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115/128

115.地中の昔語り

 港湾都市パルテレアを発ってからおよそ半日。

 左手にコバルトブルーの大海原を眺めながら沿岸の街道を進んでいたリテリア達の耳に、絹を裂く様な悲鳴らしき声が届いた。


「誰かが、助けを求めている様だな」


 ギデンツはその場に背負っていた荷物を下ろすと、即座に抜刀して右手側の深い樹々の奥に向けて走り出す。そのすぐ後に、トヴァリーやガーティン、ケルグといった面々が続いた。

 街道に残ったのはリテリア、ミーナ、セレニア、ラムトの四人だ。


「あの、私達も行かなくて良いんでしょうか?」

「前衛主力が向かったんだから、大丈夫よ。彼らで手に負えないなら、私達が行ったところで状況は変わらないから」


 訝しげに問いかけてくるミーナに、リテリアは静かにかぶりを振った。

 セレニアも同意見らしく、小さく肩を竦めて仲間達が駆け込んでいった方角に視線を飛ばしている。


「ラムト、あんたは周辺警戒。弱くても、見張りぐらい出来るでしょ?」

「あ、う、うん……」


 どこか棘のあるセレニアの言葉に、ラムトは弱々しく頷き返していた。

 その様子をリテリアはちらりと横目で流し見たのだが、その際、ミーナが渋い表情でラムトから顔を背けているのが少し気になった。


(やっぱり……このふたりの間に、何かあったんだわ)


 口で語らずとも、仕草で分かる。

 ラムトはミーナに対して何とか言葉を交わす切っ掛けを掴みたいと思っている節があるが、ミーナの方は完全に拒絶している様に見えた。


(こんなことじゃあ、いざって時に上手く連携取れないわよ……)


 先が思いやられると内心で溜息を漏らすリテリア。

 何とか早い段階で事情を聞き出しておいた方が良いと密かに腹を括っていたが、その時、不意に足元が大きく傾いた。

 リテリアは八極拳習得の過程で鍛え抜いていた体幹と平衡感覚で辛うじて転倒を免れたが、セレニアとミーナはバランスを崩してその場に崩れ落ちていた。


「ミーナ!」


 ラトルが絶望的な表情で叫んでいる。

 見ると、街道の一部に大きな穴が口を開け、セレニアとミーナを呑み込もうとしていた。


(まさか……さっきの悲鳴は罠?)


 しかし、あれこれ考えている暇は無い。リテリアは地中へ引きずり込まれようとしているふたりに続いて、自らその漆黒の空間へと身を躍らせた。


「ミーナ! 今、助ける!」


 ラムトも同じく、暗い宙空へと舞った。その面には恐怖や躊躇いの色は微塵にも見られない。ただひたすら、ミーナを守る為だけに己の命をも差し出そうとする勢いだった。


(猫耳君、頑張るなぁ……)


 そんなことを思いながら、リテリアは大量の土砂と共に地中へ滑り落ちてゆくセレニアとミーナの後を追い続けた。


◆ ◇ ◆


 落下が止まった。

 結構な高さから滑り落ちてきた筈だが、一緒に流れ落ちていた土砂が丁度良い緩衝材となった為、背中や尻に多少の打ち身を喰らった程度で済んだ。


(う~ん……ここは、どこかしら?)


 リテリアは灯輝法術を仕込んだ小杖に機能発動の術語を唱え、ぼんやりとした視界を確保した。

 どうやら、結構な広さを誇る地下空洞らしい。

 土砂から降り立ってみると、足首辺りに冷たい感覚が伝わってくる。恐らく、どこかで海と繋がっているのだろう。地下空洞の地面は硬くて歪な岩場で構成されており、潮水に軽く浸されている。


「う……いたたた……」


 すぐ近くでセレニアが上体を起こす姿が見えた。

 そして――。


「ミーナ、大丈夫? ミーナ!」


 必死に叫ぶラムトの声。どうやら何か拙い状況らしい。

 リテリアはセレニアの肩を軽く叩いてから、その方角に足を急がせた。

 すると、土砂の中から意識を失っているミーナを引きずり出し、頬を軽く叩きながら懸命に呼びかけているラムトの姿を捉えた。


「猫耳君、私に任せて」


 リテリアはラムトを脇に退かせ、聖癒士としての措置技能を発揮した。

 ざっと見たところ、ミーナの肉体に異常も損傷も無く、出血も見られない。意識不明ではあるが、呼吸は安定している。

 幸い、頭部にも傷らしい傷は無いから、単純に意識を失っているだけなのだろう。

 しかし油断は禁物だ。リテリアはラムトと協力して土砂の一部を平らに均し、その上にミーナの体躯をそっと横たえた。


「へぇ……さすが治癒法士ね。手慣れてるじゃない」


 セレニアが感心した様子で、リテリアの手際を横で眺めていた。リテリアにしてみれば特にどうということは無い措置だったが、治癒法士を仲間に持たないセレニアの目には新鮮に映ったのかも知れない。


「それにしても猫耳君、随分思い切ったことしたわね。彼女、貴方にとってそんなに大切なひとなの?」

「うん……ミーナは僕の幼馴染みっていうか……同じ村の出身で……」


 ラムトは弱々しい声で、ぽつりぽつりと語り出した。

 クレヴ村で生まれ育ったこと、両親を失って村長夫妻とミーナに良くして貰ったこと、しかしミーナを巡る村の若者達との軋轢でパルテレアに移住したこと。

 そして万職としての生活を始め、三度に亘る所属探索班の瓦解を経て現在に至ったこと。


「大変だったんだね……それで、その亡くなったオルファナさんってひととミーナは、どういう関係?」

「あぁ、それなら私が知ってるわよ」


 答えられずに口ごもっているラムトに代わって、セレニアが首を挟んできた。


「ミーナって、今から一年半程前にギデンツさんに見出されて、治癒法士見習いになったんだって。んで、その時にギデンツさんのもとで剣の修行に励んでたのが、オルファナさんだって話よ」


 つまり専門技課こそ違えど、ミーナにとってはオルファナは姉弟子に当たるという訳だ。

 ふたりが共にギデンツのもとで万職としての心得を学んでいたのは一年弱程の期間。その間にミーナはオルファナを本当の姉の様に慕っていたらしい。


「そうだったんだ……ミーナが万職に……」


 ラムトは気を失ったままのミーナに、そっと視線を流した。彼の話によれば、ミーナは泣きながらクレヴ村の門で去り行くラムトを見送ったらしい。

 それ程に彼を気遣っていたミーナが何故、ラムトに対してあれ程の敵意を剥き出しにしていたのか。

 真相は大体、分かった。

 が、リテリアには納得しかねた。


(そのオルファナさんが亡くなったのは、猫耳君の所為じゃないでしょうに)


 怒りの矛先を間違えている――リテリアはやれやれとかぶりを振った。

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