シン・セン組! 令和悪霊退治
新撰組、局長、副長、組長、隊士等の名前が出てきますが、実在の名称・団体等とは関係が無く、フィクションです。
ふんわり学園わちゃわちゃものです。楽しんで頂けると嬉しいです。
とある学校に「ひじかたとしぞう」が転校してきた。
ひじかたとしぞう。
勿論、幕末の超有名人、新選組副長・土方歳三、ではない。
同音声漢字違いの、土方十四三だ。
先生に、自己紹介をと言われ、トシは、ビミョーな表情で、言うとおりにする。
「土方十四三です・・・」
ざわっ!クラス中が、ざわめく。
「土方?」
「土方・・」
「新選組・・・」
ざわざわざわ。
トシには、慣れた光景だった。そりゃあな。超有名人と(発音だけ)同じ名前だもんな。
「ねえ、土方君、結構顔かわいくない?」
「え、本物の土方みたい」
などと、女子が言っているのをトシは聞き逃さなかった。
もう少し、背が伸びれば。年取って童顔じゃなくなれば、、。
トシは、小学低学年の頃、女の子みたい、と言われて男の同級生の輪の中に入れてもらえなかった。
ある時、いじけて家出をしようとしたことがあった。知らない電車に乗ると、知らない場所に辿り着き(当たり前)、ビビっている所へ、叔母さんが迎えに来てくれた。
自分の記憶が無いくらい子供の頃の写真を見てみると、女の子の服を来た写真が残っていたりする。そのくせ、名前は新撰組の鬼副長と同じって。どんな親だったんだ。
ん?
ふと、トシは、気が付いた。
教室が、いつまでも、ざわざわしている。
トシは、両親が既に他界しており、叔母さんと暮らしていた。叔母さんは警察官で転勤が多く、それに伴ってトシも転校を繰り返していた。
世の中には新選組を知らない人もいる。そういう時は、ざわつかない。でも、このクラス、皆、新選組の事、知ってそうだ。めずらしいな。
どたどたどた・・!
廊下の向こうから、物凄い勢いのある足音が聞こえてくる。なんだ?と、思っていると、教室の扉が開け放たれ、
「土方さーん!!」
と、小柄な一年生男子が叫びながら入って来た。
ホワイトボードの前に立っているトシを見つけると、勢いよく詰め寄り、
「土方さん、僕、僕、、」
トシは、後ずさった。こいつ、涙目だ。まさか告白じゃねーだろな。俺は男だぞ。
小柄男子は、予告なく、がしっとトシの腕を掴むと、そのまま、問答無用に教室の外へ連れ出していく。
「え、おいおい何だよ」
引きずられるようにして、トシは拉致されていった。。。
使われていない旧校舎の一番奥の部屋の中に、トシは強引に投げ込まれた。
その瞬間、
「ようこそ!新選組へ!」
景気の良い声と共に、クラッカーが鳴らされた。
降って来た紙テープを頭からかぶったトシは、呆然としている。
「なに?」
部屋の中には、クラッカーを鳴らした張本人のヘッドホンを首にかけたトゲトゲ頭の男子と、格闘家バリにガタイの良いスキンヘッドの男子、正面奥で、静かに本を読んでいる眼鏡をかけた頭良さそうな、くせ毛の金髪男子がいた。こいつは何か、リーダーっぽいな。
おい、まさか。トシは、直感した。
トシを拉致してきた、小柄男子が、
「僕、沖田奏司です」
と、にこやかに名乗った。
「!」
「俺は原田叉ノ丞だぜい!いぇい!」
トゲトゲが、調子よくラッパーみたいな感じで言った。
格闘家が、ものすっごい低い渋い声で、
「嶋田介です・・」
と、静かに言った。でかいよ。ほんとに中学生かよ。
これだけ揃っていると、これはもう、どう考えても・・・。と、トシは、奥の眼鏡男子を見た。眼鏡男子が、ちらりとトシを見た。二人の目が合った。
沖田が、バスガイドのおねえさんの様に腕を伸ばす。
「副長、あちらにおられる方が、なにを隠そう、我が新撰組(同好会)局長、近藤伊佐美様、ですっ!!」
どういうことだよ、、これ。
音声一緒の新選組メンバーが、こんだけ揃うって、なんの謀略だ?
