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終末の北海道  作者: 秋山如雪
シーズン1 夏
4/35

エピソード4 北海道の生き物

 まずは美宇によって「函館」という目標が決められたものの。


「国道230号を真っ直ぐ進んで、途中から国道5号を進むだけだ。ただし、ガソリン残量に注意して、給油していけ」

 もちろん、彼女が心配していたのは、燃料についてだった。


 いくら燃費がいいバイクとはいえ、途中でガソリンが尽きたら、間違いなく「終わる」のだから。


 こんな世界に、ロードサービスが生きているとは到底思えないし、そもそも連絡手段なんてないのだから。


「わかったよ」

 と言いつつ、翼は呑気な物で、鼻歌を歌いながら、札幌の中心部を出発した。


 ガソリンスタンド。

 広大な土地を持つ、この北海道では、それが実は「命綱」になる。


 何しろ、ひどいところは10キロ、20キロも荒野のような状態が続き、人家すらない。そんなところでガソリンが尽きることが一番恐ろしい事実だった。


 幸い、国道230号沿いに、ガソリンスタンドは一杯あった。


 もちろん、電光掲示板は死んでいるから、料金はわからないし、そもそも「お金」を持っていない上に、その概念がなくなっている彼女たちは、コンビニと同じように、「窃盗」まがいに、勝手にホースから給油していた。幸い、ホース自体は生きていた。


 バイクのメーターによると、残量はまだ余裕があったが、ここから先に何が起こるかわからないから、注意した方がいいと、翼は美羽に諭されていた。


 札幌市街地から国道230号に入る。かつては、北海道の主要国道として、沿道は栄えていたが。


 今では、市電は動いていなかったし、何よりも人気も車もないため、道路自体が「荒れて」いた。

 それだけではなく、明らかに「砲撃」でも受けたような穴があちこちに空いていたり、戦車や装甲車の残骸が転がっていた。

 まるで、戦場になったかのように、瓦礫が転がっていたり、建物が崩れている箇所も何か所も存在した。

 その分、道路上には、瓦礫が散乱し、凹凸がひどい状態だったのだ。


「デコボコしてるねー」

「こいつは、クロスカブだから、多少の悪路走行も問題ないだろうけど、オフロードじゃないからな。気をつけろよ」


「わかってる」

 美宇に言われ、シートにお尻を押しつけるようにして、翼はハンドルを握る手に力を込めた。


 そのまましばらく進むと、やがて左手に大きな山塊が迫るように見えてくる。藻岩山だ。

 札幌を象徴し、街を見下ろすように立つ、この標高531メートルの山は、ちょうど季節的に新緑に彩られ、美しい姿を見せていたが、かつては登山やスキーで賑わった山とは思えないほど、閑散としていた。


 その風景を見ながらさらに進むと、くたびれた人家の向こうに山肌が削られたような山が見えてくる。


 硬石かたいし山と呼ばれる、標高371メートルの山で、ここは札幌の南郊にあり、明治時代から札幌硬石という石材を産出したという。


 その後もコンクリートに混ぜる石材などが産出されていたというが、もちろん現在は、重機の類は見えない。


 この辺りまで来ると、札幌と言ってもかなりの郊外になる。

 周りには、山や森が増えてきて、かつての100万都市と思えないほどの、大自然に包まれていく。


 そのまま、山道を登っていき、札幌郊外の定山渓じょうざんけいという温泉街を通り過ぎ、やがて中山峠を越えると、下り坂に入り、喜茂別きもべつ町、そして留寿都るすつ町へと、道路上の青い道路標識が示していた。


 そして、その留寿都町で、「事件」は起こった。


「何、あれ?」

「岩か。いや、動いてるぞ」


 走行中に、道路の中央付近に大きくて茶褐色の塊を見つけた翼が声を上げ、美宇が注意深く見守る。


 すると、

「熊だ!」

「え、マジで。触っていい?」


 そんな呑気なことを言う、翼に、美宇は怖いくらいの大きな声で制していた。


「バカ! あれはヒグマだ。襲われたら食われるぞ」

 そして、言った傍から、熊の脇をバイクで通り抜ける翼とその熊の目が合っていた。


 大きかった。

 体長が軽く2メートルは越えている。


 しかも、

―グォオオオオオ!―


 雄叫びに近い声と共に、走ってきたのだ。


「追いつかれるぞ! 全速力で逃げろ!」

「わ、わかった!」


 ヒグマは、そのまま獲物を見定めた狩人のように、猛烈なスピードで地面を蹴って、彼女たちのバイクに向かって走ってきた。


 ヒグマの成獣は、平均的に体長2メートルを超え、オスなら体重が120~250キロを越える。だが、その巨体には鋭い牙、爪があり、家畜や人も襲う。


 しかも最高速度は時速50キロを越えるというから、かなり速い。


 だが、彼女たちは幸いバイクに乗っている。それも原付ではなく、原付二種の110ccだ。


 スロットルを思いっきり回した、翼がカブを走らせると、速度計は70キロ以上を指していた。


 しばらくヒグマは、諦めずにしつこく追ってきたが、彼我の距離が100メートル以上離れると、さすがに追ってこなくなり、引き返していった。


 サイドミラーを見ながら走っていた翼が、徐々にスピードを緩める。

「はあ。ビックリした」

「バカ。ヒグマは、可愛いもんじゃない。あいつら、魚も鹿も家畜も、もちろん人間も食うんだぞ」


「そうなんだ。さすが美宇、よく知ってるね。私はてっきり、物語に出てくるような、可愛い動物かと思ったよ」

 その一言に、美宇は、何かを感じ取ったように、翼に指示を出した。

 翼が見た物語に、そんな可愛い熊が出てくるのが、リアリストの美宇には不思議に思えるのだった。


「翼。あそこでバイクを停めろ」

 彼女が指さした先には、観覧車やジェットコースターの残骸が転がっていた。


 そこは、かつて「ルスツリゾート」と呼ばれた、遊園地だった。

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