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視察団 1つ目の村

 翌朝は、ノアの隣で目覚めた。お腹の子が腹を蹴った衝撃で起きたのだ。朝から元気で羨ましい。まだ完全に目が覚めていない頭で、そう思う。無意識にお腹を撫でる。


 朝は寒い。いつもの事だけど慣れない。寒いのは苦手だ。この世界の冬は雪も降らず、窓も水溜りも凍らない。寒くても上着を羽織れば、日中は動ける。が、何故か夜から朝はとても冷える。冬ほどではないが夏でも冷える。不思議な気候だなと思う。


 でも、だから野菜が美味しいのかとも考える。朝と日中の温度差が開くほど、美味しい作物が育つのだ。



 ノアの耳を撫でる。ノアより先に起きた時のご褒美だ。最近ティモシー君の頭を撫でると迷惑がられているのが、地味にショックなカヨである。

 ティモシー君も8歳だ。日本だと、小学2年生になる。自分という性格ができて来て、何にでも挑戦したいお年頃だ。

 大人が子供の自立を邪魔してはいけないと思う。


 でも、夫婦や恋人で耳や尻尾を触りたいと言うと、夜のお誘いになってしまう。

 赤の他人なんて、もってのほかだ。言ってしまったら、その人は変態だ。

 触れるのは、家族がぎりぎりのラインなんだ。もしくは今のノアみたいに眠ってるか、ノアに言わずに勝手に触るのは、ギリギリセーフのようだ。じゃれあいだと思ってくれる。


 私が頭を撫でると、ちょっと迷惑がるティモシー君は正常に大人の階段を登っていると言える。獣人の本能的なものなのだ。



 だから私は、触れる時に思い切りノアの耳や尻尾を触る。もふ成分の補充を行っているのだ。旦那様を愛でているので、正しい行為だ。と自分を正当化させてみる。

 ウィル君はね、私の前じゃ、大人しくしてくれないから仕方ない。きっと今は箸が転がるのも面白い年頃なんだ。


 だって!カーマインの領都には、もふもふの人しかいない。毎日見せられると触りたくなる!それが、家族しかダメだとぅ。フラストレーションたまるわ!


 カーマイン領とチャシマ領の領境では、獣人と人族のカップルが多く住んでいたけれど、中心部に向かって獣人の比率が高くなる。領都で住んでいる人族なんて、今のところ私以外見たこと無い。

 家にこもってたらわからんが。


 だからノアが起きるまでがチャンス!起きてもじゃれついて触れば触れるが。


 触れるのに満足したら、ノアを起こすためにノアの耳に口を近づける。


「ノア、朝だよー、起きてー」


「ん?んー……あーおはよう、カヨ」


「おはよう、ノア」


 ノアの唇に、ちゅっとする。ベッドから降りて着替える。昨日とは違う服。紺色みたいな旅装。もちろん劣化防止の付与つき。3着全部ね。残りの色は落ち着いた黄色と白色。白色だけは薄く青色のグラデーションが入っている。


 ノアものそのそと起き出して、着替えている。まだ昨日の疲れが残っているかな?

 私はノアに治癒魔法を掛けた。治ったかな?


