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終末の北海道  作者: 秋山如雪
シーズン1 夏
5/35

エピソード5 過去の記憶

 美宇が翼を促して、バイクを停めさせた場所。


 そこには、観覧車、ジェットコースター、メリーゴーランドなどの「残骸」が無残に転がっており、人がいないそこは、ゴーストタウンか、お化け屋敷のように不気味だった。


 かつて、「ルスツリゾート」と呼ばれた、北海道を代表する大きな遊園地があり、冬にはスキー場にもなっていた。


 そこでバイクを停め、降りて、サイドバッグから水を取り出して、一口、口に含む翼。


 対して、美宇はいつになく真剣な表情で、眼鏡の奥から翼を見つめた。

「翼」

「ん?」


「お前、いつから記憶がない? それと、あの教会に来る前はどこで、何をしていた? どういう経緯で教会に連れてこられた?」

「ちょっと、ちょっと。いきなりそんなに一気に言われたって、困るよ。そういう美宇は?」


 お互いのことを知っているようで、実は知らない二人。牢でもたまたま一緒になった、というか近くにいた同年代だから、仲良くなっただけだった。


「私は3年前以前の記憶がない。そして、恐らく札幌市内にある図書館のような施設にいた、ことは覚えている。だが、2年前の冬の日、確か『研修』と言われ、あの教会に行ったら、そのまま幽閉された」

 淀みなく、すらすらと言葉を発する美宇。


 翼は、

「うーん」

 考える素振りをしているのか、それとも単に疲れたのか、大きく伸びをしてみせた後、


「私は2年前からかな。多分、牧場みたいなところにいてね。バイクに乗っていたことは何となく覚えているけど、後は覚えてないかなー」

「教会には何故来た?」


「よく覚えてない」

「何年前だ?」


「さあ」

 謎は残っているが、それでも美宇は察した。


 彼女は思った。翼は、やたらとバイクの扱いに慣れていた。そして、どこか奔放で伸び伸びしているような様子が、放牧されている牛か馬のように感じることがあった。

(あれは、ある意味、動物だな)

 彼女には言わなかったが、そういう部分を感じていたし、もちろんそれは「憐れみ」や「軽蔑」という感情ではなく、むしろ「羨望」に近い感情だった。


 どちらかというと、狭くて暗い、図書館というインドアな場所での記憶が色濃く脳裏に染みついている美宇にとって、明るくて活発な翼を羨ましいと思う気持ちがあった。


 だが、同時に、賢い彼女は別の考察を頭の中で走らせていた。

(問題は、何故私たちが『記憶を奪われた』のか、だ。見たところ、あの施設に収容されていたのは女性のみ。そして、全員、記憶を奪われているようだった。それも中途半端に。何らかの人間の『悪意』を感じざるを得ない。私たちの記憶を操作したのは、誰で、そして何の目的があって……)

 そこで、彼女の思索が遮られていた。


「見て、見て! 美宇! 綺麗!」

 うるさいくらいに明るい彼女が、大きな声を上げて指を向けていた。

 その先に、新緑の森の向こう側に広がる、巨大な山があった。


羊蹄山ようていざん蝦夷えぞ富士か」

「ようていざん? えぞふじ?」

 頭にハテナマークを浮かべるように、首を傾げる翼に、美宇は、苦笑しながら、説明していた。


「お前は、何も知らないんだな。北海道でも有名な山だぞ。昔の人間は、何でも『富士山』に模したんだよ。日本全国に『〇〇富士』という山がある」

「ふーん。でも、綺麗だねえ」


「ああ」

 二人で見る、初めての羊蹄山、蝦夷富士。


 それは綺麗な稜線を描く、円錐型の山で、「蝦夷富士」の名に相応しい偉容を見せていた。

 標高1898メートル。北海道を代表する山の一つだ。


 美宇もまた、サイドバッグからペットボトルを取り出し、水を一口、飲んだ。


「じゃあ、行くぞ」

「そうだねー」

 二人の気ままな、そして、当てがあるような、ないような旅が続く。

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