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119.正当な評価

 リテリア達は精法種緑小鬼(ゴブリンシャーマン)の死骸から討伐証明となる魔化石を取り出した後、地下洞窟からの脱出を図った。

 幸いにも、内部構造は然程に複雑ではなかった。

 三十分程度徘徊したところで上に向かう傾斜が現れ、薄く流れ込んでくる陽射しを目指してどんどん歩を進めてゆくと、そのうち大海原を眼前に見据える岩場に出た。


「あ、戻ってきてるみたいよ」


 セレニアが数百メートル程離れた先を指差した。

 見るとギデンツら四人が、土砂で埋もれた街道の崩壊部近くにたむろしている姿があった。

 ここでリテリアは少しだけ不安になってラムト、ミーナ、セレニアにそろりと視線を流した。敵を斃した直後に、この三人には自分が聖女であることを黙っておく様に釘を刺した。

 三人はいずれも畏れ多いと渋っていたが、リテリアが必死に頼み込んで漸く受諾させた。が、それもどこまで本気なのか分からない。


(うっかり口を滑らせて暴露される前に、ちゃちゃっと食人鬼退治を済ませてしまった方が良いわね……)


 そんなことを考えながら、ギデンツらのもとへと小走りに駆け出してゆくミーナとラムトの背中をぼんやりと見つめるリテリア。


「私達も行きましょ」


 セレニアが微妙にぎこちない笑みを向けてきた。彼女も精一杯、日頃の態度を貫こうとしてくれているのだろうが、矢張りどこか聖女に対する気遣いの様なものを感じる。

 本当に申し訳無いと頭を掻きながら、リテリアはセレニアと肩を並べて街道へと引き返していった。


「全員、無事だったんだな」


 合流するや、ギデンツが心底ほっとした表情でリテリア達を出迎えた。

 茂み側から引き返してきたであろう彼ら四人は、いずれも全身に大小様々な傷を受けている。矢張りあちらでも、何かあったのだろう。


「実はな……」


 ギデンツは神妙な面持ちで、茂み内で起きた緑小鬼集団による奇襲について説明した。その口から語られたのは、魔性亜人共による鮮やかな連携の数々だった。


(矢張り、精法種緑小鬼が裏で糸を引いていたのかしら……?)


 その巧妙さは、ギデンツやトヴァリー達が受けた打撃の様を見れば、よく分かる。緑小鬼共のシンプルだが効果的な戦術に、リテリアも渋い表情を浮かべた。


「ということは、ここに長居するのは得策ではありませんね」

「うむ、すぐに移動しよう……と、その前に訊いておくが、そっちでは何があったんだ?」


 この問いかけに対してはミーナが答えた。

 彼女は地下洞窟での戦闘について、過不足無く簡潔に答えた。

 ギデンツは幾らか驚きはしているものの、その一方で矢張り首領が居たかと納得の表情。寧ろトヴァリー達の方が信じられないといわんばかりの顔つきで、ラムトをじっと睨み据えている。


「おい、魔化石は持ってんのか?」

「うん、それならここに……」


 トヴァリーに応じる形で、ラムトが懐から紫色に光る鉱石状の物体を取り出した。するとトヴァリーがさっと手を伸ばして、ラムトから魔化石を奪い取ろうとした。

 が、出来なかった。その直前でセレニアがトヴァリーの手を軽く叩いて撥ね退けたからだ。


「いってぇ……何すんだよ?」

「そっちこそ、どういうつもり? まさかラムトの実績を横取りしようって訳?」


 セレニアの瞳には静かな怒りの念が滲んでいる。その剣幕に圧されたかの如く、トヴァリーは僅かに身を竦ませた。


「何いってんだよ……こいつが精法種緑小鬼なんか斃せる訳ねぇだろ! だったら同じ探索班の俺らが全員で斃したってことにすりゃあ、相互組合も納得する筈だよな!」

「あんた、馬鹿じゃないの? それにこの私の目が節穴だっていいたい訳?」


 セレニアは、ラムトが自分の目の前で間違い無く精法種緑小鬼を斃したと明言した。例えリテリアの法術支援を受けていたとしても、あの強敵に真っ向から立ち向かっていったのは間違い無くラムト自身である、と。


「な、何だよセレニア……何でお前、こんな時だけラムトの肩を持ったりするんだよ?」

「別に今だからって訳じゃないけど。私は自分の役目を果たしてきっちり仕事をするひとは正当に評価すべきだっていってるだけ。いつものラムトはまともに動けてないけど、今回はちゃんと結果を出したんだから、その事実は受け入れろっていってるのよ。それが分かんない?」


 セレニアがラムトを庇う位置に立って、トヴァリーを圧倒した。ガーティンとケルグなどはトヴァリーに加担することも無く、ただ動揺した顔つきで事の成り行きを見守るばかりだった。

 そしてギデンツまでもが、トヴァリーに怒りを含んだ声を発した。


「俺もセレニアに同意だ……さっきのお前達の、あの無様な醜態は何だ? お前達がしっかりやるべきことをやっていたら、俺も食人鬼戦に取っておく筈だった切り札を無駄に消費することも無かったんだぞ」


 ギデンツの糾弾には、腹の底から響く様な怒りの念が感じられる。

 その憤怒の形相にトヴァリーのみならず、ガーティンとケルグもすっかり縮み上がっていた。


「今まで緑小鬼相手ですら、まともに正面からやりあったことも無かったんだろうが。その経験の無さを、見事に露呈していたな。どうせ牙鋼級に昇格出来たのも、ラムトの盾役としての頑張りをお前らが横取りした結果なんだろう……そんな奴らが、利いた風な口を叩くな」


 ラムトに対して正当な評価を下したのはセレニアだけではなく、ギデンツも同様だった。


(へぇ……案外、見る目あったのね)


 リテリアは少し、紅嵐の剣豪という人物像を見誤っていたのかも知れないと内心でかぶりを振った。

 だがよくよく考えれば、正銅級に達する男なのだ。これまでも多くの万職をその目で見てきたのだろう。そういう意味では、彼のひとを見抜く目は確かなのかも知れない。

 そして、問題はミーナだ。

 彼女は今も、ラムトへの憎悪を抱えているのだろうか。

 これまで勝手な思い込みでラムトを憎んでいた事実は指摘したものの、人間の感情というものはそう簡単に覆ることはないだろうというのがリテリアの見立てだった。


(ま……後は当人同士で納得して貰うしかないわね。それよりも問題は……)


 リテリアは先程ギデンツがいい放った、切り札を無駄に消費してしまったという言葉の意味の方が気がかりだった。

 今後待ち構えている対食人鬼戦に重大な支障を来たすのであれば、何か対策を考える必要があるだろう。

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