「カヨ、ありがとう。疲れが飛んで行ったよ」


「良かった。身体が辛かったら言ってね。いつでも掛けるから」


 ノアに抱き寄せられる。触れるだけのおはようのちゅう。

 階段を降りて、洗面所で顔を洗い、私とノアの口にクリーンを掛ける。水分が無くなった口を順番に水ですすぐ。

 私は髪をポニーテールにして寝癖を誤魔化す。


 ノアと2人で異空間住居を出る。

 サーニャに旅の間の、朝の支度は断っている。料理人を手伝ってくれとお願いしてあるので、もう起きて朝食を作ってくれているだろう。


 集会所みたいな所に行き、起きている人に挨拶をする。大体集まっているが、まだの人もいる。夜勤で警護をしてた人もいるみたいだから、朝食を食べたら寝るのだろう。

 まだ起きていない人を起こしに数人が出て行った。基本的には、ノアと私が最後に集会所に集まるのが理想。

 あんまり早く起きると、今みたいにまだ来ていない人を起こしに行かなくちゃいけないからね。


 ジン前男爵が、挨拶をして近づいてきた。今日の予定をノアに確認するみたいだ。

 挨拶を返して、今日の視察に問題が無ければ、お昼を食べた後に次の村まで移動するらしい。キャンピングカーの速さを理解したのだろう。


 村や街などは、朝出発したら、大体日暮れ前には次の宿泊所がある場所に着くように作られている。馬車などを使えばもっと早いが。野外での野宿が危ない為だ。


 馬車などは、馬ではなく、比較的温厚な魔物を飼い慣らして車を引いてもらっている荷車もある。

 こういった魔物は頭が良く、食事の為に村の外に単独で出しても、自分で戻ってくる。そういう風に生まれた時から調教されているのだ。人間は仲間だと。

 必ず身体のすぐ分かる所に、首輪や飾りがついているから、兵士や冒険者に狩られる心配はない。人間に飼われている時間が長いほど、魔物の瞳の色が黒くなってくる。凶暴性が薄れてくるのだ。

 魔物に襲われても、人間を助けてくれたりする種もいるので、人気だ。


 魔車を引いている人は、商売で成功している人だ。生きた魔物を、生まれながらに調教するには専門の知識が必要だ。魔物は寿命も長く素早い種類も多い。 

 生まれた時から結構食べ物でお金を使うので、成体になれば自分で獲物を取ってくるが、そこまで育てるのに時間も労力も馬よりかかる。

 だから、値段が高く、疲れにくい魔物は商人の憧れなのだ。


 領都や大きい街や町などの周りには、農家や酪農家、肉を作っている農家などが、兵士の見回りや柵で魔物から身を守っている。こんな人達は危険と隣り合わせでも、収入は多い。大きな村みたいになっている。

 ここで商人は食品を手に入れて運んでもいいが、人が集まっている場所から近いから、買ったら少し割高だ。

 そこで、少し離れている村から仕入れる人が出て来る。そこなら、商品を安く仕入れられてたくさん運べるからだ。


 時間停止のマジックバッグやアイテムボックスを持っている商人は、成功者だろう。人が集まっている場所から遠くても、行商しながら、野菜を安く仕入れられて儲けのほうが出る。

 残念ながら、時間停止の物を持っていない人は、日持ちのする物や加工品を仕入れて売るしかない。持っているだけ幸運なのだが。



 朝食が出来たようだ。サーニャがワゴンに乗せて運んできてくれる。もちろんマジックバッグで持って来た物だ。

 出先で家にいる時とさほど変わらない食事は貴重では無いだろうか?フルーツも添えられている。周りに座っている、文官や護衛達は美味しい食事に夢中だ。

 屋敷の料理人と言うだけ腕が良い。大人数を作らないといけないので、作る早さも必要だ。お兄様は良い料理人をつけてくれたらしい。


 美味しい食事に舌鼓をうつ。ノアが一口くれたので、お返しに食べさせてあげる。幸せ。周りの獣人達もした事があるのだろう。完全にスルーだ。

 獣人の領地では珍しくもない。皆一度は通った道だ。新婚の時とかね。


 今回の旅は、中年の人が多いから皆何処か達観している。仕事が出来る人が多いのだ。若い獣人は奥さんと子供と離れるのが可哀想だから連れてこなかったのかな?


 食事が終わればノアは仕事だ。ハグをして送り出す。サーニャさん達が食器を片付けているので、手伝いに行こうとすれば、生活魔法を料理人もサーニャさんも使えるみたいで、食器が瞬く間に綺麗になる。

 屋敷に仕えてる人だもんね。良い所の出か。もちろんそれだけが採用基準ではないのだろうけど、身元確かな者はそれだけで信用があるから有利だ。


 仕事が終わったサーニャさんがどうするか聞いてくる。身体を動かしたかったので、散歩に出ることにした。


 昨日とは違い、畑の作業をしている人をちらほら見る。のんびりした空気だ。サーニャさんと散歩する。

 昨日は見なかった子供なども、作業を手伝っている。かわいい。この世界の農家は水やりと雑草ぬきと堆肥を野菜にしてやれば、後の時間は自由だ。自然が好きな人やのんびりマイペースに作業したい人には、結構良い職業では無いだろうか?1日2食の者もいるだろうけど。


