始まっていない命
翌日はビッグウルフに襲われた村の隣で行商。
この世界1gの事を1マルと言う。1kgの事は1ラルと言うのだ。地球通販で測りを翻訳して買って初めてわかった。
今日の目玉でビッグウルフの肉を200マル1銅貨で売ってるから、主婦の受けがいい事。アイテムボックスで解体してるから肉の状態もいいからね。肉と毛皮と魔石以外はゴミ箱行き。何食べたかわからんからね。
と言う訳で今日は繁盛しております。村人は普段肉より野菜を食べてるから、肉を食べれる日は逃さない。
魔物肉は1ヶ月は持つから、みんな大量買いしてくれる。なかなか無くならないと思ったビッグウルフの肉が飛ぶように売れる。売れると嬉しくなる。
やっぱり目端のきく主婦が、銀貨1枚で治癒に反応する。それで他の村人に声を掛けて、治療の列が出来る。
みんな普段野菜を食べてるおかげか、怪我はしても身体の調子が良い。悪い人は悪いけどね。
今日は家が1軒売れた。多分あと5軒くらいしか無い。家主と共同で家を片付けたさ。疲れたけどね。何故か掃除は疲れる。私が物を溜め込む性質だからかもしれない。
回収した家はアイテムボックスのゴミ箱行き。ぼろ家だからね。
この世界、農家が作った野菜を商人が買って街などにもっていくから、農家はわりと裕福な人が多い。
さすがに、自分の家の分と税の分しか作って無い人は貧乏だ。
お昼に一旦帰って、次の町へ行く。
ちょっと気分を変えて観光だ。
店を冷やかして行く。カバン屋さんで、バッグを見る。作りが良い物は良い。多分見習いが作っているだろうカバンは作りが甘い。良い物だけ選んで買う。店員さんがちょっとびっくりしてたけど私には鑑定があるからね。誰作か分かるんだ。
大量買いして、店の外へ。私がお金を持ってると思ったチンピラが脅しを掛けてくる。周りは知らんぷりだ。常習犯かもしれない。バインドで捕まえて、身体強化を掛けて兵士の詰所まで引きずっていく。
兵士は細身の私が大人の男を引きずって来たのを目を白黒しながら見ている。
「こいつら恐喝の常習犯」だと伝えて引き渡す。バインドが解けた時に逃げ出そうとした人がいたけれど、すぐにバインドで引き戻す。兵士が体で押さえつけて手を縛っていた。
良い事したと満足して、店を見ていくと古着屋があったのでのぞいていく。1番上は貴族から古着屋に服がくるから、たまに馬鹿に出来ない物があったりする。ん〜、この古着屋はハズレだな。お店を出る。
甘い匂いがする。匂いの元を辿ってケーキ屋さんに着いた。中に入る。いい香り。
匂いで美味しいってわかる。店員さんにおすすめを聞いて大人買いしていく。
中に喫茶スペースがあったので、今食べる物も買う。持ち帰り分はアイテムボックスに入れて、喫茶スペースでお茶を頼む。甘いものを食べるから、無糖のお茶で。
ケーキが運ばれてきたので、フォークで食べる。割高だったけど、おいしい〜!ここは当たりだな。マップにチェックを入れる。
ケーキは美味しいんだけど、チョコを見ないんだよね。確かカカオから作ると凄い大変だから、創造魔法で作るかな。また今度だな。
食べ終わったら、真面目な治癒師に変身して役場に行かないと。人がいない通りで、変身する。手甲を外してアイテムボックスにしまう。紹介状を出して役場に向かう。
役場の1階で紹介状を渡して町長に繋いでもらう。ここまで私の噂は届いているようだ。すぐに会ってくれると言うので、役人さんについていく。
紹介状を読んでくれたそうで、2日お待ち下さいと言われた。了承して帰る。
自宅の玄関に瞬間移動して、変身を解く。
ダイニングに行き、神棚に今日買ってきたケーキを供える。いつもありがとうございます。となむなむ祈ってキッチンに行く。
ダンテにお供えしてあるケーキを食べていいよと言って、お供えしてある分じゃ足りないから、他のケーキも渡す。「何かあったんですか?」と聞かれたので、良いお店を見つけただけと言い、玄関に行き靴を履く。
瞬間移動でノアの部屋に帰ってきて、食堂に歩いて行く。
食堂で子供達が遊んでいたので、中に混じる。
男性陣が帰って来たので、2人を追い立てて椅子に着かせる。
ノアとハグしてから、椅子に座る。食事が出て来た。今日間食したから全部食べられるかな?と思ったけど軽い食事だったので、全部食べれた。
シチューみたいなスープが美味しかったなと考えながら、みんなでリビングに行く。何が無くても家族の時間を大切にするこの家族が好きだ。
