魔物の襲来と虐待された子供
お昼からは、南の村に行ってみる事にした。
村の入り口で、インビジブルを解いて村の中に入る。
村人に村長の場所を聞いて、村長に行商していいか聞く。気持ちよく承諾してくれたので、村長おすすめの場所で商品を広げた。
今日の目玉は、お馴染みビッグウルフの肉、200マル1銅貨。
ちらほら来てくれた村人が宣伝してくれたのか、肉が売れに売れる。肉の在庫が多いので完売にはほど遠いが。
ここでは中古のベッドが売れた。その数、3台。
商品を仕舞い、配達して、古いベッドはアイテムボックスのゴミ箱に捨てる。
村から帰るフリをして、飛行魔法を使いながら魔物を探知するが、大物はいない。領都の隣の村だからだろうか。
領都を飛び越して、最後の村に行く。村の入り口で降りて村に入っていくと、村人達が大きいキモい鳥に襲われていた。
バインドで鳥を縛り、水魔法で水に顔を沈めて殺す。アイテムボックスに仕舞うと、1匹だけじゃなかったので、複数同時にバインドを掛けて水で溺死させる。
鳥の襲来が無くなった所で村人に話しを聞くと、突然集団で襲ってきたそうだ。助けたことにお礼を言われた。
村長の場所を聞くと分からないそうなので、家を聞いた。
村長は家に避難していた。行商をする許可をもらおうとしたら、もう魔物はいないか確認してきた。「いない」と言えば、ホッとしたようで、行商の許可を出してくれた。ちょっと臆病な村長のようだ。
まぁ、この世界、力を持っていなければ臆病な方が生き残りやすいだろう。
風魔法で鳥の羽を片付けて、商品を出していくと、家の中に避難していた人が、外が静かになったので出て来たのだろう。私を見て不思議そうな顔をした。
「行商しています」と言えば「今!?」と驚かれた。そうだよね、魔物の襲撃があった後だものね。
被害にあった村人が、治癒銀貨1枚を見て、家にお金を取りに行った。鳥の爪で抉られた傷を治す為にたくさん人が並んでくれた。
1人ずつ治癒魔法を掛けて、傷を治していく。病気を持っている人もいたので同時に治す。爪に毒などは無かったようだ。不幸中の幸いだ。
この世界で毒を持つ魔物に出会った事がないのに気付く。もしかしたら居ないのかもしれない。人間に毒を盛られた事はあるけど。
傷が治ったら、商品に目がいったらしい。今しがたぼろぼろにされた服を買う村人も居た。
日常生活を思い出したのか、肉を買う人達。たくましいな村人。襲撃の後に行商している私も大概だが。
村人が落ち着いて、商品を見に来る人もいなくなったので、村から帰ることにした。
一応、魔物の襲来があったから、村周辺の見回りだけはしようと思う。
飛行魔法で飛んで、魔物探知をしてみると、鳥達の棲家と思われる崖岩に大きな魔物がいるのに気づく。
何かと思って鑑定してみる。
ーグリフィンー
空を飛び、獣の体を持つ魔物。鋭い嘴と爪で獲物を襲う。肉は美味。
肉は美味か。討伐だな。逃げられたり、転落しないようにバインドを体に掛けて、重さに引きずられ無いように自身に身体強化を掛ける。首から上を水球で包む。
グリフィンは飛ぼうとしているが、バランスが取れない。岩から落ちそうになるが、バインドで体を固定してあるから、大丈夫。
動きが次第に弱まっていく。動かなくなったので、鑑定を掛けると、まだ生きている。死んだふり?知能があるのか?3分位そのままにしていると、完全に死んだ。
グリフィンをアイテムボックスに仕舞い、見回りを続ける。他にはビッグボアが2匹いた。仕留めてアイテムボックスに収納する。
キモい鳥の襲来はグリフィンが原因だったようだ。
キモい鳥をアイテムボックスから出して鑑定してみる。
ーバズラー
岩壁に住む魔物。鋭い爪で獲物を捕え、棲家に連れ帰る。肉はクセがなく美味い。
キモいのに美味いときた。アイテムボックスで解体したらわからないか。
それにしても、村人は攫われる前だったのか。危なかった。
でも棲家にはグリフィンがいたんだから、何処に行く予定だったのだろう?近場に同じような場所があるのだろうか?