 カルロスさん達は、農村で差別を受けていた。そんな村もあるんだ。そっち方面には、治癒に行くのは最後にしよう。村人怖い。領地の領主の政策が悪いのだろうか?魔物が出たら、兵士か冒険者に依頼すればいいのに。


 昨日と違う村人達を見ながら、興味深く見て散歩するカヨだった。



 散歩が終わったカヨは、料理人を手伝う為にサーニャさんと料理人の元に来ていた。

 料理人は魔道具のコンロを使っていたが、火力調節が出来ないコンロだった。

 カヨは、魔道具屋で売っている業務用の火力調節が出来る魔道具を出して、進呈した。料理人は感動して、新しいおもちゃを貰ったように使っていた。料理を作るのが、好きなんだなと微笑ましく見てしまった。


 料理が出来ないカヨにも、出来る事がある。野菜を切る事だ。たくさんある野菜をサーニャさんと切っていく。マジックバッグがあるので、料理が予定より早く仕上がっても、マジックバッグに入れれば出来立てを食べれる。3人は黙々と料理をしていった。


 程よく疲れた身体を椅子に座って休ませ、料理人さん・パージさんが料理に火を通して作っているところを見る。なんとパージさん、屋敷の副料理長だった。


 なるほど、豪華なメンバーだ。ノアの失敗は無いな。と安心するのだった。

 サーニャさんとみかんを食べてだべる。サーニャさんも私のペースが分かってきたみたいで、だんだん遠慮がなくなって来た。友人のように話す。

 旦那さんと何処で知り合ったのか、子供を育てる時の注意点だとか。


 話しを聞いてると、獣人女性は探してくれる番いに見つけてもらえるように、1年は住んでいる所から動かないんだそうだ。領外に出ている獣人は逆にカーマイン領に来るのだそうな。

 それでも、番いに見つけて貰えなければ、今度は女性の獣人が旅をして、番いを見つけるのだそう。男性も旅に出るけどね。9割9分位は、男性が見つけてくれて夫婦になるようだが、それ以外の人は大変らしい。

 番いが見つからないほとんどの人は、長い旅に出る。20歳までに見つかれば良い方らしい。最悪なのは番いが他の人と結婚してしまっていた場合だ。

 その場合は番いの幸せを祈って、1人で生きていくらしい。子供がいなければ、穏便に奪っちゃう人もいるみたいだが。

 どうやって穏便に奪うのだろう?番いだから、心が惹かれ合うのかな?なにしろ、獣神様の加護がある。なんとかなるのだろう。


 子育ては人族とそんなに変わらないみたいだ。生まれた時から柔らかい耳と尻尾に注意してあげて、よく寝かせて、よくお乳をあげる。獣人は自然が好きだから、散歩もよくするらしい。芝生の上なんかに寝かせてやると、機嫌が良いようだ。想像するだけで可愛い。

 3人も子供がいるなんて、サーニャさんいいなー。旦那さんとらぶらぶなんだろなぁ。


「羨ましい」と呟くと、サーニャさんに笑われた。ノアール様の番いの私に言われると思わなかったみたい。愛情は感じるけど、子供はこの子が初めてだからなぁ。すぽぽーんと子供が生まれたらいいのに。苦しみの果てに〜だもんな。



 視察団が帰って来た。この村は問題なかったようだ。

 ノアにお帰りのハグをして、昼食を食べる。午後からは、次の村に移動だ。先触れは出しているみたいだが。

 昼食美味しい。自分が野菜を切ったからか、ノアの反応が気になる。美味しそうに食べていた。嬉しい。


 ちょっとノアにもたれかかって甘えてみた。ノアは、ん?って顔をしながらも、頭を撫でてくれた。嬉しい。

 もたれるのをやめて、昼食を最後まで食べる。サーニャさんとパージさんが、片付けて、お世話になった村長に挨拶して、キャンピングカーに乗り込む。


 次の村に出発だ!





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