カヨ女伯爵に
しばらくして、王太子殿下からドラゴンの素材を購入する準備ができたと手紙を貰ったので、王宮に行く。
王宮の中の、瞬間移動扉を出した所より広い場所に案内されて、研究者のような格好をした人達が沢山いた。大きな樽や他の容器も準備されていて、あそこに血や内臓を出すのかなと想像する。
遅れて、王太子殿下が現れたので、挨拶をして、薬師達と素材鑑定の人の言う通りに素材を出すように言われる。薬師さんだったのね。
まずは、皮や爪や牙、骨などを出すように言われたので、1匹ずつ出すと素材鑑定の人がざわめきだした。口々に素晴らしいと声を出している。マウンテンドラゴンの素材を出すと歓声が上がる。素材すべてが大きいから「素晴らしい!」と「これの金額はいくらだ」と相談している。
アイテムボックスの中で解体したからか、骨が骨格標本のように出て来てしまった。ちょっとまずいかな?と思ったけれど、素材鑑定の人は関係なく、素晴らしいを連呼している。興奮で不審に思わなかったみたいだ。王太子殿下も感嘆としている。
「これを倒したカヨ夫人は凄いな」
「運が良かったのです」
と無難な言葉で返した。戦闘と言える戦いをしていないからね。この個体に出会えたのは運が良かったから、嘘はついていない。
次は内臓をと言われて、本当はグロいので見たくなかったけど、レッサードラゴンから順番に出した。マウンテンドラゴンの時は、全ての臓器が大きいから、逆にあまりグロく無かったのが救いだ。薬師達が大きさと、処理の素晴らしさに興奮している。
血を出す所で、マウンテンドラゴンの血が多すぎて、入れ物が足りなくなり、慌てて倉庫から入れ物を持って来ていた。
私は血の匂いにうっとして、匂いを通さない結界を張った。王太子殿下は素材の多さや内臓のデカさ血の多さと魔石の大きさに感嘆とされていた。特に魔石を手で撫でられて、立派だと満足そうにされていた。
文官が、素材鑑定師と薬師と相談しながら、価格を決めていった。すべて新鮮で、素晴らしい素材だと言う事で、虹貨2480枚の値段がついた。不要在庫が化けた物である。私はお金を用意してくれた文官にお礼を言って、すべてのお金をアイテムボックスに入れた。
王太子殿下が武勇伝を聞きたいとおっしゃったので、ただ水で顔を覆っただけだと言うと、なんてエグい戦法だとちょっと引かれた。まぁ苦しみが死ぬまで続くと言うのはエグいかも知れない。
また何か大物を取ったら、売ってくれと言われたので、心良く返事して屋敷に帰った。
結婚相談所に通い詰めて、結婚相談所にもマジックバッグが必要だなとコリンにマジックバッグを支給して、日々を過ごしていた頃、ユーリア地方の災害の記憶が薄くなる頃に、王宮から褒賞の授与があるので5月の6週の空の日の14時に来て欲しいと、手紙で連絡があった。
私は地球通販でサクラ色のドレスを買い、準備した。
妊娠3ヶ月で少しお腹がぽっちゃりになって来たけど、そんなにお腹がまだ出ていないので、普通に着られた。
当日、屋敷で昼食を食べた後、着替えた私はゆっくり王宮に向かって歩いた。
門番に手紙と身分証を見せると「話しは伺っております」と案内係の人を呼んでくれた。
案内係の人について行くと、控え室のような所で、女官に身なりを整えられた。謁見の作法を教わった後、お茶を用意してくれたので、飲みながら待っていた。
謁見の準備が出来たので、案内係の人について行くと、大きな扉の前に兵士が2人いて、槍の武器を持っていた。
案内係の人が私の名前を言うと、兵士の人が2人で扉を開けて、私が来た事を高らかに声を出して中に教えていた。
扉を通ると、王都にいる貴族が私の通る道の両脇に立っている。ここからは私1人で、謁見の間に入り、絨毯の色が変わる前に両膝をつき、軽く礼を取った姿のまま宰相か国王陛下の言葉を待った。
「カヨ・カーマイン!面をあげなさい。ユーリア地方の災害で活躍した貴方に、国王陛下からの褒賞があります!」
「カヨ・カーマイン。そなたがいなければ、ユーリア地方の災害に間に合わず、甚大な被害が出た事だろう。災害後の復旧にも多大な貢献をしてくれた。そなたの正しい心を持って、褒賞を出したいと思う。そなたには、伯爵の地位を授ける!今後ともこの国の為に貢献してくれる事を祈る。皆!新しい伯爵の誕生に祝福を!」
貴族が並んだ両脇から、ざわめきと大きな拍手が聞こえてきた。褒賞が伯爵?私が伯爵?何すればいいのさ?分からんが、ありがたく頭を下げる。
謁見の間から去った後、いつもの応接間に案内されて、少し待つと国王陛下と王太子殿下が来られた。爵位を貰った私に指導してくれるらしい。
「勝手に伯爵にして悪かったな。そなたをこの国に縛りつける意味もあるが、気を悪くせんでくれ」
結構ぶっちゃけて言ったな。全然悪く思って無い声だぞ。
「私は伯爵になって何をすればいいのですか?」
