ふたりのいい分には、明らかに矛盾が生じていた。

 ここでソウルケイジは質問を変えた。


「もうひとつ訊く。この女が敵前逃亡したとして、祈らずの大洞窟から出てきたタイミングはいつだ?」

「それははっきり覚えている。第四騎士団が潰走し、洞窟外へと退避した後だ」


 答えたのは、レンダルだった。彼はオーウェルがリテリアに斬りかかろうとしているのを、クロルドと共に止めた。そのことはリテリアもはっきりと覚えている。


「敵前逃亡したのならば、もっと早くに洞窟を出てくる筈ではないのか?」

「そ、それは、どうせ洞窟内のどこか安全な場所に隠れておったんだろう!」


 オーウェルが自信無さげに反論したが、その声には先程までの勢いが無い。ソウルケイジは、そんなオーウェルの変化になど気付いていない様子で更に言葉を連ねた。


「あの洞窟内は、安全なのか? 戦闘能力も隠密能力も持たないリテリアがたったひとりで、魔性闇獣や凶獣が多数蔓延るあの洞窟内に居座るのが、安全だといえるのか? 折角敵前逃亡して身の安全を確保したのに、そんな死と隣り合わせの場所に居座るのが正しい判断か?」

「た……確かに……」


 レンダルが、ソウルケイジの指摘する矛盾に漸く合点がいった様子で、小さく頷いた。

 もうここまでくると、ソウルケイジが何をいわんとしているのか、クロルドにもはっきりと理解出来た様子だった。


「宮廷魔法術士は虚偽看破の法術が使える筈だな。ならば、そのセルデランを尋問しろ。その結果を以てしても尚不服ならば、いつでも相手になろう。国が亡ぶ覚悟でかかってこい」


 それだけいい残して、ソウルケイジは踵を返した。その後にリテリアも続こうとしたが、この時彼女は、一瞬だけ背後を振り返った。

 見ると、怒髪天を衝く凄まじい形相のオーウェルが、同じく厳しい表情のレンダルと共に、メディスに詰め寄ろうとしている姿が目に飛び込んできた。

 メディスは、尻餅をついている。

 弁解の言葉は何ひとつとして、彼女の口から出てくることは無さそうであった。

これにて第一章『聖女暗躍』はおしまい。

お付き合い頂きまして、誠にありがとうございました。

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今後の励みになりますので、是非宜しくご検討下さいませ。

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