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終末の北海道  作者: 秋山如雪
シーズン3 冬
26/35

エピソード26 この世の果て

 知床で、美宇が不思議な体験をして、その後、2人とも謎の敵に襲われてから、彼女たちは、知床横断道路をバイクで走ることになった。


 走りながら、美宇は翼から声をかけられていた。

「ねえ、さっきのあれ、何? めっちゃ怖かったんだけど」

「ああ、あれな」

 美宇も思い出すが、銃撃とその後の手榴弾の攻撃を受けて、翼がかわいそうなくらい震えていたのを覚えていた。


「恐らく、山原のしわざだろうな」

「えっ。あの網走刑務所で会った人?」


「ああ」

 彼女の頭の中では、早くも犯人探しが始まっていた。


(何の目的があるのか知らんが、私たちが存在すること、いや恐らく自動食糧生産工場に行くことを嫌がる人間が、この北海道にいる)

 という見立てだった。


 実は「自動食糧生産工場」のことを山原に聞いた時、一瞬だが彼が眉毛を動かして、怪訝な表情を作ったのを、美宇は見逃していなかった。


(あの男が一番怪しい)

 現状ではそうとしか見れないのだった。


「とにかくさっさと知床を離れた方がいいだろう」

「どうするの? どこに向かうの?」


「そうだな。とりあえず知床峠に行ってくれ」

「了解」

 翼がバイクのスロットルを回す。


 山間部の道をひた走り、やがて着いた場所が。


 知床峠展望台。


「おおー。すごい!」

 翼が感動のあまり、大きな声を上げていた。


 その日は、珍しく晴れており、雪が降っていなかったため、雄大な天頂山や羅臼らうす岳がよく見えるのだった。


 そのまま、一応は尾行を気にしながら、彼女たちは知床横断道路を走り抜け、今度は逆の羅臼町側に降りる。


 もちろん人気がない。


 かつては観光客で賑わったであろう、道の駅らうすにも人影がなかった。


 ただし、建物自体は老朽化もしておらず、使えた。

 彼女たちはここでしばらく「寝泊まり」をすることを決意する。


 何しろ2月とはいえ、北海道のこの辺りは寒さが厳しい。日中も氷点下になるような気候のため、とてもテントで眠れるものではなかった。


 もう少し暖かくなるまで、ここを拠点として、周辺を探索しながら過ごそうと思うのだった。


 そこで、魚を中心とした「食糧」を得るため、翌日には南下して標津しべつ町のあたりまで行ってみた。


 この辺りに「野付のつけ半島」という場所があり、ちょうど道路が両脇の海に挟まれるようにして、一本道が半島の先まで伸びている。


 そこに行った時のことだ。


「すごいね。この世の果てみたいな雰囲気」

 と、バイクの上から翼が視線を向けながら言った。その視線の先には、朽ち果てたような木々が、道端に延々と並ぶ草原が広がっていた。


「ああ。確かトドワラとナラワラだったかな」

「なにそれ?」


「枯れたトドマツが海水の浸食と潮風によって朽ちたのがトドワラ、ミズナラが立ち枯れたまま残ったのがナラワラだったかな」

「へえ。しかし、この終末世界にはぴったりだね」

 と、皮肉を言いながらも、翼は時折、バイクを停めて写真を撮っていた。


 結局、この野付半島では、わずかな魚を入手できただけだった。


 また別の日には、羅臼まで戻り、知床半島東側にある、「日本最北東突端地」という場所まで陸路でひたすら行ってみたが。


「何もないねー」

 途中に滝があるくらいで、それ以外は何もなかった。


 幸いだったのは、冬眠中の熊が出てこなかったくらいだった。


 季節はゆっくりと春へと進み、2月は終わろうとしていた。


 3月。まだ春とは言えない北海道に、ほんの少しだけ春の気配が漂う頃。彼女たちはようやく道の駅らうすの寝床を引き払って出発した。

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