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終末の北海道  作者: 秋山如雪
シーズン4 春
29/35

エピソード29 地球が丸く見える場所

 釧路湿原をようやく1か月ぶりに出発した彼女たちは、「進む」方向ではなく、「戻る」方向に近い動きをする。


 理由は簡単で、気まぐれな翼が、

「あっち。あっちに良さげな道があると思うんだ」

 と、謎の嗅覚を働かせていたからだ。


 釧路湿原から北東にバイクを走らせることおよそ100キロ、1時間半程度。すでに路面に雪は完全になくなっており、乾いたアスファルトが続く。


 そこには、かつて本州以南から来た、ライダーたちが「ツーリングの聖地」と呼んだという、絶景ポイントがあった。


「うおー。これはすごい。まさに北海道!」

 興奮しながら、ガンガン加速している翼。美宇は必死に腰にしがみついていたが、道はどこまでも真っ直ぐで、まるで巨大な定規で線を引いたように、ひたすら何十キロも真っ直ぐだった。


 途中、起伏はあるが、とにかく遮るものが何もない。ただただ平原に続く真っ直ぐな道。


 これを見て、喜ばないライダーはいない。


 そして、さらに、

「開陽台だっけ? さっきのところが気になる」

 その看板に気づいた翼が、わざわざ今走ってきた道を引き返して、そこにバイクを走らせていた。


 タンデムされる立場で、免許も経験もない美宇は、従うしかない。


 その開陽台。


 ここはまさに、「見渡す限りの大平原」が見れる、北海道らしくもあり、日本的ではない、かつての一大観光地にして、「ツーリングライダーの聖地」だった。


 「地球が丸く見える」という看板が立っており、晴れていればどこまでも景色が見え、地平線が見える。文字通り、「地球の丸さを感じられる」のだ。


 雄大で、大陸的な北海道を最も具現化していると言っていい、まさに「最も北海道的」な場所だった。


「すごすぎるよ、北海道!」

 しかもその日は、多少の雲があっても、晴れ間が覗いていたので、翼は感動のあまり、溜め息混じりに展望台から、ずっと景色を眺め、なかなかそこから動こうとしなかった。


「はあ。まあ、すごいけど、もう飽きてきただろ? 大体、北海道の道は走りやすいだろうけど、眠くなるんだよな。道が単調で」

 美宇は、北海道出身ということもあるし、元々運転する立場でもないというのもあったが、いい加減、この「単調な風景」に飽きてきていた。


 しかし、北海道出身者ではない翼にとっては、違うようだった。

「飽きる? 何で? こんなの本州じゃ絶対に見れないよ」

 いつまでもそこを離れようとしなかった。


「これで、ソフトクリームでもあれば最高なんだけどな」

 展望台がある建物には、飲食店もあるが、もちろん電気が来ていなかったし、ソフトクリームと書かれた「のぼり」だけが寂しく風に翻っていた。


 それを恨めしそうに翼は眺めていた。

「諦めろ。自動食糧生産工場に行けば、何かしらあるかもしれん」


「ねえ、美宇」

「何だ?」


「いつも言ってるけど、その自動食糧生産工場って、何なの? そもそも何を作ってるの?」

 不意に翼に問われた美宇は、思い出そうとしていたが、彼女の記憶自体が曖昧で、ただその「言葉」だけが、記憶の片隅に存在していた。


「正直、私も何があるかは知らん。ただ、昔、見た記事では、様々な物が作られているらしい。北海道は地産地消で、地元で食べ物を入手できるからな。その上で、人手不足を補う手段として造られたんだろう」

「ふーん。でも、これだけ道内を回っても全然見つからないよ。本当にあるの?」

 疑いを持つ、翼に対して、美宇は不思議と、絶対の信頼を置いているようだった。


「ある。ここまで来たんだ。絶対に見つけてやる」

 何故か闘志を燃やす美宇に、翼はほくそ笑んでいた。


「人のこと言えないね。食いしん坊だね、美宇」

「お前にだけは言われたくない。私は、必要な食料を調達したいだけだ」


「またまたー」

「いいからさっさと行くぞ」


「はいはい。わかったよ」

 ようやく根を張ったように、その場から動かない翼を引き離して、駐車場のバイクへ向かわせる美宇だった。

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