「基本は何もせんでいい。年給が1年で虹貨3枚支払われるが、カヨ女伯爵には些細な金額だろう。今まで通りに暮らしていくといい。国に何かあった場合は、助力を請うかもしれんがな。あとは、家紋を決めてもらわなければならない。1月以内に紋章庁に紋章の提出を頼む。絵師が欲しければ融通する事もできる。どうかね?今回の褒賞は」
「なんか、首に紐つけられたようで気分は良くありませんが、私は夫のいるこの国からは出て行きませんよ。カーマインの家族がいるかぎり、そこが私の居場所です」
「余計なことをしたかな?褒賞を考えるのは疲れるわい。カヨ女伯爵以外にも、今回の事で褒賞を渡す者が複数人いたのでな。まあ、この国でこれからも宜しく頼む」
「はい。私はこの国も、そこを納めていらっしゃる王族も好きですよ。1番はカーマインの家族ですが。カーマインの身分証はお返しした方がいいんですか?」
「ほほっ!嬉しい事を言ってくれるわい。身分証は状況によるので、自分の紋章とカーマインの紋章、二つ持っていてもよいぞ。ふさわしい時にふさわしい方を使えばよい。そなたがカーマインの一族である事は間違いでは無いからのう」
「分かりました。そのようにさせていただきます」
そこからは世間話しで、貰ったドラゴンの肉が今まで食べたどんな物より美味しかったことや、ドラゴン素材でいい儲けになった話しなど、色々とお話しさせて貰った。ドラゴンの肉はべた褒めだったので、王族の分だけだが、献上させていただいた。「催促したようで悪いのう」と言っていたが、顔は満面の笑みだった。王太子殿下も嬉しそうだった。
私の為にわざわざ来ていただいたお礼を言い、王宮を後にした。
領地のカーマイン屋敷に帰ってきてからは、ノアが私の格好を見て「可愛い可愛い」と上機嫌だった。ノアはドレスが好きなのか。可愛い所があるじゃないかと思い、付き合っていた。
ノアに女伯爵になった事を報告して、紋章を決めないといけない事を言うと、好きに決めたらいいと言われて、あんまり参考にならなかった。紋章を決めると言われた時にノアが浮かんで、ホワイトオオカミを入れようと考えた。でもそれだけじゃ寂しいから、何かアドバイスが欲しかったんだけど。もう少し悩むことにした。
夕食の席でカーマインの家族にユーリア地方の褒賞で、伯爵位を貰ったと報告すれば「これは、めでたい!」「凄い事だぞ」とお父様とお兄様に言われた。そんな凄いかなあ?と思ってたんだけど、1代で伯爵を貰えるのは凄い事らしい。普通は男爵から始まるからだって。それじゃあ、寒くて1人で震えたかいがあるってもんだ。私のお腹の子は強いなあ。毒にも寒さにも負けない強い子だ。ママ嬉しいよ。
カーマイン家がお祭りムードの中、ノアの立場はどうなるか気になった。お兄様に聞いてみると、今と同じでいいとの事。領地持ち貴族じゃないから、自分の爵位以上の人に雇われるなら、何の問題もないとの事。このままここにいれるならいい事だよね。
自宅のみんなに「伯爵になった」と言うと、驚かれた。普通の人の借金奴隷と伯爵の借金奴隷は全く違うと言われて、そういやご祝儀だしてないやと、みんなに金貨50枚ずつあげた。歓声を上げて喜んでくれた。
結婚相談所は、めでたく1組目のカップルが出来た。サヤちゃんとコリンだ。
コリンはサヤちゃんに、自分は借金奴隷だからいい暮らしをさせてあげれない。主人は結婚してもいいと言ってくれているが、自分が情けなくて結婚出来ないとサヤちゃんに言ったらしい。
サヤちゃんはコリンに「私が嫌い?」と尋ねたそうで「嫌いじゃない好きだ」と言われた事で逆プロポーズしたらしい。2人で泣いて結婚を決意したようだ。
親御さんは、娘に苦労させたく無いと反対したそうだが、サヤちゃんは「私からプロポーズしたの!」と結婚を押し切った。
教会での結婚で私はサヤちゃんにドレスをプレゼントして着てもらった。親御さんも教会に一緒に来て、結婚を見守った。私とノアとの結婚とはまた違い、神の光がコリンとサヤちゃんの周りを踊っているみたいだった。綺麗な結婚の儀式だった。2人共左胸の上についた結婚の印を見て、抱き合いながら泣いた。親御さんはもらい泣きしていた。写真で2人とご家族との写真を2枚撮り、後日プリントして渡すことにした。
コリンの部屋をシングルベッドから、クイーンサイズのベッドに変えてクローゼットも、もう1つ置いた。この家は防音はバッチリなので2人部屋にしても問題無い。今日から2人の新居だ。
結婚祝いにプラチナ貨1枚渡した。2人共喜んでいた。サヤちゃんは我が家でダンテに料理を教わる事になった。教えを請う立場なのと、食と住を与えているので、1月金貨10枚で雇う事になった。腕が上達したらお給料を上げる予定だ。
2人でお金を貯めてコリンを借金奴隷から解放するらしい。金貨600枚なので、頑張ってもらいたい。子供が出来る方が早い気がするが。




