ユーリア地方の危機 2
瞬間移動扉をくぐると、そこにも門番がいた。予定に無い利用だったから警戒されるが、神官の印を見せて、神託があった事を言うと、引き下がってくれた。
私は倉庫のような建物を出て、空を飛ぶ。下が騒ついたが気にしている暇はない。高い所まで飛ぶ。
私は瞬間移動の可能性を信じてみる事にした。私が行った場所しか移動出来ないが、目で見えている所なら瞬間移動出来るんじゃないかと思った。なるべく高く飛び、遠くの山を見て瞬間移動する。
周りを見渡す。成功だ!これで時間を短縮できる。少し寒いが、まだ遠くに見える山に目を向けて瞬間移動する。行ける!私はユーリア地方まで、瞬間移動を繰り返した。
ー王宮ー
「陛下!あんな小娘にユーリア地方の命運を賭けて良かったのですか!?」
「その小娘が、神官の印を持ち、神託を持って来た本人であってもか?」
大臣達がざわついた。こんな近くに神官が来ていたなんて、前代未聞だ。普通、神託は神官が受けるが、それを持って王宮に届けるのは別の者だ。
「静まれ!事はもう動きだしたのだ!彼女がユーリア地方に着いたら、民達の避難が始まるだろう!それを先導する者がいなければ混乱する!次は民達の安全な避難先や食料を準備しなければならない!ユーリア地方の領都に手紙を送るぞ!王都からも支援しなければいけなくなるだろう。各大臣はその対策を考えることとする!」
「ははっ!」
大臣達は口々に対策を考えるのだった。
ーカヨを送った兵士達ー
「行ったな」
「ああ、行ってしまわれた」
「神官様なのはわかっていたけれど、カーマインの身分証を出されるとは思わなかった」
「お前達、知ってたか?カーマインに神官がいるって?」
「いや、知らなかった。最近で神官と言えば、神官の銀貨1枚治癒師だろ」
「だよな。でも、国王陛下と普通に話しをされていたよな?」
「公爵家だからじゃないか?」
「カーマインといえば獣人だろ?」
「若かったから、最近カーマインの誰かと結婚したんじゃないか?彼女、人族だし」
「そういや、噂で銀貨1枚治癒師も獣人との間に子供が出来たとか聞いたけど」
「最近獣人と結婚するのが神官で流行ってるのか?」
「そういや、移動してる時、普通に飛んだからびっくりしたなぁ」
「飛行魔法なんて本当に合ったんだな!」
「会議の時も飛んで行くって言ってたし、比喩じゃなかったのかもな」
「無事に帰って来るといいな」
「無事に帰ってくるさ!瞬間移動扉を繋げなきゃいけないんだからさ」
「そうだな。俺たちも準備しないと」
「帰るか」
「ああ」
兵士達は真実にちょっと近づいたが、気がつく事はなかった。
その頃、カヨはダウンジャケットを地球通販で買って着込んでいた。空の上は思った以上に寒く、カヨの体温を奪っていた。唇を震わせながら、瞬間移動を繰り返していた。
「何でこんなに寒いのよ〜」
領地1つ分の移動だ。先は長い。ひたすら寒さと戦い瞬間移動していた。
ーカヨがいなくなったカーマイン領の食堂ー
「今、カヨさん消える時、いつもと違わなかった?」
「ええ、何か光ってましたわ」
「何か問題かしら?」
「でもカヨさんが瞬間移動してしまえば、誰も追いつけませんわ」
「何かあったなら、ノアに念話があるわよね?」
「そうですわね。お母様、待ちましょう」
「そうねぇ」
カーマイン家の人達はのんびりしていた。だって原因が分からないからだ。昼食にノアが来るまでゆっくりしていた。
10時頃、カヨはやっと地図のユーリア地方に来ていたが、地方と言うだけ範囲が広い。カヨは困っていた。
「一度瞬間移動扉を設置してみる?それしかないよね」
何処にセットするかだ。誰かの家にいきなりセットしたらその人が困るだろう。こういう時の役場だ。カヨは役場にセットさせてもらう事にした。
カヨは寒い空から下りるが、すぐには体温が上がらない。そのままの不信な格好で役場に行った。
役場の職員に神官の印を見せて信用してもらい、壁に瞬間移動扉を付けさせてもらった。扉から王宮にセットしてある扉に行く。兵士は早く戻って来たカヨに驚いた。けして、変な格好に驚いたわけじゃない。
