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123.有能と無能の格差

 こいつら、またやらかしやがったな――ギデンツは最早怒りを通り越して、呆れるばかりだった。

 何を思ったのか、トヴァリーとガーティンが剣を構えたセルパクローの戦士相手に、大声で罵声を浴びせながら真正面から攻め込んでいったのである。

 対する敵も、気合の雄叫びを上げながら応戦し始めた。

 この直前までは、特に問題は無かった。

 ギデンツは対食人鬼戦に己の戦闘力を温存する為、極力自身の刃は用いずにセルパクローの戦士を始末したいと考えていた。そこで彼自身は敵を屋外に誘い出すだけにとどめ、実際の始末はトヴァリー、ガーティン、ケルグの三人に任せることにしていた。

 緑小鬼相手の際には数の暴力で稚拙さを露呈したこの三人も、相手がひとりならば何とかなるだろう。

 そう考えていたギデンツだったが、その発想すらも甘かったと認めざるを得ない。

 それ程にトヴァリー達の戦闘は見るに堪えなかった。


(対人戦の訓練ぐらいは、受けたことがあるだろう。まぁ命を奪うところまでは未経験かも知れんが……)


 このギデンツの微かな期待は、物の見事に裏切られた。

 屋外へと誘い出した敵に対し、反撃を許さずに瞬殺しろ――それが三人に与えた指示だった。これに対してトヴァリー達は任せてくれと胸を張っていた。

 緑小鬼集団相手の失態はここで取り返すといわんばかりの自信に満ち溢れた表情だったが、いざこうしてセルパクローの戦士を相手に廻してみると、あの自信は何だったのかと疑念が湧いてしまう。

 彼らはギデンツの言葉をすっかり忘れてしまったかの如く、大声で気合の雄叫びを喚き散らしながら、ひとりの敵に斬りかかってゆくばかりだった。

 あれ程、しつこいぐらいに念を押していたにも関わらず、だ。


(気合を入れなきゃ敵を斬ることも出来ない……つまりこいつらは、ビビっているんだな)


 実際トヴァリーもガーティンも、そしてケルグも揃って必死の形相だ。

 三人がかりで何とか相手を封じ込めることが出来ている様だが、それも辛うじてといった有様だ。とてもではないが、単一の敵を圧倒しているとはいい難い。


(拙いな……敵の指示役にこちらの動きが悟られる。下手すりゃ包囲されちまうぞ)


 ギデンツは奥歯を噛み鳴らしながら得物を引き抜き、敵の増援に備えた。

 が、意外にも暗闇の向こうからは誰もやって来ない。

 ならば、今の内にこの敵を始末してしまうべきだろう。ギデンツはトヴァリー達が壁際に追い詰めているセルパクローの戦士の左手側へと廻り込み、その脇腹を一気に刺し貫いた。

 一方、トヴァリー達は驚いた様子でその場に呆然と佇んでいた。三人共、何が起きたのか理解出来ていないのだろう。

 ギデンツは舌打ちを漏らした。


「お前ら……俺の指示を無視したな。あれ程、手早く静かに仕留めろといったのに……」


 ここで漸く、トヴァリー達は自分達の拙さに気付いたらしく、三人揃って青ざめていた。

 だがもう遅い。彼らは一度ならず二度までも、醜態を晒してしまったのだ。最早、弁解の余地すら無い。

 ところが――。


「い、いや、大丈夫だ……増援は、来ていないみたいだ」


 ケルグが場を取り繕う様に声を搾り出した。

 確かに、他の家屋から敵が飛び出してくる気配は無い。それが偶然なのか、或いは他の何らかの要因に依るものかは分からない。だが事実として、今のところは自分達が窮地に立たされるまでには至っていない。

 ならば、この三人を責めるのは後だ。

 残りの担当分も全て始末し、リテリア達と合流して敵の司令塔を攻略しなければならない。

 しかしその為には、段取りを変える必要があった。

 もうこの三人は使えない。使ってはならない。これ以上余計な手間を増やされるのは、堪ったものではなかった。


「もう良い……お前らは誘い出しに廻れ。敵は俺が始末する」


 ギデンツのこの言葉の意味をまるで理解出来ていないらしく、トヴァリー達は安堵の表情を浮かべていた。その様が余りに滑稽で、且つ無様だった。


(こいつら……俺に役立たずだと宣告されたことを、理解出来ていないのか?)


 流石に苛立ってきたが、ここで怒りを発散させている場合ではない。ギデンツは三人を率いて次なる家屋へと足を運んだ。

 が、ここで奇妙な状況に遭遇した。

 セレニアの分析通りならば、ここには敵が居る筈だったのだが、しかし実際はもぬけの殻だった。

 どういうことなのか。

 ギデンツがおぼろげな灯火の中で首を捻っていると、そこにリテリア達が現れた。


「ど、どうした? そっちでも何か問題があったのか?」


 ギデンツもこの時ばかりは仰天すると同時に、不安が込み上げてきた。が、リテリアはそんなギデンツの焦燥を嘲笑うかの様に、明るい笑みを浮かべてさらりといい放った。


「あ、もう終わりました。敵の首領も、他の潜兵も全部私達の方で片付けましたから」


 これにはギデンツも呆然とせざるを得ない。

 一体、どういうことなのか。

 すると今度は、ミーナが幾分興奮気味にリテリア、ラムト、セレニアの流れる様な連携について口早に説明し始めた。

 余りに高揚していたのか、ミーナの言葉は幾分要領を得なかったが、それでもギデンツはリテリア達の行動で自分達が救われたことを理解した。

 要するにリテリア達は、敵の司令塔がギデンツ達の拙い攻めに漬けこもうとしたところを逆に強襲し、一気に勝負をつけた、ということらしい。

 残りの潜兵もその勢いであっという間に片付けたというから、ギデンツとしても、呆気に取られるしか無かった。


「そ……そうだったのか……手間をかけさせちまったな」

「いえ、僕も良い経験を積ませて頂きました」


 あっけらかんと笑うラムト。

 対して、すっかり色を失っているトヴァリー達。

 だがこれで、脅威は去った訳だ。後は漁具倉庫に押し込められているであろう村人達を解放すれば、この漁村での対食人鬼迎撃戦の準備を進めることが出来る。

 ここはもう、頭を切り替えるしか無いだろう。

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