カーマインの屋敷に帰る。
ノアの部屋でクリーンを掛けて、食堂に歩いて行く。
ローゼット領での治療は領都以外全て終わった。次は隣の領地だ。
その前にローゼット領とカーマイン領の間の森を魔物がいないか探知した方がいいかもしれない。群れた魔物が多い領地だったから。
食堂に着くと私が最後だった。みんなに挨拶して、席に座る。ノアが遅く来た私を心配している。「魔物を倒してただけ」と言うと、手をぎゅっと握られた。
心配掛けてるなぁ。それでも、気のいい人達を傷つけられたくない。争いは嫌いだけど、放っておいて誰かが傷つく方が嫌なんだ。
私は「大丈夫だよ、元気でしょ」とノアに言って安心してもらう。
みんながそわそわしている。今日はドラゴン肉だ。食事が出て来たので、ノアに給餌する。ノアはパクリと食べて、お返しをくれた。私も食べると満足そうな表情で食事を食べだす。
歯応えがあるが、肉が甘いというか旨味が凝縮されている気がする。ゴ○ラみたいだったけど、美味しい。さすがドラゴン肉。
魔物を倒すのにも、ずいぶんと慣れたなぁと思いつつ、美味しい食事を食べていく。
食事が終わると、ノアの部屋に帰り、抱きついて甘える。ノアは嬉しそうに抱きしめてくれる。良い旦那様だ。
「子供がお腹にいるんだから、危ない事は止めるように」と言われてしまった。誤魔化せなかったか。「はーい」と返事をしつつ、危なくないように魔物を討伐しようと考える。
いつもの儀式をして、ベッドに横になる。頭を撫でられながら、夢の中にいった。魔物討伐は命を刈り取る行為だ。疲れていたんだろう。
いつものように起き出して、食堂で朝食を食べる。大きい目玉焼きが出て来たので、黄身だけ取っておいて白身を食べる。
この世界の玉子は地球の玉子より大きい。
最後に残しておいた黄身を一口で食べる。これが私の食べ方だ。黄身が濃厚で美味しい。
ノアを仕事に送り出して、カーマイン領とローゼット領の間を見て探知をする。魔物の数が少ない。
領境を飛んで見ていると、一定の間隔を開けて村が点在している。装備はばらばらだけど、外に出ている村人は動きが良い。領兵かなと思いつつ見ていく。
この間は気づかなかったなぁ。お兄様の政策かしらと見ていく。ローゼット領が危ないとお兄様達は認識していたってことだよね。
領境を見終わったので、村々に行商をする事にする。
村に入ると主街道から大分外れているからか、警戒された。カーマインの紋章を見せれば、領の支援だと考えたようで場所を貸してくれた。
商品を出していって、いつものように肉も出すけれど食いつきが悪い。兵士が魔物を取ってくるからかな?と思い、傷ついた兵士の人を治していく。大袈裟なくらい喜ばれた。
定期的に来ようと考えた。村人に聞くと、領から給料を貰っているみたいで、自分達が食べる分の野菜しか作っていないらしい。
新品のベッドが3台売れた。こんな場所だから、領が回してくれた行商人からしか物が買えないのだろう。
服や靴を買ってくれる人が結構いた。砂糖と塩は、バンバン売れた。他の調味料が無いか聞かれたので、人気の調味料を店の人に聞いて、買ってこようと思った。
話しを聞いていると、兵士の人が歳をとって働けなくなったら、この村で農業をして暮らすか、街などに行って暮らすか選べるらしい。大体が村に愛着を持ってそのまま暮らすらしいが。
歳をとった兵士が働けなれば、新しい若い兵士が赴任してくるようだ。もちろん番い持ち。
ベッドを配達して、使わないベッドは回収した。
家が欲しいと言う人がいたので、ペイター達の村で手に入れた家を出したら、もっと大きい家が欲しいと言う。
机と椅子を出して、その人に設計図を書いてもらい、それを見て値段を付ける。
見てみると、開拓村で出した家に似ていたので、金貨100枚だと言うと、お金を渡してきた。結構貯めていたみたいだ。まぁ、こんな所にいたらお金は使わないか。
創造魔法で再度、家を出す。家主は大喜びしていた。荷物は自分で片付けると言うので、村を去った。
昼食を屋敷で食べて、お兄様にローゼット領が危ないとわかっていたのか聞くと、昔からあの領は魔物を間引かないらしい。
兵士をあまり出さず、やって来た冒険者などに任すらしい。
流石に大物が出たら兵士を出すらしいが、滅多にないから大方放置されているそうだ。
隣の領地はどうか聞いてみると、ローゼット領を囲んでいる四方の領主は魔物対策をしっかりとしているらしい。だから余計にローゼット領が調子に乗っているのだそうだ。
やっぱりあそこの領主嫌い。村人は好きだけど。
午後からは領都の調味料を売っているお店で、人気の調味料を5種類、たくさん購入して、朝の村に戻った。
女の人達は、とても喜んでくれて、持ってきた入れ物に調味料を入れてあげるのだった。
他1つの村に行き、その日はいい時間になったので、屋敷に帰った。
次の日は、町で治療をする日だったので真面目な治癒師に変身してから役場に行った。
椅子と机を用意してくれてあったので、箱だけ自前のを出した。椅子に座り治療の開始だ。
何故だかしらないが、変身してもお腹が引っ込まない。妊娠してるのが丸わかりだ。
患者さんが「お大事に」と言ってくれる人がいる。
治療に来た人に言われると、何故か恥ずかしい。嬉しいけども。
特別な病気や怪我の人は少なく、身体を鍛えている人の怪我が多い。この領ならではだな。頑張れと思いながら治癒する。
お昼はクリムを食べる。後味がさっぱりしてるから、食べ飽きない。
治療をしていると、小汚い小さい男の子が来た。サーチしてみると、全身に打撲後が出来ている。お金は持っていないみたいだけど、治癒魔法で治療して声を掛ける。
「僕、何で怪我してたのかな?」
ビクッと震えられる。怯えてる?
