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終末の北海道  作者: 秋山如雪
シーズン3 冬
24/35

エピソード24 動物に好かれる人間

 2月中旬。


 美来と翼のコンビは、知床半島に近い、斜里しゃり町にいた。


 そして、目の前に広がる絶景に、文字通り、絶句していた。


「……」

 言葉がなかったのは、美来の方ではなく、翼だった。


「どうした、翼。感動のあまり言葉も出ないか。でも、北海道にはこんな風景は当たり前のようにある」


「すっごいねえ! 北海道!」

 そこは、「天に続く道」と呼ばれる道で、国道244号から国道334号、斜里郡斜里町と小清水町を結ぶ、全長約28キロメートルの直線道路だった。


 広大な森林地帯を両脇に持ち、その間をひたすら真っ直ぐな、まるで滑走路のような道路が一直線に続いている。


 これは元々、ただの地元の道だったのだが、あまりにもすごい光景に感動した、本州から来た人が、SNSで発信して有名になったとも言われている。


 それだけ、北海道人にとっては、別に特別でもない道なのだが、内地の人間にとっては、20キロ以上も続く直線道路なんて、滅多に見られるものではなかった。


 このあたり、日本とは思えない「大陸的な風景」が見れるのが北海道だった。


「そうか。よかったな」

「うん! マジで凄いよ、北海道。こんなの見たことない」

 しばらくは、感動のあまり、写真を撮りまくっていた翼。


「もったいないから」

 という理由で、ここでこの絶景を眺めながら、昼食が食べたいと言い出した。


「このクソ寒いのに」

 北海道人は、意外と寒がりだ。美来も寒がりだったが、それは家の中が強烈な暖房で満たされているからだ。真冬は二重窓に玄関フードという、防寒が抜群の家に住み、しかも石油ストーブが当たり前の住環境に住んでいることがほとんどの道民にとって、実は寒さは苦手なものとなる。


 よく北海道出身者が、東京に行くと「寒い」と言うのは、この「室内の暖房設備の違い」によるもので、東京あたりは特に冬の室内の暖房に関しては脆いものがある。


 それはともかく、おもむろに網走で手に入れた、おにぎりを広げ、さらに同じく入手したサンドイッチまで広げ始めた翼。


 仕方がないので、美宇も付き合って食事となったが。


「うおっ。びっくりした!」

 美宇がのけぞっていた。


 見ると、牝の鹿が近づいてきており、しかも明らかに翼の食事を「狙って」いた。冬毛の牝の鹿と言っても、エゾシカである。

 角がない牝でも体長が90~150センチはある。


 かなり大きい。

 しかし、翼は怖がることもなく、その鹿にサンドイッチを差し出していた。


 鹿は、何の躊躇もなく、サンドイッチを食べていた。

「お前。怖くないのか?」

「何が?」


「いや、鹿だぞ。結構デカいぞ」

「可愛いじゃない。バンビちゃんみたい」

 バンビというのは、戦前のアメリカ映画だ。翼がそんな古い映画を知っていることにも驚いた美宇だったが、


「呆れた。しかも鹿ってサンドイッチ食べるのか」

「まあ、いいじゃない」


 実は美宇は知らなかったが、鹿は小麦や野菜も食べるという。それ故に、エゾシカによる農業被害もあるらしい。

 のんびりしているというか、自由奔放な翼に美宇が呆れていると。


 さらに動物が集まってきていた。

 キタキツネ、エゾシマリス、エゾタヌキ。


 しかもそのいずれもが、翼に懐くように、近づいて行った。

(こいつ。動物に好かれる才能でもあるのか)

 と、美宇が疑うほど、動物たちは翼に対して、無警戒だった。その上、彼女はいちいち彼らにエサを与えていた。

 

 世の中、不思議と「動物に好かれる」人間はいるらしい。大抵、そうした人間は、優しかったり、柔らい雰囲気を持っている物らしい。


 恐らく本質的に優しい翼を、動物たちは直感として感じ取ったのだろう。翼の意外な才能を見た、美宇だった。


 旅は、知床へと続いていく。

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