「すみません、ユーリア地方のどの辺りか分からないんですよね。誰か分かりそうな人、呼んでもらえますか?」
カヨは兵士に頼った。情け無いが仕方ないのだ。
ユーリア地方の地図を文官らしき人が持って来た。陛下のお言葉と一緒に。
「陛下は何処で起こるかわからないので、手当たり次第、兵士を送りこんで、明日の朝に一斉に住民に避難してもらうそうです」
「分かりました。ではこちらに来てもらう兵士の準備をしてもらえますか?」
こうしてカヨはユーリア地方の役場をはしごして行くことになるのだった。
お昼にノアに念話したのだが、危険な事をしているとバレて頭の中がノアの心配する声でうめられてしまうのだった。
家に食事に帰っては、ユーリア地方に来れないと思ったカヨは自前のサンドイッチとクリムでお腹を満たすのだった。
何とか夜迄に兵士を送り届けて、そこら辺で異空間住居を開けて中に入り、クリムを齧りながら念話でノアの相手をしていた。ノアを宥め終わったら、どうにかして場所を特定出来ないか考えた。
カヨは思いついた!未来予知なら出来るんじゃない?創造魔法で未来予知を造った。
実際に未来予知してみると、凄い魔力が使われていることに気づく。大丈夫かなこれと思った時に神託の映像に近い場所が頭に浮かんだ。今日行ったどこか思い出そうとした。なんとなく分かった所で映像が途切れた。
全身汗だくだ。クリーンを自身と部屋に掛けて、ベッドに横になる。凄い疲れがどっときた。未来予知は多様出来ない事がわかった。体力と精神力が凄く使われる。カヨはそのまま気絶するように眠った。
前日の疲れが溜まっていたカヨは9時頃に目が覚めた。慌てて起きて朝の準備をし、異空間住居から外に出た。昨日、予知した場所まで行くのだ。飛行魔法で空を飛ぶ。ダウンジャケットを着込んで、瞬間移動していく。
10時前に着いた。ほとんどの人はもう避難している。まだいる兵士に声を掛けて、多分ここが神託の場所だと伝える。早く避難するように言って、辺り一帯に探知魔法を使う。まだ建物の中に人がいる所があるのでそこに向かう。
足を動かせ無い人がいた。治癒魔法で治して、おにぎりを渡して避難するように言う。歩けるようになった老人はそのまま避難した。他にも居るので探知した場所に向かう。
ストリートチルドレンみたいな子供がいた。カリオンの孤児院に連れて行き、院長にお願いした。
生活弱者が取り残されている。1人でも多く救う為に時間いっぱいまで治癒魔法を掛けたり、避難を呼びかけたりした。
時間がお昼になって来たので、氷魔法を創造して、飛行魔法で飛び、海の上でクリムを食べながら津波が来るのを待った。
13時頃に大きな、とても大きな津波が来た。想像以上だ。身体の全身に魔力をみなぎらせる。
自分から津波に向かって行き、氷魔法を魔力を出せるだけ出して津波に向けて放つ。放った場所から氷付いていくが、まだまだだ。どんどん氷魔法を放つ。町に来るまでがタイムリミットだ。
もうダメだと思い上に、空に逃げる。
津波が凄い勢いで建物を押し流して行く。大部分は守れたが、守れなかった場所が出た。ただ空から眺めるしか無い。津波は1度だけでは無く何度も来た。そのたびに氷魔法を放っていく。海に波のオブジェがたくさんできた。
波がゆるやかになってきたのは、日が沈む頃だ。今日も疲れた。この近くで休もう。
少し高い場所に行き、異空間住居を開けて中に入る。リビングでスポドリを飲んで、クリムを食べる。
ノアに『終わったよ』と念話する。『帰っておいで』と優しい声がする。『まだ片付けがあるの』と『ノア愛してるよ』と頭の中で言った。愛してると言うのは初めてだった。でも思ったのだ、日常の儚さを。昨日まで住んでいた家がもう無い事を。今言わなくていつ言うんだろう。心が弱っていた。
私は出来るだけの事をした。胸を張って言える。
だが、想い出と共に流されてしまったものがたしかにある。神託は届いた。神は我が子を救った。これで満足しないといけないんだ。兵士の人も頑張った。町の人も未練を残しながら去って行った。
今日は眠ろう。明日には元気になっているから。
ノアおやすみ。
 