「誰かに殴られた?」
そうなのだ、打撲後が古いものから新しいものまで、たくさんあった。虐待じゃないか?
「……お父さんに……」
「そうか、辛かったね、私の仕事が終わるまで待っていてくれる?一緒にお父さんの所に行くから」
子供は考えたみたいだけど、コクリと頷いた。1人用のソファを出してあげて、机を近くに置いて、食べ物と飲み物を複数置いてあげる。
「食事して待っていてね」
と子供の身体にクリーンを掛けてあげる。
早く治療が終わるように、目の前に来る患者さんを集中して治していく。人数がそれほど多く無かったから、夕方には終わった。お金の入った箱をアイテムボックスに入れて、果物バスケットを協力してくれた人に配っていく。みんな嬉しそうに受け取ってくれた。
子供に立ち上がってもらい、ソファと机をアイテムボックスにしまう。
子供と手を繋いで、家まで案内してもらう。念の為、子供に結界を張っておく。
10分くらい歩いた所で家に着いたらしい。
扉をノックする。
中からどたどたと大きな足音をたてて、扉が開いた。子供が怯えている。大きな男が出て来た。
「誰だよ、あんた。うちの子供と手なんてつないで。ん?なんだよお前、なんかこぎれいになってねぇか?」
読心をOnにする。
「あなたは、自分の子供に虐待をしていましたね?」
「なんでお前がそんなこと言うんだよ」『俺の子じゃねぇし』
「あなたの子供では無いのですか?」
「お前に関係ねぇよ!」『たまたま一緒になった女の連れ子だ』
「この子のお母さんはどうしてます?」
「いねぇよ」『あの野郎殴ったら、おっ死んじまいやがって、いらない子供も連れてけってんだ』
私は男をバインドで捕まえた。うるさいから口までバインドを掛ける。身体強化して、子供を左手に男を右手に掴んで、兵士の詰所に行く。
「あ、あの……おねえちゃん、だいじょうぶ?」
「大丈夫だよ。ちょっと大人の話しがあるからね」
男を引きずりながら言った。
夕暮れ時に詰所で、子供は男に殴り殺された女の連れ子で虐待を受けていた事を話す。神官の印に誓ったら、本当だと信じてくれて、男を殺人で捕らえてくれた。
子供は孤児院につてがあるからと引き取った。
人通りが無くなった道でルーフバルコニーに瞬間移動して、子供の小さい靴を、足にはまって脱げなくなった靴を無理矢理広げて脱がせる。
光魔法で灯りを灯し、キッチン組が作ってくれた料理をソファに座って、子供と2人で食べる。
子供はずいぶんとお腹が減っていたようだ。ペロリと料理を食べてしまった。子供についてトイレに行かせて、3階に戻る。
子供の服と下着を新しい物に着替えさせて、ベッドで一緒に眠る。
今日だけだからね。ごめんねノア。
夜中に子供が「おかあさん!」と叫んだので、子供を抱きしめて、落ち着かせた。ボウの乳を温かくして子供に飲ませて寝つかせる。
心に傷を負っている子だ。院長に、任せれば大丈夫。
朝、ノアが顔にキスする感触で目が覚めた。目の前にノアがいる。一緒に寝ている子供の説明をしてほしいみたいだ。浮気じゃないよ。本当だよ、落ち着いて。
昨日の事を説明して、今日孤児院に連れて行くと話す。私の頭を撫でて、子供の頭も撫でてくれた。
ノアを仕事に送り出して、子供が起きるまで一緒に寝る。
子供が目を覚ましたら、抱きしめてあげて、新しい靴を履かせる。そのまま朝の準備をして、ダイニングに行き食事を貰う。
子供と2人で朝食を食べてから、孤児院まで手を繋いで歩いていく。
孤児院についたら、子供を預けてフランさんが勉強部屋に連れて行く。私は院長に子供の境遇を話す。
「義理の父に母親を殺されて、虐待されてきた子供です。昨日も夜に母親を呼んで起きました。心に傷を負っています。院長どうか気にかけてあげて下さい。お願いします」
「ここは子供を育てる場所です。立派に育ててみせますよ」
院長は優しく言ってくれた。あの子の未来は明るいだろう。