ホームルーム終了のチャイムが鳴った。
近藤が、本を閉じて立ち上がる。
「教室に戻ろう」
「はい!」
沖田たちは、素直に従い、部室(旧物置)を出て行く。
「無理に付き合わなくていい」
近藤が、すれ違いざま、トシに言った。
トシは、その場で返すことが出来なかった。何故か、近藤を他人と思えず、孤独の似合う背中が見えなくなるまで見送った。
放課後。
トシが、教室でクラスメイトと話していると、例によって沖田が現れ、拉致された。
部室には、客らしきポニーテールの女子が来ていた。
部室の左奥には畳が敷いてあり、奥の壁には掛け軸とその下に刀が飾ってあった。まあ、、偽物だろう。
女子と近藤は、畳の上で正座して話していた。抹茶とお茶うけまである(提供:茶道部)。ノリが良すぎだろ、この学校。
近藤は、ずずっと茶を飲み干して、(背後でカコン、と鹿威しの音・・スピーカーか?)美しい所作で茶碗を置くと、女子を見た。
「お引き受けします」
「ありがとうございますっ!助かります!」
女子は、何度も頭を下げて出て行った。
引き受けるって、何を?
きょとんとしているトシを見て、近藤が、にやりと笑みを浮かべた。
「お前、今夜来るか?」
「今夜?て?」
夜。
新選組(同好会)メンバーは、校舎前に集まった。嶋田によれば、話は、学校に通してあるらしい。胡散臭い学校だな。
トシは、訳も分からず、来た。沖田に拉致された訳でも無く、自分の意思で来た。
近藤が、トシを見て、何も言わず、にやりとした。
トシは、見透かされたような気がして、むっとした。お前だってクールぶってる割には、ノリノリじゃねーか。
沖田はよく見ると、刀を持っていた。部室のやつか?
近藤、嶋田、叉ノ丞は手ぶらだ。俺もだけど。
「なにすんだ?」トシが訊いた。
「ダンナ、今更だな」と、叉ノ丞。
「行きましょう」
沖田が、昼間と別人の様な鋭い顔つきで言った。何事?
皆、中に入って行った。
新校舎音楽室。
吹奏楽部は、ここで練習をしている。旧校舎の音楽室より、大きく、響きも良い。
しかし、ここの所、吹奏楽部が練習をしていると、物が動く、変な音が聞こえる、うめき声が聞こえる、ベートーベンの肖像画が睨んでくる、等々不可思議現象が続いていた。
そこで、新選組(同好会)に、悪霊退治の依頼が来たのだ、と、向かっている途中で、嶋田が教えてくれた。
トシは、驚いた。
「お前ら悪霊退治が出来るのか?」
「いや」と、叉ノ丞。何で来てんだよ。
「出来ません」と、嶋田。何か、、優しいな、こいつ。
残りは?
と、トシは、沖田を振り返った。
沖田は、静かに音楽室のドアを開け、明かりのスイッチを押した。ぱっと明るくなった。ホワイトボード、ピアノ、椅子、背後の壁には年季の入った作曲家たちの肖像画。これのベートーベンがガンつけてくるという話だが、、。
皆、中に入った。静かだ。
「夜来る必要あるか?」
ふと疑問に思い、トシが、言った。
「肝試しは夜だろうがよ」
と、叉ノ丞。お前は、趣旨をはき違えている。
「悪霊退治は危険です。人がいない夜間の方が良いのです」
眼光鋭く、沖田が言った。まるで居合の達人の様に、刀を腰に差し、柄に手をかけている。
「お前、、それで斬るのか?」
「土方さん、気を付けて下さい。いますよ」
「え」
ふいに、幾つかの蛍光灯が、点いたり消えたりし始めた。
かたかたかた・・・。たった一つの椅子だけが、小さく細かく揺れ始めた。
ケケケケケケ。ヒヒヒヒヒ。遠くで響くような笑い声。
バーンッ!!突如、誰も触れていないピアノが大音量を上げた。トシは、ビクッとして上半身を引いた。その肩を誰かがポンポンと叩いて来た。
「なに」
トシが振り向くと、血だらけのベートーベンがいた。
「%&$#*@?‼」声にならない悲鳴だった。
「うぉお!ベートーベンだ!!」
叉ノ丞が、街中で○ム・クルーズを見つけたぐらいのテンションで、叫んだ。お前は、どんな神経してんだ!