子供達をお父様とお兄様に取られながら、ノアとゆっくりする。ちょっと落ち着いた夫婦になったんじゃない?と1人ご満悦になるのだった。
次の日は孤児院に行き、7人いた孤児達に着替えを見繕い、服と靴と下着と靴下を支給していった。
大人は王家主導で作った孤児院だった為か、子供達に向ける目に愛情が少なく感じた。長く運営してもらい、もっと子供達を大事にしてもらいたかった。
準備の2日は孤児院に行き子供達に果物を食べてもらったりして、触れ合った。
治療の日
私はいつものように、変身魔法とインビジブルを掛けて瞬間移動で役場の近くに来た。インビジブルを解いて歩いていく。
歩いていくと、1人の若い青年が私に縋り付いてきた。指輪の結界が反応していないと言う事は、こちらに危害を加えたりしないと判断して青年の話しを聞いた。
2日前に奥さんが出産したのだけれど、子供が死産で奥さんも弱って死んでしまったようだ。助けて欲しいとの話しだった。
私ならどうにかできるかもしれない。けれど今は役場に並んでいる患者さんを治療するのが先だと青年に伝えて、治療が終われば家に行くと約束した。青年の家にマップでチェックを入れて、青年と別れた。
役場に着いて椅子は準備してくれているので、机とお金を入れる箱をアイテムボックスから出して準備する。役人さんに手伝いをお願いして、椅子に座る。お金を払った患者さんから順番に治療をしていく。
お昼になったので、クリムを食べる。
この世界にはガンがないらしい。沢山の人を治療して来たけどもガンの患者さんに出合う事は無かった。死亡原因の多い病がない事は救いかもしれない。
その分、魔物はいるし、家を建てたりするのも人力だ。あたりどころが悪ければ死ぬかもしれない。常に危険とは隣合わせだ。
人が大量に死ぬ菌には出会ったことはないが、弱い菌に罹る人はいるし、幼児さんやお年寄りになれば死ぬ人だっている。
けして死は遠い出来事では無いのだ。
夕方に治療は終わり、手伝ってくれた兵士の人や役人さんに果物バスケットを用意してくばる。お礼を言って、お金の入った箱と机をアイテムボックスにしまって、朝の青年の家まで行く。
家に着いたときは日が陰ってきた時間だ。扉をノックする。中から慌てた音がして扉が開いた。朝の青年だ。
中に入れてもらい、薄暗かったので光魔法で部屋の中を照らした。どこか生臭い匂いがした。
青年に案内されるまま着いて行き、女性が寝ている部屋に来た。男性の話しなら死んでるはずだ。
身震いし、私に彼女が助けられるのか自問自答した。やるしかない。それでも駄目なら仕方ない。
青年にも助けられるかは分からないと言った。青年はそれでも助けて欲しいと言う。
私は女性に手をかざし治癒魔法と蘇生魔法を同時に使った。凄く魔力を消耗する。15分ほどたち、蘇生魔法が消えた。女性の口に手を持って行き、息を確かめる。息をしていた。死後2日経っているから駄目かと思った。
青年に、子供の場所を教えて貰う。子供は部屋の隅の桶の中に居た。凄く小さい。
私は治癒魔法と蘇生魔法を使う。運命神様、メンリル様、助けて下さい。まだ始まってもいない命なんです。運命神様の印が少し温かくなった気がした。
弱い、赤ちゃんの泣き声がした。蘇生魔法が消えた。私は慌てて桶から赤ちゃんを救い出し、首を支えるように持った。
お母さんの所に連れて行き、服を捲り、乳房に赤ちゃんの口をあてた。赤ちゃんが胸に吸い付いた!生きようとしている。私はしらず涙を流した。命とはこんなに尊いものか。
本当はお母さんに支えて欲しいだろうに、私は腕が疲れるまで赤ちゃんを支えた。
赤ちゃんにオムツを付けて、おくるみに包み込み、お母さんの隣に寝かせた。私は青年に女性と子供が死んだ事を何人の人が知っているか確認した。結構たくさんの人が知っていた。
青年にここで暮らして行くのは無理じゃないかと話す。青年はそれでも妻子を助けたかったと言う。別れたくない人はいるか聞く。自分の家は兄弟が居るから大丈夫と言うが、奥さんの家が母親が1人だと言う。
青年に制約魔法を掛けて、この事は秘密にしてもらう。明日また来るから、奥さんと子供を宜しくとお願いする。それまで家から出ずに待っていてと。
果物のバスケットを置く。中にクリムをたくさん入れて。
青年にアイテムボックスから出した食事を取るように言う。初めは食欲がなかったようだが、食べている内にお腹が空いていることに気付いたのだろう。掻き込むように食べた。お代わりを渡して食べてもらう。
事は動き出した。青年に頑張ってもらわないといけないのだ。