ベートーベンは、上半身しかなく透けていた。顔は飾ってある肖像画通りの顔だった。ベートーベンは、暗い顔でじっとトシを見ている。一転、シャーッ!!と、毒蛇の様に口を開いて、鋭い牙を露わにした。
「ぎええぇ!」
「土方さん!伏せて下さい!!」
沖田の声に、トシは、反射的に膝を折って身をかがめた。そこを沖田が飛び込んできた。
一閃!
気が付くと、沖田はベートーベンの体の向こう側に着地していた。すくりと立った沖田が刀を鞘に収めると、ベートーベンは、バッサリと二つに割れ、次の瞬間、それらはざらりと砂のよう崩れ、断末魔を引きながら、消えた。
沖田、すげえ。
感心していると、沖田が振り向いた。まだ顔が厳しい。終わってないのだ。
「けけけけけけ」
壁の肖像画から、次々とその作曲家の姿をしたモノが出て来た。
「俺の歌を聴け―!!」ナゾの雄叫びを上げながら向かって来るハイドン。
「遊んで遊んで~」可愛らしいモーツアルト。叉ノ丞が一緒に遊びだす。おいおい。
沖田は作曲家もどきの悪霊をばったばったと斬りまくる。こいつはマジでスゴイ。
嶋田は?
トシが、きょろきょろ見回すと、嶋田は部屋の片隅で、自然体に立ち、完全に存在感を消していた。ある意味すごい・・。
「ねえ、死神が来るよ」
急に、モーツアルトが不気味な事を言い出し、叉ノ丞が「ほえ?」となった。
「死んじゃうよ~!!」
モーツアルトの形相が、一転して醜悪なモンスターに変わった。叉ノ丞は声も上げられず、固まった。
「叉ノ丞!!」
思わず、トシの体が動いた。その肩を押しとどめる手があった。
「下がっていろ」
近藤だった。すっと眼鏡を取り、射殺す様な目で、モーツアルトを見た。
ボッ!!
モーツアルトが、突如、火に包まれた。
「!!」
「ギエエエエエエ!!」
悲鳴を上げるモーツアルトは、一気に燃え盛った。トシは、思わず近藤を見た。近藤は、モーツアルトから目を離さなかった。
モーツアルトは、灰になり消えた。
音楽室には、静寂が戻った。
肖像画もどきの正体は、長年に渡って積み重なった人の思い、感情、思念だ、と沖田が教えてくれた。
それが一塊になり、肖像画の姿を得て、人に害成す程の悪霊になったという。
沖田は随分疲れていた。無理もなかった。翌日、彼は学校を休んだ。
放課後、トシは、拉致られることなく、自分で部室に来た。中には、近藤しかいなかった。相変わらず、静かに本を読んでいた。本ならどこでも読める。ここに来るのは、ここが特別だから。
トシは、黙って近藤の横に座った。近藤の纏っている孤独の理由が、少し分かった気がした。
「なあ、なんか、居心地良いな、ここ」
ぽつりと、トシが呟いた。近藤は、黙っている。
「変な事言うけどさ、俺、お前と、前に会ってる気がすんだけど、、」
近藤の目が、微かに見開かれた。
「前世、か?」
茶化すように、近藤が言った。
「いや、そんなんじゃないと思う、、けど、、」
トシは、はっきりと言えなかった。でも、前世で一緒だったんじゃないかって位、ここの連中には、親近感がある。なんだろ。名前が、新選組と同じだからか?
近藤は、ひそかに微笑んだ。
トシが言った事は、間違っていなかった。二人は、トシが家出をしかけた日に会っていた。その日、近藤も、家を飛び出していた。二人は、とある駅近くの公園で出会って、話もしていた。間も無くトシには迎えが来たが、近藤には来なかった。
近藤は、トシを見て、すぐ、あの時の子供と分かったが、向こうは気付いていないので黙っていた。多分、この先も言わない。
「ちゃーっす!!」
叉ノ丞が、ピザ屋の袋を下げて、入って来た。飲み物を下げてる嶋田と、沖田もいた。
「なんでいんの、大丈夫かよ」
「授業は休んでも、屯所(部室)は毎日出勤します!!」
沖田は、元気そうだった。ちょっと優先順位おかしいけど。
「おつかれさーん!!」
ピザとコーラで、打ち上げだ。